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悪役令嬢の野望


反抗期の真っただ中にいるであろうリヒト様へ心の中でエールを送り、穏やかに今回の定例のお茶会はお開きとなった。

今日はリチャード様の執務室へ伺う予定では無いけれど、せっかく王宮に来たのだし会いに行ってもいいかしら……と、後ろを振り向くといつから居たのか丁度よくリチャード様のいつもの従僕が控えていた。

まだ何も言っていないのに心が通じたのか従僕に案内されるまま執務室へと歩を進めた。


執務室へと向かう足取りは軽やかだ。地上からやや浮いているかもしれない。

いつの間に羽が生えたのかしら。かかと辺りに生えたのかしら。

完璧な淑女である私はかかとの羽のチェックは帰宅後に私室でじっくりと執り行うことに決めた。


小鳥さんたちの肩が温まってきたのか急にピチピチと鳴きはじめ、王宮を彩る花々もたった今目覚めたかのように瑞々しく咲き誇っている。彩度も上がっている。


むむっ!急に今日のテーマソングが降りてきましたわ。天界から。

女神さまがハープで愛の調べを弾き語りしている音が聴こえるわ。ハッ、天使さんまでフルートのチューニングを始めたわ。

女神さまも天使さんも、今日はお寝坊さんね。ふっふっふ。


執務室の扉が開き、笑顔で出迎えてくださったのは今日も輝く美形オーラを振りまくリチャード様とお兄様だ。

急に明るい光源(美形)を見たものだから、目が眩んで前が見えないわ!

瞳に優しいお兄様をチラチラ見ながら目を調整する。


「ローズ、なにか失礼なことを考えているだろう」


お兄様ったら鋭いですわね……!

お兄様もインテリ系美形なのですよ? でも、そこはほら慣れですわ。


「ンンッ──リチャード様、お兄様。ごきげんよう。本日はこちらへ来る予定では無かったのですが、お話ししたいことがあり来てしまいましたわ」


「あぁ、今日はリヒトと会う日だったんだね。遅かったから心配したよ」

「知ってただろ」


「今日はいつにも増して美しいね。やはりローズには空色が一番似合うな。その姿を誰よりも先に見たかったよ」

「その色のドレスでリヒトに会いに行ったのか。さすがだなローズ」


「はいっ自信作ですの!」


お兄様がなんやかんやと騒がしいが、一旦置いておく。

ドレスを褒められニヤニヤしてしまう顔を鋼の精神で"ニコッ"程度に抑え、リチャード様の目の前でクルクルと回る。喜びのあまり想定より多く回ってしまう。めでたい。


「この装飾の話をパトリックから聞いたよ。確かに宝石と見間違えてしまいそうなほど美しいね」


さすがリチャード様! お耳も早ければ、お目も高い!


「そうなのです!このドレスの装飾に使用したガラスは無色透明ですが、宝石では表現できなかった色合いを作ることも可能ですの。ドレスの装飾に使用できるほど細かい物はまだ試作段階ですが、燭台の周りにこの加工され輝きを増したガラスを連ねたものを添えると、チラチラと揺れる光を受け華やかに周りを照らし輝かせる様子の幻想的なこと。その光の下でダンスを踊ったのなら、もうそこは夢のような空間になりますわ。はぁ……想像しただけで胸がいっぱいですわ……」


はぅん……想像でときめきが止まりません……!


やっとこのガラスのお話しが出来るとあって熱く語ってしまいましたわ。

ゆくゆくは、あの教会にあった神秘的な色ガラスで画家に絵画を描いてもらうのが夢ですわ!


そして、その美しい窓を背に教会で婚姻式を盛大に行うのです。

その光景は神聖かつ神秘的で参列した近隣諸国の方々も驚きひざまずくことでしょう。


はぅん……素敵…っ。ときめきが致死量ですわ!


「──それは、とても良い案だね」


リチャード様がおもむろに私の前にひざまずき、ドレスの裾をふわっと少しだけ持ち上げると装飾に顔を近づけた。


きゃーーー!!

ま、まるで、おとぎ話の騎士様のようでは無くて!?

王太子殿下に騎士とはなんだかアレだけれど、これは憧れていたシチュエーション5位のやつだわ!


お兄様! 絵師を! 絵師をここに!!


お兄様にチラチラとアイコンタクトを送っても、お兄様は『森で出会ったお姫様と騎士様を見守る森の動物たち』のようなお顔で立っている。


いや、うんうん、ではないのです、お兄様。


「──見事な出来だ。精巧過ぎて偽物として出回らないかな」


”ローズの憧れシチュエーション第5位"を知ってか知らずか、リチャード様はこちらを試すような表情で私を見上げた。


「……出回ると思いますわ」


リチャード様の挑戦的な視線に触発されるように、体の内が燃えるように熱くなる。


「宝石と見まごうほど精巧な物が出来、偽物が増える。それは想定内です。……わたくしは偽物が増えるからこそ、本物の価値が高くなると考えております」


リチャード様の瞳が私を認めてくださっている。

そう感じるほどの熱い視線に、恍惚とするほどゾクゾクしてしまう。


「宝石の価値とは、その宝石の"歴史"と"込められた想い"そして、"希少性"ですわ。

宝石は約30年で持ち主を変えると言われています。加工や研磨で姿を変え、人から人へ想いを乗せ渡るのです。そうして、その宝石にストーリーや歴史がうまれます。その加工技術の発展を後押ししたいと考えたのですわ。


そして、良くも悪くもガラスはガラス。偽物が増えれば本物を求める人々の熱量は自然と高くなり、価値も相乗して高くなります。その本物を見極める鑑定士の需要も高まりますわね。職人や鑑定士だけではなく、色々な方面から雇用が増えるでしょう」


リチャード様はゆっくりとドレスの裾から手を放し、立ち上がると私の右手を握り持ち上げた。


「そうだね。雇用が増え、人と物が動く。それは宝石を配るより、はるかに良い。

──やはりローズはたまらないな。どれだけ私を夢中にさせるつもりなんだ」


リチャード様は蕩ける様な笑みを浮かべ、私の手の甲にキスを落とした。

一拍遅れて見慣れた手が私とリチャード様の間に入り、お兄様に割り込まれるように背の後ろに隠されてしまった。


キスを落とされた手が、囁かれた耳が、激しくなる胸が、熱い。

右手を胸に抱き込み、心臓が壊れないようにぎゅっと体を小さくする。


「はい、離れろ、まだ気が早い。そこまでだぞ。お兄ちゃんは許しませんよ」

「手は良いだろ」

「ローズの反応が可愛すぎるのでダメです!ダメになりました!」

「あともう少しだっただろ!」

「ダメったらダメです!」


お兄様とリチャード様のやり取りは耳に入らなかった。


私の耳と頭と胸の中はリチャード様でいっぱいだ。


リチャード様が致死量ですわ……!



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