表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/42

25話 混沌の黒

 一等級装備、混沌の黒(カオスブラック)の能力は使用者の技量に左右されるものになっている。


 攻撃をした回数に応じて、力をチャージし、貯めた力を指定した属性で相手に攻撃するというものだ。


 つまり、たくさん殴ればその分、力を開放したときの威力が高まる。


 ただ、手袋なせいでかなり至近距離で戦わないといけなくなるのがネックだな。


 ゆっくりオークに近づく。

 オークが棍棒を振り下ろした。


 武器への攻撃もチャージの対象になる。


 躱せる場所まで移動してから、棍棒の横腹を軽く叩く。


 そして、大振りな攻撃をしてきたオークの懐に潜り、軽く連打した。


「ブヒィィ」


 少し力が入り過ぎた。


 オークがダメージを負って後ろに下がってしまった。


 混沌の黒(カオスブラック)は攻撃の回数のみが適用されて、威力は関係ない。

 今回は戦闘訓練も兼ねているから、なるべく力押しじゃなくて技を多用してから勝ちたい。


 オークから溢れ出ている変な液体を触ってしまったが、流石は一等級装備。なんともない。


 佐月先輩が使っていたほどの装備だから、かなりの耐久力がある。

 ただ、下手に打撃を撃つと液体が飛び散って服に掛かってしまった。


 たった数滴だったが、液体が触れた部分は煙を出して溶けていった。

 少量で服に穴が開くほど強力ではないが、服が傷むしあまり触れたくはない。


 やはり、あの液体で素手で触らなくてよかった。


 今の俺は炎でも耐えてしまう耐久力を持っているが、服がボロボロになるとダンジョンを出てから困る。


 オークは下がった後、大振りな攻撃はダメだと学習したのか、棍棒を使わず素手による攻撃をしてきた。


 知ってか知らずか、体を動かす事によって消化液をまき散らしている。


 ただ、こういう状況だとある武術が役に立つ。


 装備的にもこの戦い方はかなり相性がいい。


 ()()使()()()()()技とかはあまり使いたくはないのだが。

 まあいい、せいぜい俺の糧になってくれ。


 両腕を上げて構える。


 そう、ボクシングだ。


 一応、佐月先輩もボクシングに似た動きをやっている時があるが、今回真似たのは散々俺をボコってくれたあの新魔教団大幹部サマの動きだ。


 やはり、間近で見た動きの方がコピーしやすい。


 オークの攻撃を避けて、すぐに反撃をする。

 それをひたすら繰り返す。所謂いわゆる、ヒットアンドアウェイ戦法だ。


 威力は抑えているからそこまでのダメージはないだろう。


 だが、混沌の黒(カオスブラック)に力がチャージされている。


「よし、もっと考えてみろ」


 オークはこのままだと勝てないことを悟り、行動を変えて来た。


 それでオークがしてきたのはただの突進だった。

 だが、バカみたいに向かっている訳じゃなくて、腹部を揺らし動き、消化液を振りまいていた。


 普通の突進ならば、横に避けて通り過ぎる前に打撃を加えていくというやり方で攻略しようと思っていたが、それを封じて来た。


 なかなか、面白いことをやってくれるな。


 さて、どうしたものか……


 あいつの頭上がら空きだな。


 ジャンプをしてオークの頭を掴んだ。


 腕一本で逆立ちするとバランスを取るのが難しい。

 バランスは要改善ポイントだな。今回は強引に力に頼ってバランスを保った。


 俺が突然消えたように見えたのかオークは立ち止まって辺りを見渡した。


 これ以上は流石に可哀そうだな。


 オークの背後に着地し、手を触れた。


「チャージ開放。電気。おまけに拒絶の大盾」


 チャージした力を電気として放出し、最短の打撃である拒絶の大盾を打ち込んだ。


 オークは感電しながら吹っ飛び、壁に丸焦げになった状態で張り付いた。

 あの消化液はなんとなく電気を通しそうだなと思ったが案の定、電気の通りが良かったみたいだ。


 拒絶の大盾も綺麗に決まった。

 ああやって綺麗に吹っ飛んでくれると気持ちがいいな。


 オークはそのまま倒れて消えていった。


「ふう。時間切れか」


 憤怒第三開放の制限時間は五分あるかないかだったが、今回は十分以上保った。


 体の成長もあるが、やはり制御ができたことで力の緩急をつけれらことが大きいだろう。


 メンタルも問題なし。

 かなりいい感じだ。


「魔石取ってきたよ」

「よし、これで第三開放が切り札じゃなくなった」


 《憤怒第三開放》は今まで暴走してしまうせいで切り札扱いだったが、制御が可能になった今は打てる手の一つになった。


 ダンジョンマスターと戦ったりする時だけ使う方針で行けば、一等級ダンジョンでも通用するはずだ。

 だって、あの状態の俺は先輩たちから一等級のダンジョンマスターよりも強いと言われたからな。


「もう、私が要らなくなっちゃうかもね……」


 急に暗いこと言い始めた。いくら暴走を制御する事が可能になっても、あの状態になるには未だに城井の存在が必要だ。


 まあ、もし仮に俺が完全に暴走を制御できるようになったとしても、俺は城井といたいからパーティーを解散したりはしない。

 だが、そんなことは恥ずかしくて言えない。


「そんなことはない。城井は俺に必要な存在だ」


 少し照れくさいが、これが俺の本心だ。


「ありがと。私も久木くんがいないと生きていけない」

「嬉しいこと言ってくれるな」


 ここまで言われると()()()()()嬉しい限りだな。


「じゃあ、ダンジョンを出ようか」

「うん!」


 ダンジョンを出てから、俺たちはある問題に直面した。


「この魔石。どうするの? 学校はあれだし……」


 そう、この魔石の扱いだ。


 学校は今休校中で、提出することは出来ない。


 今は先生たちも大忙しだろうし、直接聞くのは気が引けるな。


 こんな時は都合のいい奴に聞くか。


 電話を掛けた。


「もしもし、久木だけど」

『おおっ。カズキっち。どうしたの? そっちから掛けてくるなんて珍しい』


 クラスでよく絡んでいる奴といえば、洋介ぐらいしかいない。


 こいつは持ち前の明るさで上級生含めて友達が多い。こいつなら何か情報を持っているかもしれない。だから、連絡した。


「魔石をどうすればいいか知りたくてな。ほら、休校しているだろ」

『ああ、それならカノちゃん先生が普通に受け取ってくれるんだってさ』

「分かった。助かる」


 あの先生。忙しいはずなのによくやってくれるな。


『話は変わるけどさ、帝東の生徒会長が来てたんだってな。ちらっと見たけど、めっちゃ可愛かったぜ。まさに高嶺の花。カズキっちにもみせてやりたかったぜ』

「美祢の事か。確かにあいつは可愛かったな。魔法も異能もかなり強かった。おそらく、日本でもトップクラスの魔法使いだな」

『もう名前呼びかよ。流石イケメン! でも、それ間違っても彼女ちゃんの前で言っちゃ駄目だぜ。ぜってぇ拗ねるから』

「ん? まあ、気を付ける」

『元気そうでよかった。じゃあなー。また、学校で会えるのを楽しみにしているぜ』

「ああ。急に連絡して悪かったな」


 電話を切った。

 洋介の方もかなり元気そうにしていた。


 死傷者、重傷者がいなかったから、仮に被害を受けても怪我ぐらいならなんとかなるだろうな。


「学校で魔石の回収をやっているらしいから行くか。おい。大丈夫か?」

「……えっ。あ。うん。大丈夫だよ。あ、あの。美祢ちゃんって誰なのかな?」


 洋介は絶対に話すなと言っていたが、別にやましい関係ではないし話していいだろう。


「帝東西高校の生徒会長で、同級生だ。すごいしっかりした奴で、魔法使いとしても一流。色々、すごい奴だ」

「お、男の人かな?」

「いや、女だが」


 城井が唐突に俺の腕を掴んだ。


「どうした?」

「私、久木くんがいないとダメだから。その」


 ああ、魔法使いとして比べられていると思っているな。


 確かに美祢は魔法使いとして一流だが、城井の代わりになるような人間じゃない。


「安心しろ。どんなことになっても城井を追放することはない」


 仮に、俺の暴走を制御できる誰かが現れて、それが城井の上位互換だったとしても俺は城井をパーティーから外す気はない。


「う。うん。ありがとう。ごめんね。こんなしつこい女で……」

「しつこい?」


 最後はよく分からなかったが、城井も落ち着いたみたいだし、魔石の提出に行くことにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ