11話 魔石の金額
※三人称視点です
久木が眠った後、城井とリコの二人は別室で向かい合っていた。
「そ、それで、話したいことって何かな?」
「まあ、いきなり本題に入ってもいいっすけど、これ以上うちに人見知りしなくていいように少し会話しようよ。魔石の利用方法とかって分かる?」
リコは小さな魔石を一個取り出した。
「これは十等級の魔石。さて、問題。おいくらでしょーか」
「い、一万円だよね」
「国の基準ならそうだね。ちなみに他の等級だとこんな感じ」
スマホを差し出して金額を見せた
――――
十等級 一万
九等級 五万
八等級 十万
七等級 五十万
六等級 百万
五等級 二百万
四等級 一千万
三等級 五千万
二等級 一億
一等級 五億
特級 一千億
――――
「これを見て、どう思った?」
「どう? って言われても……」
「これでも買い叩かれているんだよ」
「買い叩かれているの?」
「そもそも、魔石の利用方法は知っているよね」
「うん。主に電気になっているって聞いたよ」
魔石はエネルギーを増幅させることができる。
その性質を利用して発電を行っている。
「数百年前は原子力発電が主電力だったみたいだけど、原材料のウランが枯れて、今は魔石による発電が主流になっている。さて、ここで質問。由香里ちゃんはどこの電力会社を使っているの?」
急に由香里ちゃんと名前を呼ばれたことで少し動揺していたが、すぐに電力会社の名前を思い出した。
「私は蒲生電力を使っているよ」
「蒲生なんだ。そこは駒威財閥の傘下組織として有名だね」
だんだん、リコの喋り方が変わっている事に城井は気づいた。
久木と会話する時みたいな口調とは全く違う。
「じゃあ、これは有名な話だけど、『白の珈琲』が東京遠征で一等級のダンジョンを攻略した時にその魔石を蒲生電力がいくらで買い取ったか知っているかな?」
「八億だよね」
「そう。国の相場よりも三億も上乗せしてるんだよ。これでも利益が出ているらしいから、どれだけ国がぼったくろうとしているか分かるね」
「そう言われればそうだね」
リコは表情を険しく変えた。
「さて、ここからが本題。由香里ちゃんはアニキのことが好きでしょ? 隠さなくていいよ」
城井は空気が変わったことを感じ取り、身構えてしまった。
質問の内容は答えずらいものであったが、ゆっくりと呼吸をして緊張を緩めてから……
「うん」
はぐらかすことなく、一言で回答した。
「うちは由香里ちゃんを応援するよ」
「リコ助ちゃんも久木くんのことが、好きじゃないの?」
根拠はなかったが、女の勘とでも言おうか。城井はそう感じていた。
「いい気づきだね。確かにうちもアニキの事が好きだよ」
「これだと、ライバルを応援している事になるよ」
「……アニキは良くも悪くも純粋なんですよ」
リコは強引に会話を切った。
「中津先輩みたいになるためだけに冒険科に入っているほどなんですよ。だから、お金のことは考えていない。……アニキは前のパーティーから搾取されていました」
「あの久木くんが?」
城井が知っているのは昨日からの事であり、それより前の『鋼鉄の爪』に所属していた時の久木の事は知らなかった。
「上級生のパーティーに入って、雑用ばかりさせられて一円の報酬もなしに働いていたんですよ」
「えっ。流石にそれは酷いよ!」
「だよね。でもさ、これって由香里ちゃんにも同じことができるんだ」
「私にも?」
上級生ならまだしも、同級生でダンジョン初心者である自分にも同じことができるのか疑問に思った。
「お金に無頓着なアニキはほぼ確実にパーティーの財布を由香里ちゃんに預けるね。さあ、そこからは由香里ちゃんの自由だよ。今後のアニキなら何千何億の稼ぎを出すだろうね。どう使おうと君の勝手だよ!」
リコは城井の方に手を乗せた。
「女の勘って奴かな。由香里ちゃんはアニキを幸せにできる気がする。お金の魔力に負けない強い何かを感じるんだ」
「あの。一応、実家がお金持ちだから、お金に対する免疫はある……と思う」
「ん?」
「親がコグラフィって会社の経営しているの」
「国内の鍵のシェア率九十パーセント越えのあの?」
「うん」
よくそんなマイナーな事業を知っているね。と城井はのんきに思っていたが、反対にリコは衝撃を受けて後ろに下がった。
「日本のセキュリティを掌握していて、蒲生電力と並ぶ駒威財閥の柱の一つじゃないか」
「うん」
「……それ、言っちゃえばイジメられないよ」
城井の気持ちを考えながらリコは提案した。
「いや、その。私はそんな……」
「キシシシッ! 君って奴は。サイコーだ!」
突如、大声で笑い出した。
その声は部屋中に響いた。
「うちはアニキからイジメの証拠を集めるように言われている。一応、証拠は集めるけど、それをどうするか決めるのは由香里ちゃん。君に任せるよ。すべてが解決したら、昔のアニキの事なんでも教えてあげる。墓場まで持っていこうとした話も含めて全部教えてあげるから。じゃあ、今日はお邪魔したね」
「昔って――」
リコは城井が何かを言い出す前に帰って行った。
「久木くんの過去。気になるなぁ」
そう言いながら、久木の元に駆け寄っていた。




