【6巻発売記念SS】孤児とあいつ
ピッコマさんで6巻先行配信始まりました!
この話はあいつのその後です。
時系列はシーズン1の直後ぐらいでしょうか。
孤児院に、ムカつく新人が来た。
俺は、あいつがとにかく嫌いだ。
メシは残すわ
見かけるたび、いっつもつまらなそうな顔をしているわ
目が合うと嫌なものを見たような顔をして、ぷいと逃げる。
────すっげえ感じが、悪い。
嫌いだわぁ。
女共がきゃあきゃあ騒ぐのも馬鹿みてえ。
「なーにが『王子様みたい』だ、よ!」
おもいっきり振りかぶって窓に泥団子をぶつける。
あいつがいつもぼーっと外を見てる窓だ。
その窓はもう泥が垂れるほどついている。
「働けっつーの!オラァ!!」
最後の一つを思いっきり投げたら、ちょうどそいつが窓を開けたもんだから泥人間になってやがった。ざまあみろ。
そいつが怒り始める前に急いで木の影まで逃げた。
あいつは怒鳴るだろうか。
あいつがココにやってきたのは夜中だった。
あの日は夜中だっていうのに、孤児院に響くほど「ソーニャは」って男の怒鳴り声が響いたんだ。
俺も、チビたちももちろん起きた。
この孤児院には大人の男はいない。働けるようになったやつは出て行くから。だから、怖がるチビが泣いてくっついてきていい迷惑だった。
あの時からむかついてたんだ。
だから、あの時みたいに怒鳴って怒り散らすんだろうと思ったのに。
あいつはつまらなそうな顔で泥がついた服を見てた。
見てるだけ。
その反応もムカつく。なんなんだよ。ムカつくムカつくムカつくムカつく!!
「────っお前!なんなんだよ!!」
気づいたら、俺の方が怒ってた。腹が立ってしょうがなかった。
こっちはもう怒り狂ってるっていうのに、あいつはボーッとした顔で驚きもしない。
俺をチラッと見ただけで、また泥を見てる。
「~~~お前!!もう病気は治ったんだろ。なんで不貞腐れてんだよ!」
「……病気、だって?」
うわ、気取った喋り方。なんだこいつ。かっこつけやがって。嫌いだ!
いつもこんなに腹が立つわけじゃない。でもこいつには言ってやらなきゃ気が済まなかった。
「お前は母ちゃんみたいに白いから、病気でずっと寝てたんだろ。でもお前は母ちゃんみたいに痩せてないし、顔色もいい」
母ちゃん、と自分の口から出た言葉に自分で驚く。
でも俺の母ちゃんはそいつとは全然違った。濁ってて、固くて、ずっと寝てて、動かなくなった。だから。
「だから、もう充分、ぜんぶ治ったんだろ」
それなのに、なんでお前はメシを残す。
母ちゃんと違って喋れるのに。
母ちゃんと違って動けるのに。
お前の、そのつまらなそうな顔を見てると腹が立つ。
全部を口にすると負けるような気がして、つい口を食む。
そいつはまた俺から視線を逸らした。
「……怪我人にそう怒鳴るな」
「そんなもんツバつけとけバーカ!」
これが俺とあいつの”対立した日”の出来事だ。
あいつに大げさに巻かれた包帯がとれた頃、やっとあいつは外に出てくるようになった。
皆で畑を耕したりしているというのに、あいつはただ見てるだけだったけど。
「お前はよく泥を投げるね」
「うっせバーカ!お前みたいなの顔だけ引きこもりの穀潰しっていうんだぞ!」
「……言っている意味がわからないな」
「バーカ!バーカ!」
「”バーカ”とはどういう意味なのかな。侮辱されていることは伝わるが……あぁ、もしかして”馬鹿”に近いのかな。変わった言い回しだね」
あいつはぶっ飛んでる。こっちこそ何を言っているかわからない。こういうのが”世間知らず”というのだろう。もちろん、あいつのことだ。
全部が全部こんな調子だから、いちいち腹を立てるのがめんどくさくなってくる。
「バーカ」は超絶下品なスラングにお好みで変換してください。
次回、2024/3/15(金) 12:00に更新予定。
(続くのにそこまで開けたら忘れますよね。大人の事情がアレやコレやですみません!)
16日に各サイトで配信スタートです。扉絵のローズ作の猫の絵が本当に最高なので全人類見てください。




