【13巻発売記念SS】悪役令嬢の侍女は照れさせたい
明日4/16、13巻発売です!よろしくお願いします。
モネはローズの侍女で、リチャードの乳母の娘です。
私、モネはローズ様の侍女となってから、自身の趣味趣向について新しい扉を開いたと日々感じている。
本日はアディール家の労働規定に則った正式な休日。
街を散策しているところに突然現れた、秘密の恋人──雇い主の子息、ローズ様の兄。つまりパトリック様も一緒に散策することとなった。
ところが天気は突然の雨模様で、ただいま雨宿りとなっている。
馬車を返してしまったものだから、パトリック様も私も街で立ち往生。
彼は次期侯爵であり、王太子殿下の側近としても、その他色々……主にローズ様関連でお忙しいのに。こんなところで時間を使って大丈夫かしら。
そう雨雲を睨むパトリック様の横顔を見ていたら、おや? と気づく。
もしかしてこれってデートのようではありませんか。
ふふ。パトリック様に「デートみたいで嬉しいです」と伝えたら、どんな反応をなさるかしら。
そう考えたら、この雨模様もそこまで残念ではなくなった。
私のお世話になっているアディール家の兄妹は、変なところで照れ屋なのですから。おもしろくてたまらない。
「坊ちゃま」
「ぼっ、外では坊ちゃまはやめてくれっ」
雨音に紛れるように、そっと話しかけたのだが。あえてなのか? という声量で返事があった。
そうやって可愛い反応を見せるから、いつまでも坊ちゃまと呼びたくなるのだけれど。
「邸の中ではいいんですね」
「いやっ、そういうわけではないが、ホラ、いつも通りにしないと怪しいだろう」
別に好んで呼ばれたいわけではない! とパトリック様は眼鏡をクイッと指先で持ち上げた。
そうやって澄ましている顔を装っている男性が照れると、とても可愛らしいということを。パトリック様が教えてくれたのだった。
私の趣味趣向を歪ませた責任を取ってほしいものだが、さてどうなることやら。
彼は次期侯爵で、私はローズ様の侍女だ。
ローズ様が王太子妃になられた暁には、私もローズ様と移動することになるが、彼の未来に私はいるのだろうか。
その未来予想図は、この雨空のように隠れている。
「よし。傘を借りて移動しよう。時間が勿体ない」
「あら、いいのですか? 足が汚れますよ」
「俺はいいが、モネも汚れてしまうな。せっかくキッ……」
「なんですか? き?」
「キッ……キレ……イな格好をしているカラッ」
「あら嬉しい」
このような調子で、一言褒めるのにもいちいち可愛らしいのはどうしてだろうか。
ローズ様のことに関しては真顔でサラサラと「可愛い。ローズの可愛さで世界の均衡が保たれている」「なんだ? ああ、ただの天使か……」など迷言を残す癖に。
商店で傘を入手したパトリック様は、一つだけ傘を広げてこちらを振り向いた。
「あら? お一つですか?」
「これでいいだろう」
これは確か本で読んだことがあるシチュエーションだわ。
なんといったか、そう、これは
「「相合傘」」
「……これで、いいだろう。声がよく聞こえる」
傘で顔を隠されてしまったが、優秀なパトリック様は私の愛読書も確認済だったのかもしれない。
傾いた傘をくぐり、パトリック様の腕をとる。なるほど、一つの傘に入ると自然と距離が近くなる。
「本当ですね。パトリック様の赤いお顔がよく見えます」
「〜〜〜〜!」
こんなことがあるなら、雨の日もいいかもしれない。そう思えた。
「モネ、横では肩が濡れてしまう。ここに」
「はい?」
「傘を俯瞰して時計と例えると」
「時計」
「俺が4時から5時のところにいたら、モネは10時の位置にいるのが一番効率的だと思わないか」
「効率的」
パトリック様は真顔だ。純粋に二人が濡れない最大公約数を考えたのだろう。頼もしい。
「では、パトリック様が前を歩いてください。侯爵家の御子息を後ろに歩かせるなど、少し居心地が悪く……」
「いや、モネが前を歩くべきだ」
「そうでしょうか」
「そうだ。そうしなければ…………モネが、見えないだろう……せっかくのデートなのに」
ちらりと見上げたが、よほど見られたくないのか明後日の方向を見ている。だが赤い耳は無防備だ。きっと触れたら熱いだろう。
でも、私の手も熱を持っているのだから、わからないかもしれないけれど。




