悪役令嬢の奇縁 2
大きな喝采に驚いたのか目を丸くして固まる黒猫ちゃんは、布を子どもたちに手渡して下がってしまった。
サーラ様の肩にお行儀よく止まる白い鳥は、王宮の庭でよく見かける鳥に似ている気がした。
黒いお目目でキュルルンとこちらを見る鳥はなかなか可愛い。
「お見事でしたわ。鳥とは芸を覚えますの?」
触っていいかしら。怖がらせてしまうかしら。
ジリジリと近づこうとするが、侍女がわたくしの前に立ちはだかり近づけません!
「芸……ではありませんが、鳥も人の気持ちがわかるのです」
ねぇ?と白い鳥は近づいたサーラ様の指に頭を近づけた。
「かッ、ンンンッ……この子は他に何かできて?」
わたくしも少し撫でてもよろしいかしら!?
「他に……人や探し物を見つけて教えてくれたり、こうして手が届かないものもとってこれます」
そう何となしに返された言葉に、ピリッと護衛騎士たちの空気が鋭くなったのがわかった。
サーラ様も感じ取ったのか、ビクリと怯えた様子で鳥を抱きしめ隠す。
「皆さま少し落ち着いて。こんなにも可愛らしい小鳥が怯えているわ」
「あぁ、この子は本当に可愛らしいね」
ミハエル様が挨拶をするように指を出せば、キョトキョトと鳥は軽く指をつつき飛び乗った。
ミハエル様と白い鳥。絵になるわ!
そして心配そうに眉を下げているサーラ様へニコリと笑みを向けた。
まるで悩める者に救いを差し伸べるような、温かみがある表情だった。
「鳥は植物の種を運ぶと聞きますが、この子はあのような布まで持ち運ぶとは力持ちですね」
「ええ、あ、はい……」
「それに、とても人になついている。さぞ可愛がってきたのでしょう」
「はい……それはもう。いつもそばにいましたので……」
「それは心強い。とてもよい友ですね。サーラ嬢も生国から離れ、さぞ心細かったことでしょう。この子がいてくれてよかったですね」
「はい……!」
ミハエル様……すごいですわ
鳥も黒猫ちゃんも手なずけているわ……!
初対面ではあんなにツンツンと高飛車だった黒猫ちゃんも、
ミハエル様の穏やかで全てを包み込んでしまいそうな包容力、そして儚げで美しいお顔にすっかり心を開いていますわ。
なんということでしょうか。わたくしが冷たい風ならば、ミハエル様は旅人を癒す太陽だとでもいうのでしょうか。
黒猫ちゃんがデレるまで異常に早かったわ!
「この子はどの程度飛ぶのでしょう。ここまで遠い道のりでしたでしょう。よくはぐれずここまで来れました」
「休憩なしでもかなりの距離を飛べますので、たまに指笛でこちらの位置を教えれば迷子にならずついてこれます」
「かしこい子ですね」
更に笑みを深くしたミハエル様の様子に、皆ポッと頬を染めている。
が、私はなぜか寒気を感じていた。こ、これは……!
「では、こちらの布をまた先ほどの木の上に置いて戻ってこれますか?」
「目印があれば訓練をすればできないことはないですが」
「あぁ、では初めての場所では難しいですね」
残念です、と愁いを帯びた横顔が悲しそうでサーラ様はつられるように何か考え始めた。
「初めての場所でも、目的地に私のように目印となれる受け手がいれば出来ないことはないかと存じます」
──スラリと流された視線は、あの断罪劇の
「あぁ、それは便利ですね」
──リヒト様に向けられた時と同じような鋭さで
一瞬でその瞳を隠したミハエル様は、腕に乗せていた白い鳥をサーラ様へと戻した。
サーラ様は役に立てたと言わんばかりの満足気な顔で鳥さんをほめている。
デニス様は何か気づいたのか、ハッとした顔でミハエル様に向き直った。
「ミハエル様。もしかして鳥まで下僕として使うつもりですか?」
「はは、デニスはおもしろいことを言うね」
わかってなかったわ。
下僕とは……?
「鳥を飛ばす芸は貴族様に好評頂けますでしょうか。未来に向かう、飛翔、旅立ち、そういった場面で……」
「デニス様は商売熱心ですね」
「輝く未来の国母アディール侯爵令嬢様の進むべく先のお手伝いが出来ればと、それが我がピオニール商会の総意ですので
今後ともどうぞ御贔屓ください」
キラキラと大げさにかしこまるデニス様はやる気に満ち溢れている。
デニス様の圧から逃げるように「ちなみに」とサーラ様の方へ近づき声を潜める。
「猫は芸を覚えるかしら」
「猫は試したことがありませんが……鳥より頭が良ければ出来るわよ」
ムムムッ! スコちゃんはかしこいもの!
業務連絡入ります!
ちょっと旅行に行きますので次回の更新は木曜日…に、出来たらイイな…と考えています。
次回「ローズ、涙」
おたのしみに〜!




