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12話 あなたの為に

 変な夢から目を覚まして、一番最初に目に入ったのは胸だった。


 いきなり視界に入ってきたソレに一瞬戸惑ってしまったが、冷静に状況を振り返る。


 俺は長時間の戦闘と最後に憤怒第三開放による行動で体が限界を迎えて倒れてしまった。

 それで、近くにあった城井の家のベットで寝かせて貰っていた。


 じゃあ、状況的に考えて目の前のモノは城井のと考えていいだろう。

 後頭部の感触からも膝枕されていることが分かる。


 これである程度の情報整理は終わりにするか。


「なあ、城井。顔から手を放してくれないか?」

「――えっ。あっ。お、おはよう」


 城井は慌てながらも手を離した。


「部屋を貸してくれてありがとな。今、何時だ?」

「一九時だよ」


 大体、三時間寝ていたのか。夢の短さからそれほど経っていないと思っていたが、かなり寝てしまっていたみたいだ。


 起き上がってみると、体に違和感があった。

 ()()()()()()()()()として……


「湿布貼ってくれたのか」

「うん。あの、筋肉痛だって言ってたから。あの……勝手に服脱がせてごめんなさい」


 ここまでやってくれるなんてな。

 下半身ならともかく、上はいくら脱がされても困ることはない。


 感謝しかない。


「ありがとう。寝る前の痛みが嘘のように消えてる」

「……良かった。あと、ご飯も作ったから食べてくれる?」

「じゃあ、貰おうか」


 今日貰った弁当で分かったが、城井の料理は美味い。


「ありがとう! すぐ準備するね。服はちょっと汚れていたから、少し綺麗にしておいてあそこに掛けておいたから、待っている間に着といてね」

「ああ。分かった」


 あのハゲに汚された制服が洗ったかのように綺麗になっていた。


 洗ったら乾燥が間に合わないだろうし、一体どうやって綺麗にしたのだろうか?

 まあ、少なくとも俺には真似できない芸当だろうな。


 そうやって感心していると、近くにフタがずれたボックスがあった。


 こういう時、覗くのはマナー違反だ。だが、中に入っている金属っぽい物の正体が気になる。


 昨日出会ったばかりの男を信用して自分の家に上げてくれている城井には悪いが、俺はこっそりとフタと取った。


「これは、かぎ?」


 ボックスの中身は南京錠だったり、家の鍵だったりが乱雑に入っていた。()()なんて物もある。


 ドアから分離された家の鍵なんて初めて見た。

 意外と見たことがない物なんだな。


「久木くん。何見ているの?」


 気づいたら城井が後ろに立っていた。


「勝手に覗いてしまった。すまない」

「見ちゃったんだね……」


 城井の表情が暗くなっている。

 人の趣味を勝手に見るのは流石にいけなかった。


「悪い。お前の()()()を否定はしない。勝手に見てしまったことは謝る」

「そ、そうなの。私、鍵集めが趣味でねー」


 城井の表情が急に明るくなった。


 鍵集めの趣味は踏み込んでも問題なかったみたいだな。

 これは許してくれる流れかもしれない。


 ん? じゃあ、なんでさっきは落ち込んだような表情だったんだ?

 まあ、いいか。そんな細かい所は気にしても仕方がない。


「実家が鍵屋で、その影響でいろいろ集めているの。あと、ピッキングもできるよ」


 南京錠を取り出して、細い針金で何やら操作すると、すぐに南京錠のロックが外れた。


「すごいな」

「ありがとう。手先の器用さだけは自信があるの」


 ピッキングなんて始めて見た。

 技術的にどれだけすごいかは素人の俺には分からないが、あんな細かい作業は相当な器用さがないと出来ないことは分かる。


「疲労しているっぽいから今日はトマトスープを作ってみたの。お肉もあるからいっぱい食べてね」

「ああ。ありがとう」


 城井は俺の健康も気遣っている。


 テーブルを見てみると、かなりの量の料理が並んでいた。

 こんなの俺の母親もやらないぞ。


「流石だな。こんなに料理を作れるなんて」

「そんなことはないよ」


 城井は謙遜しているが、こんなことができる高校生なんてそうそういない。


 昼にあれだけ食べさせて貰ったのにもう空腹で死にそうだ。

 長時間、憤怒を開放したことによる疲労もあるだろうが、やはり、目の前の美味そうな料理がこの空腹の原因だろう。


「いただきます」


 トマトスープだけは鍋ごとあり、食べきるのは難しいかもしれないが食べられるだけ食べておきたい。


「ふふふ」


 城井が俺の方を見て静かに笑った。


「どうした?」

「いや、いっぱい食べてくれて嬉しくて。あと、食事中の久木くん。無防備で可愛いなって」

「可愛いなんて、初めて言われた。まあ、悪い気はしないな」


 俺は食事中はあまりお喋りをしない。

 毎回、無言で威圧を放ってしまっているらしく、場が静まり返ってしまう。


 今まで誰かと会話しながら食事をしたことはなかった。


「あっ。トマトスープは全部、久木くんが食べていいよ。スープも飲んだらいい感じに栄養が取れると思うよ」

「すまないな……その指どうした?」


 城井の人差し指に絆創膏が貼ってあった。

 どこで、怪我をしたのだろうか?


「え、えっとね……料理の途中に切っちゃって。あははは。私ってドジだなー」


 嘘だな。

 言い方が城井らしくなかった。


 何かを誤魔化すような言い方だった。

 だが、追及はしない。城井は()()()から、俺を気に掛けて本当の事を言わなかった。


 多分、新魔教団の奴らとの関係で受けた傷だろう。

 俺がもっと早く動いていればこうはならなかった。


 俺はまだまだ強くならなければならない。

 肉体的にも精神的にも……


「おおっ」


 トマトスープを全部食べ切った。


「もっともっと俺は強くなる。『白の珈琲』を()()()みせる」


 俺は強くなる。

 二か月後の特級ダンジョンへの同伴権を得るのはあくまで過程だ。


 元々、俺の最終目標は『佐月先輩みたいになる』と決めていた。


 だが、城井と出会って『先輩を超える』なんて思えるようになった。


「だから、それまで俺を支えてくれ」


 城井の力は魔法だけじゃない。

 料理もそうだが、俺の事を考えて行動してくれる。


 純粋な暴力しか取り柄がない俺には必要不可欠な女性だ。


「うん!」


 城井は元気に返事をした。


 俺たちの成長はまだ始まったばかりだ。



これで主人公視点での一章は終了です。

あと、二話ほど主人公視点ではない話があります。


※残り二話はヤンデレ成分強めです。


二章からはヤンデレ成分マシマシで戦闘も増えます。

新たなヒロインも登場して久木を取り巻く環境が更にカオスな状態になる予定です。


お楽しみに!(なお後書きの一部は3月に入った辺りで削除します)

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