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17話 自分を律する心

 握っている魔石を捨て、光莉さんに向かって近づき白い盾ごと()()()殴った。


 腕を振り抜くと光莉さんは後方に吹っ飛んだ。


 そして、背後から切りかかっている松枝先輩の刀を振り返ってから掴んだ。

 剣を引き抜こうともがいている所に肘打ちを……


「いねぇ」


 さっきまで、目の前にいたはず……


「ごめん。痛いかも」


 あれ、俺。今、空を飛んでいる?


 何をされた?


 吹っ飛ばしたはずの光莉さんが俺を打ち上げたのか。


 やっぱり先輩たちはつえぇな。


 だが、追撃はない。着地した瞬間。油断している隙をついて……


「しばらく凍って冷静になるといい《凍ノ世界(ヒュース)》」


 氷山の内部に閉じ込められた。


 美祢の奴。

 まだ残っていやがったのかッ!


 こんな氷程度、一瞬で――


「悪いが、全魔力を使った特別製だ。簡単には壊せないように作ってある」


 普通の氷じゃない。

 だが、壊せないことはない。


「なに!」


 氷山から出た後、数発の拳で完全に壊した。


 あの氷女は邪魔だな。


 まず最初に殺しておくか。


「殺してしまったらすまない。『魔力反転』」


 美祢の髪が真っ赤に染まって、周辺に炎を出し始めた。


 異能か何かは知らねえが、炎を出す奴には恨みがある。


「《熱光線》」


 指を銃の形に変えると、ビームを放ってきた。


 かなり早いが避けられないことはない。

 だが、似たような魔法を使う奴とは戦ったことがある。すでに対策法はある。


 早さで翻弄してやって距離を詰める。


 横に飛び跳ねようとした時に、白い壁が出現した。


 チッ、先輩たちがいることを失念していた。


 ゼロ距離からの打撃で吹っ飛ばされ、その先には松枝先輩が居合の構えをしていた。


 このままだと切られる。

 今の状態でもあの人の()()()居合は不味い。


 腕の力を使って高く跳んだ。


「チェックメイトだ」


 美祢が俺の方に指を向けている。


 この程度は予測している。跳んだ時に拾った小石を美祢に向かって投げた。


 流石に空中だと精度が落ちて美祢の目の前に石が落ちて、砂埃を上げた。


 ビームは放たれたが、俺には当たらなかった。


 やはり、魔法使いから殺した方がいいな。


 今度は直線に進む。

 妨害も何もなく近づけた。


「近づかれることは想定していた。燃え尽きろ《炎ノ世界(バーン)》」


 ――やられた。


 美祢を中心とした炎の柱が作り上げられ、俺はその内部に入ってしまった。


「なるほど、君の体は非常に魅力的だ」


 俺でも驚いている。

 生物が灰になる温度でも、少し熱いぐらいでダメージは少ない。


 まあ、これで邪魔な奴は一人殺せるな……





 俺は自分の顔を殴った。


「城井がこんなこと望んでいるわけないだろ」


 なぜか頭によぎったのは城井じゃなくて、銀髪のゆーちゃんの方だったが、俺は何とかとどまることができた。


 炎が止まり、俺は膝から崩れ落ちた。

 時間切れだ。


 代償として、体も気分も鉛みたいに重たくなっている。


 服も焼けているし、最悪だ。


「まさか、私が同級生に負けるとはな」


 謝罪する気すら起きない。


 美祢が俺の首辺りに顔を近づけた。


「くんくん。なるほど、無力感。虚無感。自殺直前の人間と似た匂いがするが死の匂いはしない。面白い」


 立ち上がって、先輩たちの方を向いた。


「榎本先輩。この生徒貰ってもいいですか?」

「どういうことだ?」

「和希は私とパートナーになれば、最強のパーティーになれるはずです。学校こそ違いますが、将来の事を考えるとその方がいいでしょう」


 何言ってんだ?


 俺なんて、暴走しないとちょっと強いぐらいの人間だ。


 それに対して美祢の魔法は大規模かつ、早かった。こんなレベルの魔法使いなんてこの世に両手で数えるほどしかいないだろう。


「私より強い一年生は和希しかいない。彼を取り込めれば、先輩たちのラストラン同行枠は我々が得るのは確実。先輩たちからしても私一人よりは彼みたいに力強い人にも荷物持ちを任せた方がいいですよね?」

「言い分は分かった。だが、本人の意思のない転校はさせられない」

「では、本人の許可を得れば可能ということでよろしいですか?」


 他校の人間とパーティーを組むことなんて聞いたことがない。

 だが、確かに転校さえしてしまえばパーティーは組めるな。今まで考えたことがなかった。


「《獄炎》」


 聞いたことのある声が聞こえたと思ったら炎の壁が迫ってきた。


「《魔力反転》。遅い。弱い。臭い。こんな生徒も下徳にいるのだな」


 髪が真っ白に戻った。《魔力反転》、あれが美祢の異能か。

 炎は一瞬で鎮火し、存在を消した。


「誰よ! あんた。()()久木くんに近寄るな!」

「なるほど、この匂いは私の支持者にもある程度いる。自身が好むモノに他者が寄り付くのを嫌う人種。私は職業柄仕方がないが、和希にもそんな相手がいたのだな」


 美祢は帽子を整えた。


「本来。私は色恋などには干渉しない主義なのだが……将来のパートナーが関係しているなら致し方ないと言える。『隻腕の氷結姫』。氷藤美祢が貴様を粛清する」


 『隻腕の氷結姫』。帝東の化け物は美祢のことだったのか。


 確かにあの規模の魔法を何度も使える人間なら三等級のダンジョンは攻略できる。


 こんな奴が、俺とパーティーを組みたいって言うはずがない。

 何か別の理由があって……


 なんて考えようとしていると、緑色のロングコートが俺を包んだ。


「アニキ。逃げるっすよ」


 リコ助か。

 いつも前髪で目を隠しているリコ助だが、久しぶりに目を見れた気がする。


「あの屋上に跳びます」


 リコ助は俺を担ぐと普通科の校舎屋上まで跳んだ。


 俺の身体能力ををパクっているとは言え、こんなに跳べるもんなんだな。


「今の気分はどうっすか?」

「……最悪だ」


 言葉を発するのも辛い。

 こんなにメンタルが落ち込むことがあるのか。

 

 そう思ってしまうほど自分の心とは別の何かを感じている。


「とりあえず、服をどうにかしましょうか。リコちゃんコートを着ていたいなら別っすけどね」


 流石に服がない状態だと何もできない。


 リコ助のコートだけを着ていると、なんか露出狂の変態にでもなった気分になる。

 だが、若干暖かく精神的にはこのままでもいいとすら思える。


「今日は乱入者が多い。貴様の名は?」


 美祢が氷の階段を作って屋上までやってきた。


 あの芽衣とかいう女は四肢を氷で拘束され、何やら怒鳴っている。

 あいつもかなりレベルの高い魔法使いだったが、それを圧倒する美祢の実力はやはり全国でもトップクラスだ。


「うちは阿武莉子。下徳高校の――」

「機械情報科。コンピューターに精通する人間の匂いがする。盗撮、盗聴、ハッカー関係。犯罪者の匂いだ」


 リコ助の所属学科を当てた。

 屋上まで跳び上がるほどの身体能力を見せつけたのにも関わらず、冒険科と間違わなかった。


 なんつう嗅覚をしているんだ。


「私は帝東西高校の――」

「第六二代目生徒会長。冒険科一年。氷藤美祢。『隻腕の氷結姫』という二つ名を持つ冒険者。実家は白陽財閥を経営する一族……このぐらいは知っているっすよ」

「説明の手間が省けた」


 リコ助が意趣返しをした。


 白陽財閥といえば、駒威、椋月むくづき財閥と並ぶ、日本経済を支配する三大財閥の一つじゃないか。


 美祢が思っていた以上にビックネームだとは思わなかったが、逆にそれほど有名ならばインターネットで調べれば出てきそうな情報ではある。


「では、彼を引き渡して貰おうか。ここで貴様もあの女子生徒のように氷漬けにしてもいいのだぞ」


 美祢の目的は俺らしい。

 俺なんかを狙って何をしたいのだろうか?


 何がしたいかは分からないが、戦いが起こるのは良くない。


「……俺を捨てろ」


 なんとか声を振り絞ってなんとかリコ助に聞こえる声で伝えた。


「キシシシッ。断るっす。だって、アニキに仕組んだ盗聴器が焼けた以上はすべてを聞こえる場所にアニキがいてくれないと()()()()()()()じゃないっすか」

「交渉決裂だな」


 二人の間に緊張した空気が流れ始めた。


 こいつらマジでやる気か?



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