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20話 新魔教団大幹部

 爆発に直撃して、俺の体が宙を舞った。


 空の景色が見えるし、まだ意識は失っていない。

 体の欠損もなさそうだし、防御と後ろ跳びが功を奏したな


 背中から地面に着地した。


 かなりの衝撃だが、まだなんとか動ける。


「和希くん! 大丈夫!?」


 ゆーちゃんが俺の元に駆け寄ってきた。


「俺は大丈夫だ。ここは逃げろ」


 立ち上がろうとしたら、体がふらついたが、まだ戦える。


「ダメだよ。だって、頭から血が……」


 頬を伝う気色悪い感覚で頭から出血していることが分かる。

 体の所々も痛いし、俺が思っているよりもダメージは深刻かもしれない。


 だが、ここで逃げてしまったら城井の方に敵の拳が向くかもしれない。それだけは避ける。


 俺が()()()()守る。


「逃げろ。多分、あいつもあの爆発は連発できない。もう少し粘る」


 爆発は相手の手から発生した。おそらく、これが奴の異能なのだろうな。

 無防備で直撃すれば死ぬ威力の爆発をノーリスクで放てる異能ならば、最初から打っているはずだ。


 あの爆発には何かリスクや条件があるんだろうが、それが分からない。


 だが、一つ仮説を立てるとするのならば、受けたダメージを爆発に変換するとかだろうな。


 あいつは俺に何度も攻撃される隙を意図的に作っていた。打撃の素人であるフリかは分からないが、下手な攻撃はしてはいけない。


 まあ、もう攻撃する余裕なんてあるか分からないが。


「すぐに逃げろ。いいな」


 城井だけは逃がさないといけない。そのためにサンドバッグになる程度は覚悟している。


「……んで。なんで……」

「どうした?」


 俺の腕を強く握りしめて来た。

 相変わらずの非力で体を震わせながら握っているにも関わらず、この状態での俺でも全然痛くない。


「なんで、魔法を使えって言ってくれないの?」


 城井が叫んだ。


 確かに《憤怒開放》を使って貰えば、あの男を倒すのは難しくはないはずだ。

 だが、俺は城井に魔法を使えとは言わなかった。


 別に暴走を縛って戦う気はない。


 城井は心を病んでしまって、ゆーちゃんとして振る舞うことで自分を守っている。

 ゆーちゃんの状態では魔力が変化して俺を鎮静化することは出来るが、暴走させることは出来ない。


 城井が魔法を使えなくなった訳ではなく、異能で髪色を変えて城井の状態になれば、すぐにでも魔法を使えるだろう。


 おそらく、俺が命令すれば元に戻って魔法を使う。だが、今の俺にそんなことをする資格はない。


 だって、城井が精神を壊してしまったのは俺の責任が大きいからだ。


 イジメていた奴らが悪いと言いたい所だが、イジメがより一層過激になったのは俺が対応を間違えたせいだ。


 あの女があまりに異常だったと言い訳することもできるにはできるが、そんなこと城井には関係ない。


 俺にできる贖罪は城井の心に寄り添って、自分の意思で戻って来れる環境を作ってやることだけだ。


 だから、俺は命を張る。


 ダンジョン内で死ぬことには慣れているが、ダンジョン外で死ぬことは怖い。

 だが、ここで俺が逃げたら城井に合わせる顔がない。


「安心しろ。俺は強い。あんなダンジョンから逃げた奴らには負けない」


 ゆーちゃんの頭を撫でてから前に出た。


「お別れの挨拶は済んだか?」

「お別れ? 何を言っているかさっぱりだな」

「最近の若い奴にも威勢のいい奴がいるじゃないか。そうか。じゃあ、今度は能力を使わず本気で行くぜ」


 プロ並みの足運びで近づいて来た。

 右腕を大きく振り被った。よし、まだ素人っぽい単調な打撃だな。


 顔面に右ストレート。


 先読みの精度を上げれば、まだ流せるはずだ。


 拳の軌道まではっきり見える。


「なっ」


 弾こうと腕を動かすと、腹部に強い衝撃が走った。


 あまりの痛みに腕が下がってしまった。

 そして、ガードを下げられ所に側頭部を殴られて地面に叩きつけられた。


 何とか地面と頭に腕を挟んで意識だけは飛ばさなかった。


「先読みの練度がまだ低い。だから、フェイントに騙される」


 チッ。

 流そうとした時に死角になっていた左腕でフックを当てた後に打撃を加えて来た。


 今までのあいつの行動はフェイクだったか。

 こいつかなり対人経験が多い。


「新魔教団の大幹部である俺にここまで食い下がった学生は久しぶりだ。これで、まだ一年生だろ。もっと鍛えたら強くなれたのにな」


 ぺちゃくちゃ喋っているうちに立ち上がった。


 追撃をしてこなかったのは優しさかそれとも舐め腐っているのか。

 どっちかは分からないが、無駄なことを喋っているし会話はできるかもしれない。


 対話が好きな相手なら、多少会話をした方が時間が稼げるかもしれない。


「なんで、その大幹部サマがこんな辺境に来てんだ?」

「元はただのリベンジマッチでここに来た。だが、来てみたら、異能持ちがいる部隊を壊滅させた奴がいるって噂になっていた。それがお前たちだ。お前一人だったら見つけるのは難しかったかもしれねぇが、あの嬢ちゃんの髪と容姿は非常に目立つ。SNSに写真まで上げて、最近の奴は警戒心が足りてねぇよな」


 SNSか。確か、ゆーちゃんが魔石の画像をアップしていたな。

 あれを見て、魔石を奪えると判断した奴らが襲ってきたという訳か。


 昨日、あいつらが城井に絡んでいたのはそういう理由があったのか。

 やはり、インターネットの世界は怖い所もあるな。


 でも、この話の中で相手が話したそうにしていることはSNSの事じゃなくて、初めに言っていたことだな。


 これは会話じゃなくて時間稼ぎだ。相手が気持ちよくなれるように誘導してやらないとな。


「リベンジマッチって誰とするんだ?」

「『白の珈琲』中津佐月だ。一年前だが、あいつに襲い掛かったと思ったら()()()()()で沈められた。()()()()()()、耐久力には自信があったんだが、油断していた隙にやられて次の記憶は牢屋の中だ。その時は俺もお前と同じフェイントでやられたんだがな。ガハハハッ」


 佐月先輩はこいつを倒したことがあるのか。


 初耳のことでへえーとなりかけたが、攻略のヒントが隠されていた。


 こいつの異能は耐久をしないと発動しないものである事と、能力を使われる前に倒せば反撃を食らうことはないということだ。


 だが、相手の意識を奪う為の『処刑術。居合』は恐らく通じない。


 あいつの首の太さを見れば一撃で意識を吹っ飛ばせないことは一目瞭然だ。

 それこそ、相手の首の筋肉が緩くなった瞬間に奇跡的な角度で当てない限りは意識を持っていくのは不可能だろう。


「ああ、そういえば。お前、中津に似ているな。特に受け方が似ている。もしや、憧れたクチか?」

「さあな」


 やばい。一歩踏み出すだけで倒れるかもしれない。


 頭部への打撃が想像以上に効いている。


 とりあえず、頭部へのガードに集中して、胴体への攻撃は気合で耐える。


「チッ」


 胴体への守りを捨てたことに気付いたのか、下段蹴りで倒された。


「脱力してダメージを避けたか。本能か意図的かは知らんが……立て。立ち続ける限りはあの女には攻撃はしない」


 後ろを見ると城井が逃げずに立っていた。


 なんで、逃げてないんだ?


 声に出そうになったがぐっと堪えた。


寝技(グラウンド)で沈めてやろうと思っていたが、しょうがねぇな。殴り合いがお望みならしたがってやるよ。ハンデだ。ハンデ」

「この期に及んで虚勢を張るか。いいだろう。いつまでその態度を貫けるか試してやろう」


 よし、少しでもこいつの意識を俺に向ける。


 多分、反撃は出来ないが耐久力になら自信がある。


 なんたって俺はあのクソハゲから何度も殴られ蹴られを繰り返して、おまけに死にまくった男だぞ。


 殺さないように手加減された打撃なんて……


 ――ゴッ



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