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14話 依存していく彼女

※城井視点です

 久木くんの事は少し前から知っていたの。


 私をいじめてくる佐藤さんが話題に出すようになっていたから……


「由香里。あんた冒険者になるの諦めたら? 私は有能な久木くんとコンビを組む予定だけどね」


 彼女はいつも私に冒険者になることを諦めるように催促してくる。

 なんでいじめるかは分からないけど、私に庇ってくれる友達がいないことが大きな原因だと思う。


 ……私に友達なんていない。


 昔から人間関係は苦手で、家族以外は私に優しくしてくれなかった。


 しかも、私は攻撃魔法が使えない。

 魔法使いにとっては致命傷で冒険者になる事なんて夢のまた夢。


 代わりに使えるのが他人の精神に干渉する魔法。はっきりって全く役に立たないの。


 でも、私は冒険者になる夢を諦めたくなかった。


 尊敬する『白の珈琲』の光莉先輩。

 今でこそSNSなどで人気な有名人だけど、昔は精神が不安定で冒険者だけじゃなくて学校に通うことすら困難だった時期があったらしい。


 そんな彼女が世界に希望を与える『白の珈琲』のメンバーでダンジョンに挑む姿を見て中学生だった時の私は勇気を与えて貰った。


 私も光莉先輩みたいに誰かの希望になれる人間になりたい。

 その一心で勉強を頑張って西日本にある下徳高校に入学した。


 でも、私には才能がなかった。


 どれだけ頑張っても攻撃魔法を使えるようにはならず、みんなにバカにされる日々。

 珍しい魔法を研究する分野では歓迎されているけど、私はどうしても冒険者になりたかった。


 更に、私はあまりの人見知りのせいかSNSも全く投稿できなかった。


 光莉先輩と同じ高校にいるのに私は何も持っていなかった。


 そんな諦めかけていたある日。私は生徒会室に呼ばれていた。


 生徒会長である松枝先輩だけが部屋の中にいた。


 松枝先輩も『白の珈琲』のメンバーでいつも和服を着ている。

 ちょっとだけ緊張するけど、松枝先輩とは元々面識があって、人見知りの私でも怖くはない。


「急に呼び出してすまない。最近、サイバーセキュリティが脆弱なのか学内のデータベースの侵入が多いのだ。そこで、君に意見を求めたい」


 松枝先輩は和風な服装からは予想が出来ないけど、機械関連に見識がある。

 私の実家がセキュリティ関係の事業をやっている事とか、私が()()()()に詳しいことも知っている。


「み、見せてくれますか?」


 私にパソコンの画面を見せてくれた。


「うーんと。結論から申し上げますと、これは同一犯ですね。あからさまに痕跡を残す所とかみると、技術力の高さをアピールしたがる人だと思います」

「なるほど。対策はどのようにすればよいか分かるか?」

「そ、それはちょっと。お金は掛かりますけどコグラフィと専属契約を結んで貰った方がいいと思います」


 今回のパターンは相手側があまりにも技術が高すぎて、一般的なセキュリティだと無意味になる。ここまで技術力のある人にとってこれはいたずら程度のことだからそこまで気にすることもないと思う。


「いや、不躾な質問だったな謝罪する」

「い、いえ。そんなことないです」

「そうだ。確か、城井殿は冒険者を目指しているのだったな。今度、近くに出来た三等級のダンジョンに潜るのだが、同行する気はないだろうか?」


 えっ。

 『白の珈琲』の人たちのダンジョン攻略に同行できるの?


 光莉さんと一緒にダンジョンに……


「お願いします!」


 久しぶりに大きな声を出してしまった。


「あ……え。ごめんなさい。大きな声出して」

「気にすることではない。では、佐月殿に確認を取る」


 松枝先輩が電話をして、私が同行することを伝えてくれた。


 電話が終わった後。


「もう一人、佐月殿の後輩がくるみたいだが大丈夫だろうか?」

「ど、どんな人ですか?」


 正直、男の人は苦手。

 喋るのに勇気がいるし、あの、その。視線も変な所にいく人もいるから……


 一応、確認しておきたかった。


「久木和希という一年の男子だそうだ。佐月殿が期待している人材と言っていた」


 久木……佐藤さんが言っていた人だ。


 正直、いい印象はない。

 かなり優秀で私なんて下に見るような人なんだろうなと勝手に思ってしまった。


 まだ会ってすらいない相手に失礼なことだと思うけど、あまり関わりたくないと思ってしまった。


 ――――――


 翌日、初めて魔法使いみたいな黒フードを羽織ってから駅に着いた。


 『白の珈琲』のメンバーの顔はしっかり覚えている。

 初めて見る顔が久木くんということになる。


 先輩たちが集まっている中、私に話しかけてくる人がいた。

 きりっと整った顔に無表情な感じ、彼が久木くんなのはすぐに分かった。


 どうやら自己紹介をしてくれているみたいで、私もすぐに返そうと思った。


 でも、声が全然でない。

 緊張してしまっている。元々、人見知りというのはあるけど、こんなになるのは初めて。あれ、可笑しいな。久木くんから佐藤さんの影が見える……


 喋れなくて、そのせいで更に緊張してしまって更に喋れなくなるという負の連鎖が高速で起こって、吐きそうになったところで川谷先輩が代わりに私を紹介をしてくれた。


「無理すんなよ。無理してまで俺と話す必要はない。俺たちの目的は先輩たちを観察して自分の糧にすることだろ」


 文句の一つぐらい言われるのを覚悟していた。

 だって、佐藤さんだったらこんな事になったら「根暗コミュ症」なんて言っていたと思うし、あの子とコンビになるかもしれない久木くんにも同じものを想像してしまった。


 でも、私の予想と違って彼は優しかった。


 ――――――


 ダンジョンで久木くんが先輩の指示でダンジョンマスターに単身、向かって行った。


 だけど、一年生で三等級のダンジョンマスターなんて倒せるはずがない。

 久木くんは防戦一方だった。


「あいつがイライラさえできれば、勝てるんだがな」

「イライラ? さっくん、どういう事?」

「あいつは中学の時にたった一発の拳で教室を吹っ飛ばした。あの時は俺が鎮圧したが、もしあいつが怒ったらミノタウロス程度は完封するはずだ」


 久木くんが倒されて、追い詰められた。


「リーダーそろそろ……」


 イライラすると強くなる。

 何かの異能なのかも。


 それなら私の魔法が相性がいいはず。


「い、《イリテイト》」


 試しに魔法を使ってみた。

 すると、久木くんは目にもとまらぬ速さで立ち上がって斧を掴み、ダンジョンマスターを一方的に殴って殺した。


 こんなの人間にできる事じゃないよ。


 そして、彼は私たちの方を向いた。


 すると、すぐに川谷先輩が魔法で牽制した。


 久木くんは次の瞬間、人間のそれとは思えないような早さで動き始めた。

 私には残像しか見えない。


 怯えて一歩下がってしまった一瞬で、久木くんの手が私を狙っていて、それを光莉先輩が阻止していた。


 その時、彼の狂ったような目が見えた。


 あの優しかった彼が私の魔法一つでこんな風になる……


 命を狙われた恐怖よりも別の感情が私の心を圧迫して苦しい。


 初めての感覚に胸に手を当てて考えていると光莉先輩が小さな体で私の肩を叩いた。


「それは、恋。同じ事あったから分かる」

「恋。ですか」


 私、久木くんの事が好きなんだ。


 ――――――


 ファミレスで松枝先輩からなぜか持っていた盗聴器を貰った。


 解散した後、私は久木くんを追跡して家の場所を特定した。

 場所さえ分かれば、今度偶然を装って会えるはず……


 でも、なんだか今日はもっと久木くんの事を知りたくなった。


 鍵の製造番号さえ分かれば、実家に合いカギを作って貰える。盗聴器を仕掛けたいし、久木くんの部屋の鍵の製造番号をメモすることにした。


 多分、すぐには外出しないと思うし……


「城井か。どうした?」


 扉が開いた。


 えっ!?


 すぐにメモを隠した。


「あ、あの、偶然通り掛かって……」


 ここ二階だし、こんなバレバレの嘘すぐにバレるよ。と言った後に気付いた。


「そうか……いい機会だし、少し家で話さないか?」


 久木くんは気にすることなく家に入れてくれた。優しいのか不用心なのかちょっと心配になっちゃった。


 でも、今回は助けられた。


 久木くんがゴミ出しに行く時間で盗聴器を仕掛ける。


 コンセントに盗聴器を埋め込んで。直してすぐに久木くんが帰ってきた。

 やっぱり、久木くんは不用心で全く気にすることはなかった。


 この後、パーティーを組んでゆーちゃんというキャラクターでSNSをするというやり方を教えて貰った。

 しかも、会話のすべてで私を肯定してくれた。


 久木くんは私が欲しいモノをすべてをくれた。


 本当は私からも何かを与えないといけないのに……


 帰り際に恩返しをするって言ったのに私が返せるものなんて魔法と料理ぐらいしかない。


(久木くん……久木くん……久木くん)


 いつの間にか私の思考は久木くんが中心になっていた。


 ――――――


 久木くんの体はがっちりしていて触っているだけで幸せになれる。


 手錠で繋いでずっとお世話してあげたい。


 でも、そんなことをして嫌われたくない。

 だから、湿布だけ張って料理をすることにした。


「いてっ」


 久木くんの喜ぶ顔を想像しながら料理していると指を切ってしまった。


 食材に私の血が染みていく。


 すぐに止血をしないといけないのに、私の頭は悪魔に支配されていた。

 この食材はトマトスープに入れる具材。血が入った所で久木くんには分からない。


 もし、食べて貰えたら私の一部が久木くんに還元できる。


 やってはいけない事だと分かっていても私は止まれなかった。


 だって、私の血肉が久木くんの役に立てるのは本望だから……


 そう、全部は久木くんの為。久木くんの為なら私はなんだってやる。



ここまで読んで下さりありがとうございます!


これにて一章は終了です。

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