表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/42

26話 愚者の逆恨み

 学校に行くと校門前でマイクを向けられた。


 チッ。マスコミか。


「君たち。下徳の生徒だよね。新魔教団に高校が襲われたけど、どんな気持ちかな?」


 カメラも向けやがって。

 俺は別にいいが、城井は人見知りだし、こういうのが好きではないだろう。


 少し警告しておくか。


「俺はいいが、彼女は撮るな」

「うんうん。その辺は当然配慮するから。で、どうなの? 母校が襲われたけど、警備体制に不満とかさ」


 あー。なるほどな。


 こいつらの目的は学校を非難することだ。

 俺たち生徒から文句を言わせて、学校非難をしたいのだろう。


 なぜ非難させるかはマスコミの習性としか言いようがない。

 あいつら人の不幸にだけは敏感なんだ。


 こんな茶番、バカ正直に付き合ってやる必要はない。


「俺たち急いでいるんで……」

「君ぃ。いい体しているけど、冒険科の生徒でしょ。君らのせいで周りの生徒が迷惑している自覚ないの?」

「……それだけですか。それでは」


 こいつ。俺を煽ってきやがった。


 今の俺にはそんな低俗な煽りなんて通用しない。


「『白の珈琲』に迷惑とかしていないの?」

「は?」

「だって、君らが風評被害を受けるのは彼らの職務怠慢が原因だよね。そこの所どう思うの?」


 『白の珈琲』を絡めて来やがった。


「迷惑? 先輩たちは何一つ悪くない。全部、新魔教団っつうテロリストどもが悪いだろ。お前の想像で物を語るな!」

「ひ、久木くん。早くいこ。こんなの相手しても意味ないよ」

「そうだな」

「チッ」


 カメラを向けられるのはあまりいい気分じゃない。


 これ以上、感情を込めて喋ると先輩たちの名誉が傷つく。

 止められなかったら、品位に欠ける言葉を並べてしまっていたな。


 マスコミを無視しながら、校舎の中に入った。


 ――――――


 職員室は電話対応やらで先生たちが忙しそうにしていた。


 担任のカノちゃん先生も今電話対応が終わったみたいだ。


「おう。久木か。どうした?」

「七等級変異のダンジョンを攻略したので、魔石の提出。あと、東京に遠征するのでその手続きをと」

「いいじゃねえか。帝東ていとう西高校の方には連絡を入れておく。この辺りはマスコミもいるから普通科棟の方から回って帰れ」


 これで東京遠征が可能になった。


「くれぐれも、死ぬんじゃねえぞ」

「はい」


 一週間前ぐらいだったら、この言葉をただダンジョンの外で死ぬんじゃないと解釈していた。

 

 俺たち冒険科の人間はダンジョンで死ぬことも仕事だ。

 みんな、そんな考えで実力に合っていないダンジョンに飛び込んでいく。


 パーティーメンバーの全員がそれを理解し、命を捨てる。


 俺だってそうだった。


 ただ、今の俺には城井がいる。

 魔法科の人間でダンジョンに行こうとする奴はそれほど多くはない。


 いくら生き返れるといっても死ぬという感覚は苦しい。

 死ぬことに慣れなくて、冒険科の人間すら辞めてしまうほどだ。


 城井は死ぬ覚悟はしているだろうが、一度死ねばかなり辛い思いをするはずだ。


 だから、俺たちはダンジョン内でも外でも死なない。


 俺の勝手な目標の一つだが、力を制御できる今ならそれが可能なはずだ。


「じゃ、要件は終わりか? 東京遠征するなら、宿泊とかちゃんと計画を立てないと大変な事になるからな」

「はい。分かりました」


 宿泊とかは全部城井が手配してくれると言っていた。


 こういう雑用を押し付けてしまうのは申し訳ないが、俺はそういうのはあまり得意ではない。城井は「全然、いいよ」って言ってくれていたが、申し訳ない。


 職員室を出て学校から出て行こうとした所で、嫌な奴らが道を塞ぐように立っていた。


「先輩。何の用ですか?」


 『鋼鉄の爪』のリーダーのハゲと城井をイジメていた女が立っていた。


「この前はよくやってくれたな。お前のせいでダンジョン攻略が出来なくなった。お前のせいだぞ」

「は? それは疲れているだけですよ。少し休憩した方がいいのでは?」


 チッ。

 面倒な言いがかりだな。


 ここはなるべく穏便に済ませたい。


 このハゲは怖くとも何ともない。

 問題はあの城井をイジメていた女だ。


 城井は精神的な成長をしている最中だが、まだイジメた本人と対面するのは好ましくない。


「決闘をしろ。俺が勝ったらお前()俺の手下となって働け」


 決闘……か。


 一対一(タイマン)なら問題はない。

 殴っていい理由があれば、このハゲを倒すことなんて難しいことじゃない。


「いいですよ。ただ、俺が勝ったら……そこの女も含めて俺たちと接触するのを禁止でいいですよね」

「きゃー! 久木くんがツンデレてる。可愛いなぁ! 由香里ィ! てめえはズタズタのボロボロにしてやるからな」


 あの女。やっぱりどこか精神に異常があるな。


 こんな様子じゃ、城井が怖がって……


「佐藤さん。私()()は負けないよ」


 城井の奴。俺の前に出てそう言い放った。


 俺が思っていたよりも城井は成長している。

 嬉しい誤算だな。


「体育館でパーティー戦。これでいいな」

「パーティー戦? 人数の差がありますよね。リーダーの一騎打ちじゃないと俺は受けませんよ」


 パーティーで戦うなんて不公平だ。

 俺たちは二人しかいないのにあっちは四人パーティー。それだけでも不平を言える。


 仮に四人同時に戦ったとしても俺が負けるなんて考えてはいないが、城井がいると話が変わってくる。


 あの佐藤とか言った魔法使い。あいつの火魔法は高火力かつ広範囲だ。

 正直、服が焼けるし受けたくない。だが、城井を狙われると俺が庇うしかなくなる。


 だから、城井までいる条件で決闘をしたくない。


「安心しろ! 今、『鋼鉄の爪』には二人しかいない。お前のせいで残りの二人は抜けてしまったからな!」

「クソ。面倒だな。こっちは決闘なんて受けなくてもいいんだぞ」


 ああ。あの先輩たち抜けてしまったのか。

 まあ仕方がない。あんなすぐキレる奴なんて相手にしたくないよな。


 パーティーのリーダーには仲間を追放する権利と辞めさせない権利があるが、そこまで強制力を持っている訳じゃない

 いくらあのハゲでも同級生にまで強気に出る勇気はなかったみたいだ。


 ただ、いくら数が同じでもパーティー戦なんてやってやる必要はない。


「もしかして、私を殴りたくないから気遣ってくれているのー!? 優しい。ツンデレ久木くん優しいねー」

「久木くんは渡さない」


 こっちに向かってきた女を城井が止めた。


「由香里ィ! てめえは黙ってろ!」

「黙らないしどかないよ」

「クソビッチが!」


 あいつ、拳を振り上げやがった。


「言ってなかったけど。実家の関係でちょっとした護身術やってたの。素人の攻撃だったら、怖くともなんともないよ」


 おお。腕を抑えて攻撃の初動を封じた。


「佐藤さんは人を殴ったことないでしょ。動きで分かるよ。ちょっと怖い所もあるけど、暴力なんて絶対に振るわなかったのになんでこうなっちゃったの?」


 俺が初めて見た時は、保健室に行くことを妨害するなんて常人じゃあ考えられない行動をしていて正常とは言えなかったが、元はあんなんじゃなかったのか。


「……てめえに分かるかよ。とにかく! 久木くんから離れろ! ちんけな魔法しか使えないくせに!」

「久木くん。決闘受けよう。佐藤さんは私が相手をするから」


 ――攻撃魔法を使えないのに勝てるのか?


 そんな野暮な事は聞かない。


「分かった。パーティー戦。全員が戦闘不能もしくは降参したら負けな」

「ぶっ殺してやる!」


 ちょっとだけ城井が心配だが、東京に行く前に面倒な過去を清算しておくか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ