歩いて、落ちて、抱き締めて
友人と廃棄に行った。
通常の休みとはズレていた仕事では、
休みの合う友人が居るだけでも、
中々に恵まれている方だとは自覚していた。
夜景が有名なそこは、
廃墟になる前はパチンコ屋だったらしい。
その前は、昔からあるデパートだったとかで、
片方は立体駐車場。片方は、
デパートの屋上までの一本道だった。
夜景が有名な場所ではあったが。
自分達は、昼間に行った。
金がある訳でも無かったから自分達からしたら、
金の掛からない。時間を潰せる都合のいい場所だった。
メンバーは自分を入れて3人。
ここでは定番の友人Aと、友人Bとしておこう。
自分は、友人Bに拾って貰い。
もうひとりは、先に行っているらしい。
現地集合ってやつだ。
車を立体駐車場へ停め。
友人Bは先に着いているハズの友人Aへと電話を掛ける。
「着いたけど何処居るの??」
スピーカーから聞こえる音は、
少し電波が不安定な感じだった。
友人A「あぁ。デパートの方。
ってか下の方に誰か居るの見える?」
友人B「えっ??」
着いたばかりで、遠くの景色に目を向けていたから。
ましてや、他に誰かが居る事なんてのは分からなかった。
2人して、人を探した。
友人B「本当だ、、
でも何か変じゃね??」
先に見付けたのは友人Bだった。
友人A「そうなんだよ。
歩いてると思ったら、急に倒れる様に。
いや、何か。落ちて来たみたいに倒れて。
しばらくしたら、また歩き出すんだよ。」
友人B「ってか。
変じゃねえか??
どうやって移動してんだよ、、」
「えっ??」
友人Bの場所まで行き、自分も下を見てみた。
それはまるで気持ちの悪い映像を見ているかの様だった。
女の人らしき人は、ゆっくり歩くと。
不意に瞬間移動したかの様にして、上から落ちて来て。
地面へと横になっていた。
それをまた、はじめの場所から繰り返している。
「、、何だあれ、、」
目の前で起こる奇妙な光景。
外は明るく、目はきちんと冴えている。
友人A「ちょっと話し掛けてくるわ。」
友人B「やめとけよ、、」
携帯からは車の扉を閉める音がした。
上から下を見ていると、友人Aは女性の近くに車を停めた。
友人A「こんにちわ、、
あの。
何やってるんですかね??」
通話はそのまま繋いでいる様だった。
ざー、、ざざざぁあ、、
砂嵐の様な音は女性へと近付く程に大きくなり。
一緒に居た友人Bは、いきなり車へと乗り込んだ。
友人B「やべえってあれ、、」
下に居る友人Aが気になって、自分は目が離せなかった。
いや、、気になっていたのは、女性の事だったのかも知れない。
誰も居ない静かな場所は、友人Bの車の音と。
下から聞こえる僅かな話し声が響いた。
友人A「ええ。。
ほら、、あそこに。。」
下に居る友人Aが自分の方を指差した。
女性は、ゆっくりと顔をあげると。
目が合ってしまった。
「来る、、」
そう感じた。
その瞬間。
「うわぁああああああ!!!」
友人Bは、車の中から大声を出し。
勢い良くアクセスを踏んだ。
「おい!!」
友人Bは自分を置いて。
勝手に先へ行ってしまった。
下を見ると女性は、既に居ない。
鳥肌が立って。急いで立体駐車場を降りた。
ポケットの中の携帯が震えてるけれど。
とりあえず早く降りるしか無かった。
他に選択肢は無かった。
「まじかよ、、
昼間だぜぇっ、、」
運動不足だったからか。少し走っただけでも、
直ぐ息が上がっていた。
「はあ、はぁ、、はっ、、」
今が何階なのか。
そんな事を考えながらも。
長い距離を下ると。
目の前に女性が現れた。
肩で息をしている者とは正反対に。
涼しげな表情をした女性が、そこには立っていた。
何を思ったのか、とりあえず挨拶をした。
「、、っ。。
こん、にちわ、、?」
女性は、ゆっくりと距離を詰めてくる。
段々と近付付いてくる女性。
いつの間にか呼吸がおかしくなっていた。
「胸が、、苦しい。」
苦し過ぎて、その場所から動く事すら難しかった。
「はぁ、はあ、はあ、、」
どうしよう、、
対処方法なんてのは分からなかった。
どうすれば良いのか。
いや、、どうした良かったのか。。
その時、ふいに何かを思い出した。
そうか、、
正直。苦しくて、
少し。頭がおかしかったのかもしれない。
直ぐ目の前の。
触れられる距離に居る女性に。
自分は、優しく包容をした。
「大丈夫、、
辛かったね、、」
肩で。抱き締めた女性は泣いていた。
さっきまで汗をかいていたハズなのに。
身体はクーラーに当たっているかの様に冷たかった。
「大丈夫。大丈夫。。」
優しく背中をさする。
こんな事。人生でしたことは無かった。
何となく見ていた心霊番組で。
有名なお坊さんが。
「誰かに何かを分かって貰いたかったり。
誰かに自分の事を見て欲しいから。
肉体を喪っても尚。そこに現れるんだと、、
だから、見えてしまった以上は、、
何かしらやってあげるべきなんだと、、
私はそう思い。手を合わせさせて頂いてます。。」
後から考えれば。
知らない女性に抱き付いて「大丈夫」なんて。
そんな逮捕されるかもしれない事を。
平気でやっていた自分が恥ずかしいくらいだった、
信仰心なんて無くとも。
同じ様に、手を合わせれば良かったんだ。
けれども。あの時は、、
そうしてあげたい気持ちに。
なっていたのだった。
そうしなくちゃいけない気に、されていたんだ。
友人A「おい!!
大丈夫か??」
気が付くと目の前には、
置いて行った方じゃない方の友人Aの車が停まっていた。
「あぁ、、」
額を擦ると、いつの間にか。
涙が流れていて。
目の前の女性も消えていた。
友人の車へと乗ってしばらくすると、
ピーッ、ピー、ッピー、
と警報音が鳴った。
友人A「あぁ。
シートベルト着けてくれる?」
今の車は重さを感知して。
シートベルトを催促するらしい。
「わりい、、」
カチャッ。
ピーッ、ピー、ッピー、
友人A「ん??」
友人Aは、車のディスプレイを確認した。
ピーッ、ピー、ッピー
鳴っていた場所には、
誰も居ないハズの誰かが一緒に乗っていた様だった。
そのまま近くの寺だか神社に行って。
先に待って居た置いてった友人Bに。
夕飯を奢って貰ったのは言うまでもない。
そんなお話。