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18話 自責

 リコ助と美祢の間に緊張が走っている。


 体を動かせない今の俺では何もできない。


「さっき、アニキのパートナーになると言ってましたよね」

「ああ、和希の才能は私に匹敵する。近距離と中・長距離のお互いに得意な距離も違って、いい相性のはずだ」

「……れるな」


 リコ助が俺を地面に落とした。


 こんなに行動が荒くなったということは、こいつ美祢の能力をパクったな。


 リコ助の異能は《あなたの狂気を受け取って》という、相手の身体能力と魔力、異能までをコピーするというトンデモ能力だ。


 そんなズルい能力だが、一応弱点はある。


「てめぇ如きが己惚うぬぼれるなよッ! よえェクセによッ!」 


 そう怒号を浴びせて、中指を立てた。


 俺以外の身体能力を使う時に口と行動が絶望的に悪くなる。


「言動が変化したな。荒い言葉を使うと品位を失うぞ」

「知るか! ボケ! 魔力の総量も魔法の質もアニキのパートナーとして到底認められるものじゃネェ。もっと強くなるか、アニキの事を愛するかしろ!」

「魔力の量は――」

「異能でカバーした所で……ムダっすよ」


 異能を解除したことでリコ助の状態が戻った。


「《魔力反転》。得意属性を氷と炎を行き来することで、消費した魔力を回復する。それなら、魔力の量を誤魔化せますね。でも、クールタイムが四? 五分ある能力っすよね。じゃあ、戦闘中には一回しか使えない。結局は魔力の総量が二倍になる程度の能力っすね」


 冷静になった上で美祢を貶している。

 さっきの暴言もリコ助の本音だったのか。


「確かにその通りだ。だが、この魔力量は世界でもトップクラス。はっきり言って私以上の魔法使いは世界中を探しても両手で数えられるほどしかいないだろう」

「規模が小さいっすね。アニキをパートナーにしたかったら、魔法の威力も魔力も今の十倍はないと務まらないっすよ。まあ、もしくは由香里ちゃんみたいなアニキへの狂気的な()が必要ですね」


 リコ助は俺を過大評価する癖がある。

 まあ、昔からの付き合いだし補正が掛かってしまっているかもしれない。


「……なるほど、では、これでも足りないだろうか? 《アイスホール》」


 上空に学校を破壊しそうなほど巨大な氷の球が出現した。


 あまりに早い詠唱で、こんな規模の魔法を作り出すとは……

 やはり、世界でもトップクラスの実力を持っていると認めざる負えない。


「キシシシッ。この程度でうちがビビるとでも?」

「貴様はこれの威力が分からないほど愚かな人間ではあるまい」


 リコ助が煽ったせいで、かなり不味い状況になっている。


 なんとかしないと。と思うが体が言うことを聞いてくれない。

 床を這う力も声を出す気力も残っていない。


「そこまでだ」


 松枝先輩の声が聞こえたと思ったら、一瞬で氷が細切れになって空気中に散っていった。


「いくら、氷藤殿であっても非戦闘系の学科の者と戦闘する許可は出せない」

「……謝罪します。以後気を付けます」


 美祢が頭を下げて謝罪した。


「阿武殿も先ほどの言動は相手を刺激する。以後気を付けるように」


 リコ助は先輩の言葉を無視して、俺を担ぎ上げ、屋上から出て行こうとした。


「待ってくれ」

「松枝。ダメ」


 リコ助を止めようとした松枝先輩を光莉さんが止めた。


 すると、静止を聞いたのかリコ助が扉の前で立ち止まり振り返った。


「失礼を承知で言いますが、うちはあなたたち『白の珈琲』にいい印象はありません。久木和希という人物から()()を抜いたくせに……誰もがあなた達を支持するなんて思わないで欲しいっすね」


 リコ助は元々、『白の珈琲』のアンチだ。


 なんでアンチになったかはよく分からないが、あまり話題にしたくなくてこの手の話は全て忘れることにしている。


 先輩たちも有名人で、少なからずアンチはいる。今更、一人にこの程度の言葉を浴びせられた所でなんとも思わないはずだ。


 ただ、今日はもう眠たい。先輩たちの目の前で失礼かもしれないが俺は目を閉じてしまった。


 ――――――


 リコ助はあの後、俺を保健室に運んだみたいで目を開けると見たことのある天井が見えた。


 服もジャージを着せて貰っている。

 リコ助が全部やってくれたのか。


 それと、あと腹部に少し重みを感じる。何か乗っているな。


 布団を少しめくってみるとそこには銀髪の天使がいた。

 いや、天使じゃなくて髪を銀髪に変えた城井なのだが、この状態ではいたずら好きの天使ゆーちゃんとしてのキャラクターがある。


「あれー。もう起きちゃったの?」

「何をしているんだ?」


 同じベッドの中にいることは別にいいが、ゆーちゃんの状態になっているのは少し変だなと思った。

 基本的にSNSをやったり、俺の暴走を鎮静化させたりする時にしかゆーちゃんの状態にはならない。


 なんで、今ゆーちゃんになっているかが分からない。


「和希くんの服の中に入って、驚かそうとしただけだよー」

「いや、そういうことじゃなくて、なんでゆーちゃんの状態なんだ?」

「うーん。ごめんね。質問の意図が分からないよ」


 なんだろうか。この胸のざわめきは……


 ゆーちゃんの目の奥にいる城井に睨まれている気がする。


 そんな幻覚に近い物が見えてしまった。


 ――すべてお前が悪い。


 城井はこんなことは言うはずがないが、幻聴が俺を責めて来る。


 だって、俺が下手に関わっていなければ城井のイジメが過激になることはなかっただろうし、弁当ぐらい俺が持っていればこんな事にならなかった。


 やばいな。


 こんなネガティブな状態になるなんて、まだ暴走の副作用が残っている気がする。


 そうは分かっていても心に重りが追加されたかのように自責の念に潰されそうになってしまう。

 今までのどれだけ無神経で生きて来たかを思い知らされている。


「えっ。和希くん」


 俺はゆーちゃんに抱き着いていた。


 なんで抱き着いたかはよく分からないが、抱きしめた瞬間に心の重りが一気に軽くなった。

 何か喋る気分じゃない。状況を把握できていないゆーちゃんには悪いが、しばらくこのままでいいと思ってしまった。


「もしかして、ゆーちゃんの事が好きなのかな?」


 俺にとって、城井は単なる仲間じゃない。


 コンビ? パートナー? 

 いろんな表現があるが、二人で一つみたいな感じだ。


「ああ」

「――っ!?」


 ゆーちゃんも抱きしめて来た。


「これから、学校サボってデートに行こ?」


 学校をサボる……か。

 まあ、いいか。


 今日は俺も教室で何かを学ぶ気分にはなれない。


 肉体的にはもう回復しているが、精神状態がよろしくない。

 城井もメンタルが弱っているだろうし、今日はどっか遊びに行った方がいいな。


「そうしようか。どこに行きたい?」

「とりあえず外に出よっ!」


 ゆーちゃんは俺の手を引いた。



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