25話
黒装束に包まれたその獣人から尻尾が見えた。
恐らく男性で、尻尾は黒く細い、多分だが猫か黒豹とかその辺の獣人だろう。
鑑定をすればいいだけなのだが、別にそこまでのことだ、それに......
「人間のお二人さん、そこにいるシャルルをこちらに引き渡してくれれば手を出さずに元の世界に戻しましょう、なのでシャルルを引き渡してください」
シャルルの関係者である可能性が極めて高い。
あくまでもシャルルはまだ獣王の娘であることを俺たちに言っていないのだ。
もしも鑑定をしてその情報を見てしまったら、シャルルが言いたくないことも知ってしまうかもしれない。
それは俺の本意ではないし、シャルルが自分からそのことを説明してくれるまで待ちたい。
シャルルはきっと俺達のことを仲間とも友とも思っていないだろう。
いや、仲間とは思っているかもしれないが一時的な仲間であり、心から信頼出来る仲間ではないだろう。
だが少なくともこの短い間の付き合いだが、俺はシャルルのことを信じているし仲間だと思っている、友だと思っている。
だからこそ信頼して欲しいし友だと思ってほしいし、味方になりたい。
恐らくずっと抱えていた何かがあるはずなのだ。
その支えになりたいとも思う。
だからこそそういうリスクは早めに回避しておくべきだ、恐らく先程の動きを見るに鑑定をして強さを計らなくても、何とかなる可能性の方が高い。
チラッとレイのことを見て目線で合図する。
よく考えたら念話で話せばよかったと思うが通じていそうなので問題は無い。
魔力を練って、俺の魔力自体を周りに大きく拡散させる魔法を構成する。
「だが断る!!!!」
その言葉を皮切りに俺は魔法を発動した。
魔力を拡散させることにより周りの環境、いわば足場の確認、人の配置等の地形把握という訳だ。
確認したのと同時にレイに視線を送ると頷いて、シャルルを連れて逃げ始めた。
それを見た獣人は追いかけようとしたのだが。
「行かせるかよ!」
横から蹴りを入れる。
本来であれば視認できないレベルで加速していたのだが今の俺には見えたので反応できたのだ。
恐らくこういう俊敏なところを見るに豹の獣人で間違いないだろう。
ジャリッ、キンッ!
細かい魔力の操作で飛んでくるナイフを次々弾いていく。
足元には30本ほど貯まっただろうか。
相手は聞いてきた。
「何故そこまで奴を守る」
「仲間だからだ」
「一日やそこらで仲間だと?」
「当たり前だ、お前に何がわかる」
「わからないな、分からないが本気ではないことが分かる」
どういうことだ?
言っている意味がわからないのだが。
「なぜそこまでの実力で防戦だけなのだ?私を一発で倒せばそれで済む、本気で守りたいと思っているなら殺す気で来るだろう」
ん?あー、それは世界観というか、この世界の常識を語られてもなぁって思いますよ?
『心の中で言っても仕方ないのですが』
それは言わないお約束。
まぁ、時間稼ぎをしていた理由はあるのだが。
「もういいだろう、慢心が死を呼ぶことを知るがいい!」
獣人がそう叫ぶと全方位から10人程が飛び出してきた。
そう、これこそが作戦、シャルルを監視の目から外すためだ。
最初に敵の人数を確認して戦いながらも防戦だったのは、人が離れていくかどうかの確認をしながらだったからだ。
だが全員飛びかかってきたのだから確認する必要も無い。
「慢心せずして何が〇か!!」
イメージをして魔力を流す。
考えるのは剣や槍などの武器、それを空中に生成して、敵へと向けて発射する。
だが、その速度は普通ではない。
俺ですら掠れて見えるぐらいの速度だ。
それが普通の者に見えるだろうか、いや無い!
飛びかかってきた、全員に武器一本一本が刺さり、武器を飛ばさなかった1人以外は倒れた。
「な、な、な」
「もちろん、なんで襲ってきたかは教えてくれるんだろうなぁ?」
シャルルの情報については聞かないが、襲ってきた理由は聞かないとだよなぁ?
そう思いニヤリと意地悪い顔をしつつ残った一人に近づいていくのであった。
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