12話
「まぁまぁ、しょうがないでしょ?一つしかベッドがないんだから」
「だから俺が床で寝るって言ってんだっつーの」
「痛くない方がいいでしょ?」
「まぁ、そうだけどよ、てかこっち来てからずっと素で喋ってるけどいいのか?」
「へ?」
え?気づいてないの?
床で寝るって話から逸らそうと思ったらまさかの無意識だったのが発覚?
「いや、こっちの世界に来てから口悪くなくて素で喋ってるから」
「マジで?」
「マジで」
「ってか素の喋り方がこれじゃねぇって気づいてた?」
「だって時々出てたし」
ってか気づいてないと思ってたってすげぇな。
「ってかなんで幼なじみの俺にさえ素で喋らないんだ?」
「えー、それ聞いちゃう?」
「まぁ、気になるわな」
気にならないわけが無い。
「んー、まぁそんな深い理由はないよ、ただ仲良くなりたい男の子がいてその子に近づくために男っぽい言葉を使ってただけ」
「へ、へー」
幼稚園の頃からそうだったってことは幼稚園のやつで仲良くなりたかった男子がいたってことか......
くっ、若干ジェラシー。
「まぁ、カナデのことだけどね?」
「へ?俺?」
「うん、そうだよ?だから今までその言葉を維持してきてたし、カナデと一緒だから」
え?俺と仲良くなりたくて?
「別に前から普通に話してくれても良かったし」
「うん、だからただの自己満足だよ」
「そっか」
「うん」
(ただ今まで隠してた普通の喋り方をいきなりして嫌われたくなかっただけだから)
なんて言えないとレイは思う。
「じゃあこれからも素じゃない方を無理して話すのか?」
「いや、普通に話してくれていいってカナデが言ってくれたんだ、だから普通に話すよ」
「そっか」
「うん、だからボクは普通の女の子なんだよ?」
「知ってるけど」
いきなりどうしたんだ?
普通の女の子じゃないならなんなんだろうな。
「違うそうじゃなくて、いや、そうなんだけど」
「???」
『これだからマスターは......』
なんだよオルタ
『いいえなんでもないです。(女の子として意識してねっていうメッセージですよ、まぁそのメッセージ自体も意味ないとは思いますが、なんて言えない)』
若干毒舌な内心のオルタであった。
「もう!知らない!」
「なんで怒んだよ」
「怒ってないし!バカ!」
「バカじゃねぇよ!」
素の喋り方でもこういう軽い掛け合いができるのは嬉しいと純粋に思う。
『軽い掛け合いでは無いと思いますけど、普通に怒ってません?』
オルタ?なんか言った?
『いいえ(脳に直接言ってるはずなのに聞こえてないのですか......)』
フンっとそっぽ、いや最初から背中合わせだけど、そっぽ向いてしまったので大人しく寝る。
好きな人と寝るから緊張するかと思っていたけど精神が疲れていたのかすぐに夢の世界へと旅立った。
♢
「カナデ?」
若干拗ねたあとまた話そうと思って声をかけたけど返事がない。
「もう寝ちゃったの?」
聞こえてくるのはスースーと一定の音で聴こえる息遣い。
これは寝てるな。
今までカナデがどうしてもと言うから(言ってない)やってた背中合わせを解きカナデの方を向く。
カナデは寝てしまったからか普通に仰向けになって寝ていたので寝顔がよく見れた。
ふふっ、寝顔可愛いなぁ。
スマホがあればきっと写真を撮っていただろうその寝顔を見て微笑む。
♢
ボクとカナデとの出会いは幼稚園に入った時、たまたま入園式の時に家を出たら隣の家から同じ制服を着た男の子が出てきたことから。
最初は親同士が仲良くなって話してたりしたけどボクはカナデに興味はなかったしカナデもボクに興味がなかった。
いつもボクは母さんの後ろに隠れていたし、カナデはいつも道端を歩いているアリを見ていた。
ボクがカナデに興味を持ったのは入園してからそんなに経っていないと思う、ただちょっとのことだ。
ボクが女の子たちと追いかけっこしている時に転んで泣いたんだ。
ずっと泣きわめいていた中周りの女の子は何も言ってくれないし助けようともしなかった、ただ固まっているだけ。
今思えばそりゃあ幼稚園児だもの仕方ない、とは思う。
けどカナデは違かった、誰も来てくれない中転んで泣いているボクのところに唯一大丈夫か?って声をかけてきてくれた。
頭を撫でてギュッて抱きしめてくれた。
それで周りの子達に先生を呼んできてって頼んでくれた。
ただそれだけの事、でも幼稚園の頃のボクからしたら優しくしてくれたことが嬉しくてかっこいいなって思った。
まぁ、ちょっとチョロいかなって思うけどね。
それから毎日お母さん達が喋っている時にお母さんの後ろに隠れながらカナデを見てた、表情を見て悲しそうな表情をしてたらボクも悲しくなって楽しそうな表情をしてたらボクも楽しくなれた。
気づいたら好きになってた、だから一緒に居たいって、話したいって思った。
それを母さんに話したら
『男の子っぽく話しかけてみたら?』
って言われた、それが始まり。
口が悪いってわかってたけど仲良くなりたいから話しかけて、そしたら少しずつ言葉を交わすようになって幼稚園でも幼稚園じゃない時も口悪くふざけながら遊んでってして。
もっともっと好きになって。
でも本来の口調ではないからずっと気をつけてて、本来の口調で話したら騙してたって言われるかもしれない、嫌われたくない、だからこのままの口調で話してないといけないって思ってた。
小学校の時も中学校の時も高校に入ってからも、でも違かった、カナデは気づいてた、気づいていたけど何か事情があるんだろうって踏み込まないで、けど仲良くしてくれて、ずっと一緒に居てくれた。
本来の口調で喋っても何も変わらないって言ってくれたんだ。
そんなのもっと好きになっちゃうじゃないか、前よりも今よりもどんどん好きになっていく。
ねぇ、カナデ、ボクは君のことがずっとずっとずーっと前から好きなんだよ?
きっと気づいてないんだと思うけどね、でもボクはボクでいていいって言ったんだ、だからボクはボクらしくアピールするから覚悟してよね!
♢
でも今はアピールではなく自分のしたいようにするよ、この世界に来て怖かったのに何事でもないように行動してボクを守ってくれた君に甘えようと思う。
おでこにかかっている髪の毛をずらし、唇をおでこに落とす。
今はこれだけしか出来ないけど、いつか、いつかその唇にできるといいなぁ......
そう思いながらレイはカナデの腕へと擦り寄り目をつぶり、すぐに夢の世界へと向かうのであった。
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