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24話 暴走制御

 一日寝て起きたら、体が動くようになっていた。


 医者からは「驚異的な回復」と驚かれたが、元々体の治りはいい方だ。

 骨が折れたりしていたら、もう少し時間が掛かっただろうが、折れていなければそんなに時間は掛からない。


 二日の睡眠と牛乳と小魚のカルシウムで治ってくれた。


「これからどうするか決めないとな」


 昨日、ユウが帰った後に今後について話し合った。


「五等級になったから、行けるダンジョンも少ないね」


 電子生徒手帳に俺たちのパーティーが五等級に格上げされたことが通知されていた。

 学校が大変な中でもちゃんと処理してくれたみたいだ。


 ただ、下徳周辺のダンジョンは数は多いが、高い等級のダンジョンは出現しにくい傾向がある。五等級ダンジョンも周辺に二、三個しかない。


 四等級以上のダンジョンはたまに出現するぐらいだ。


 十等級の時にダンジョンをハシゴして回ったが、これからはそんなことは出来ない。


 次の等級に上がるには明確な数は指定されていないが、パーティーと同じランクのダンジョンをいくつか攻略しないといけない。

 下徳にいたら、それを達成するのにかなりの時間を使う羽目になる。


 別に普通に攻略していって、ゆっくり等級を上げていくというのもいい。むしろそれが普通なのだが、あまりのんびりはしていられない。

 俺たちには二か月という期限がある。


 それまでに最低でも美祢と同じ等級である三等級にならなければならない。


 今のままでも間に合うには間に合うが、新魔教団の警戒をしながらダンジョンを巡るとなると精神的に辛い。


「だから、東京に行こうと思う」

「東京?」

「ああ、東京は数も等級も高いダンジョンが多い。ここで一気に等級を上げたい」


 東京はここら辺とは桁違いでダンジョンが出現する。


 一等級や二等級のダンジョンも数か月に一回は出現するし、三等級のダンジョンは常にあると言っても過言じゃない。


「でも、大丈夫かな。急に身の丈に合わないダンジョンに行っても。あっ。久木くんは全然大丈夫だと思うけど、私が足手まといになっちゃうよ」


 城井の心配も分かる。

 俺が素の状態だったら、人間を相手にしても負けてしまう時がある。


 七等級以上の魔物を相手にすればすぐに死んでしまうだろう。


 制御可能な《憤怒第一開放》ではせいぜい五等級までが関の山だ。

 なら、なんでそんなに強気な攻略戦略が立てられたのには理由がある。


「多分、《憤怒第三開放》まで制御できる」


 昨日、最終形態である《憤怒第五開放》を開放してから、なんだか第三までなら制御できる気がし始めた。

 実際にやってみたいと分からないが、そんな気がする。


 あれだけ夢の中で啖呵たんかを切っておきながら、制御できなかった第五開放で暴走したことでイライラの扱い方が分かった気がする。

 最大値を知った事と、何度も暴走を自力で止めようと足掻いた結果、できるようになった気がする。


 ただ、気がするだけで東京に行くのは危険だ。一応、練習する場所が欲しい。


「ちょっと、病院の近くにあるダンジョンで腕試しがしたい」

「この七等級()()のダンジョンだね。いいと思うよ」


 ダンジョンは時々、変異を起こす。

 この変異が起こるとダンジョンの入り口が真っ赤に染まる。当然それだけではなく、内部の魔物が三等級ほど強くなった状態で現れる。


 そして、採れる魔石も三等級分上がる。


 つまり、七等級変異のダンジョンは実質四等級のダンジョンと同じ扱いをされる。


 違う点としては変異してもダンジョンの階層は変わらない点だ。


 その関係で階層数が極端に増える二等級以上のダンジョンを攻略する時は五等級変異だったり四等級変異を攻略した方が楽だと言われている。


 今回は純粋な腕試しが目的だし、階層がどうこうだのは気にしない。


 ――――――


 ダンジョンの中に入った。


「じゃあ、いくよ。《憤怒第三開放》」


 視界の端を黒いもやが覆った。


 目を開けると、すべてを壊したい気持ちが溢れ出て来たが、理性で抑え込んだ。


 よし。急に暴れたりすることはないな。


「城井。手を出してくれ」

「どうしたの?」


 疑問を抱きつつも、城井は手を出してくれた。


 俺はその手を掴んだ。


「痛くないか」

「えっ。うん。痛くないよ」


 城井の華奢な手も優しく握れる。

 これで、完全に力を制御していると言えるな。


「……これで、いい。かな?」


 城井が手の握り方を変えさせて、俗に恋人握りと呼ばれる方法にしてきた。


「ああ。こっちの方が繊細なコントロールを試せる」

「じゃ、じゃあ。これはどうかな?」


 城井は更に密着してきた。


 む、胸が当たっているが。気にしたらダメだ。

 これは城井が、俺の力のコントロールを試す為に覚悟を決めて自分の身をささげてくれているだけだ。


 決して深い意味はないはずだ。


「じゃあ、行こうか」


 進んでいくと、剣を構えたボブゴブリンが現れた。

 変異していない七等級と魔物に見えるが、目が赤く光っているし、剣をしっかり構えている。普通だったら素人同然の構えしかしていなかった。


 ゴブリンたちが向かってきた。


 上段からの振り下ろし。


 見てから対応することも出来るが、今回は先読みを使って相手を動きを予測してから剣を掴んだ。


 そして、剣を掴んでからすぐに蹴りを放った。


 第三開放をした俺の蹴りはゴブリンの体を軽く吹っ飛ばし、遠くの壁で肉がぐちゃぐちゃになる音を反射させた。


「流石、久木くん。強いね」


 城井が更に体を寄せて来た。

 あのな。ちょっとは異性として意識して欲しいものなのだが……まあいい。


 城井はすごいと言ってくれたが、俺は少し不服だった。


 ボブゴブリンは人間とほとんど同じ背丈をしている。それを利用して、人間なら肝臓がある部位を狙って蹴ってみたが、かなりズレてしまった。


 第一開放の時もそうだったが、技の精度が落ちてしまう欠点は残っているか。


 精度の方は後々の訓練でどうにかしていくか。


 この後も城井に片腕を支配されたままゴブリンたちを倒していった。


 そして、二階のダンジョンマスターがいる部屋に着いた。


「すごい早いね。四等級のダンジョンって普通、一泊はするよね」

「まあ、階層は変わっていないからな」


 等級の高いダンジョンになるほど、ゆっくり攻略していくことになる。

 『白の珈琲』の先輩たちが日帰りで攻略した三等級のダンジョンは普通の三等級のパーティーであっても二日は寝泊まりする。


 俺たちも先輩たちみたいに戦闘で止まることなくダンジョンを進んでいる。


 七等級のダンジョンマスターはオークだ。


 しかし、体全体から触れたらヤバそうな液体を垂れ流している。

 気持ち悪い感じだ。


「こんな所で使いたくはなかったが……」


 多分、あの液体に触れても今の俺なら何とかなりそうな気がするが、ちょっと気持ち悪いし、佐月先輩から貰った装備を使う事にした。


 一等級装備。『混合の黒(カオスブラック)


 見た目は真っ黒な皮手袋だが、能力が強い。


「城井。離れていろ」


 せっかくだし、佐月先輩の戦い方をマネてみるか。


 こっからの戦闘は力押しじゃなくて技を多用する。

 力を制御しながら一撃で倒さない。暴走しない為の訓練と力に慣れる為なきゃいけないからだ。


 少し時間が掛かるかもしれないが、少しわくわくしている自分がいた。



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