4巻発売記念SS その2
以前、Twitterに投稿した記念SS
明日、電子書籍4巻発売です~!
紙書籍も2巻まで出てますので、よろしくお願いいたします。
時系列はシーズン2終了後のほのぼの編
「婚約者の兄は心配性5」
「わたくしが一日騎士団長、ですか?」
「広報活動の一環でね。そういう案が出ている」
執務室の談話スペースでの休憩中。リチャードがそういえば、とローズに話題を振った。
もちろん、騎士団長の通常業務をそのまま貴族令嬢であるローズが担うということでは無い。
若い貴族令嬢世代の中心人物であるローズが役を担うことで、騎士団の活動認知・イメージ改善が目的だ。
あけすけに言えば、騎士団員のお見合い活動への布石でもある。
ローズは何かにハッと気付いたかのようにティーカップを音も無く戻した。まるで一つの真理に触れたかのような顔だった。心配だ。「マントに刺繍をせねば」や「騎士団では獅子をモチーフとした刺繍が多いと聞いているので、私は猫をあしらおうと思います」と言い出すだろうと予測できる。猫の刺繡が入ったマントをひるがえすローズもかわいいからいいのか。いいのか?
こちらの予想とは裏腹に、やや長めに何やら難しい顔をして考え込んでいる。
すっかり自分の世界に飛んでしまったローズの髪をくるくる指で巻き取るリチャードに、近すぎる!と視線を送る。それを受けてリチャードはローズとの間を、気持ち猫一匹も入らないような距離だけ空けた。
なんだこの二人の空気は。聖女の披露目の夜会の日からこっちの空気といったら胸やけしそうである。
だいたいおかしいだろう。なぜ二人が横並びで、俺が向かいのソファーなのか。兄なのに!ローズのお兄ちゃんなのに!
俺の疑いの籠った視線になにか思うところがあったのか、リチャードが気まずそうにコホンと咳ばらいをして髪から手を放した。ますます怪しい!!
「……まあ突拍子もないけれど、そういう気軽な提案が出来る組織っていうのは」
「───つまり」
下されたリチャードの手がガシリと掴まれた。ローズに。
ローズ!?と割り込もうとする俺より早く、ローズがなぜだか覚悟が決まった眼でリチャードを仰ぎ見た。なんだその気迫は。
崖に追い込まれたかのような鬼気迫る眼の強さに圧倒され、口を挟めない。
「つまり、わたくしが騎士団長を務める間、現騎士団長であられるパトリオート伯が王太子殿下の婚約者……ひいては悪役令嬢になる、ということですわね」
ごくり、とローズの喉が鳴った。
「ん?」
「え?」
なんだって?
「くっ……パトリオート伯が演じるのであれば、きっと勇ましく、勇猛果敢な悪役令嬢になること間違いなしですわ。まさか一日でとって代わられる、なんてことがあってはなりません。わたくし、負けません!」
燃えている。ローズの瞳には闘志が宿っていた。なぜだ。
なぜ騎士団長と一日交代体験をすることになっているのかを聞こうと思うのに、筋骨隆々な騎士団長が優美なドレスを身にまとい扇を翻す図が邪魔をする。きっと騎士団長が扱う扇は鉄扇であっておかしくない。一突きで仕留めるだろう。何を?
悪役令嬢(騎士団長)には物理的に断罪されるんだろうな、というところまで意識が飛んでいたが正気に戻るのはリチャードの方が一歩早かった。
「………………なるほど」
「んなッなるほど!?リチャード、なにがわかったんだ!?」
お兄ちゃんは何もなるほどではないぞ!?
リチャードは握られた手を上から包み、あの”王子様スマイル”を繰り出した。
その横顔を見て確信する。
リチャードも未だ混乱していると!!
目の焦点がものすごく遠くまで行って帰ってきてないぞ!?
「ローズは唯一無二だね」
「リチャード様……」
ローズの頬が薔薇色に染まり、紫の瞳が濡れたようにきらめいている。
何も説明になっていないが、二人の間には余計な言葉は不要ということなのだろうか…………いやいやいや、何を目と目で通じ合っているんだ。近いぞ。そろそろ手を離しなさい!




