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悪役令嬢の挑発

「素晴らしいですわ! ローズ様!」


ええ。私もそう思うわ。

すごいわローズ! やったねローズ!

頭の中はお祭り騒ぎで笛と太鼓でパレード中である。


「ローズ様、この度の学科テストでの首位獲得、誠におめでとうございます!」

「たまたま運が良かったのですわ」


私は喜びを噛みしめるような面持ちで、控えめに微笑むに留めた。

悪役ってものは、いくら嬉しいことがあっても小躍りして神に感謝を捧げたりなんてしないのだ。


そう。この全校生徒がスタンディングオベーションで拍手喝采をしてもおかしくないほどの輝かしい功績をなしたとしても……!


ななんと、わたくしローズ・アディール。この王国の叡智を集めた学園の学科テストで。二位を大きく離して首位を独走! 爆走! したのですわ! ブラボー!


貼り出された順位表を眺めながら、達成感で胸がいっぱいになった。

思い返せば入学時のテストの時の私の目標は、この順位表でリヒト様のお隣に並ぶことだった。

(私ったら乙女!)


己の成績を上げるより、リヒト様だったらこの問題はこのように間違えるだろうというプロファイリング能力をいかんなく発揮しテストに挑んでいた。

(恋する乙女に宿る特別な能力が開眼したわ)


見事、リヒト様は五位で私は六位と、名前を並べる結果を納めてきた。

私は毎回それをウットリと眺めていた。


しかし。その私のちょっとした楽しみも、ソーニャ様とリヒト様の心の距離が近づくことで終わりを迎えた。


今回のテストでは悪役であり目標となるような、圧倒的な力を見せつけるために、より一層頑張ってお勉強してきたので、首位をとれて満足ですわ!


これにはリチャード様もニッコリね!

リチャード様はきっと「偉いぞ。流石は私が見込んだ悪役だ」なんておっしゃるわね!

もしくは「流石は妖艶美女。頭も良いなんてクラクラしちゃうよ」かしら! 罪な女ね!


脳内でリチャード様の美麗なお顔に扇をペチペチする妄想をしながら成績表を眺めていたら


ふ、と思い出した。


そういえば、リヒト様はどちらに……?


そのまま視線を下げると、いらっしゃいましたわ! 十位にリヒト様。十一位にソーニャ様ですわ。

ま! ソーニャ様ったらリヒト様のお隣に! 同じことをする乙女がいたのね。さすがだわ、ソーニャ様。


それにしても、十位とは。

リヒト様はどうされたのかしら……お腹でも空いて力が出なかったとか……?


その時。私の後ろにいた令嬢達がサッと横に分かれた。

誰かがやって来たのだろう。


私はゆっくりと振り向いた。


「ローズ様、今回のことは正直見損なったよ」

「あら、ノア様。ごきげんよう」


「ローズ嬢。カンニングなんてして首位を取って、それで満足か!?」

「あら、ベン様。カンニングとは穏やかではありませんね」


ベン様の目を見て、パチンと扇を閉じると大きな体がビクンッと跳ねた。

あら。この扇の感触を覚えていらっしゃったのね。よかったわ。


チラリと視線を流せば空気の読める令嬢方は「ローズ様、失礼します……」と囁き散り散りに離れて行った。


その場に居合わせた方々も、高位貴族の穏やかではない空気を察知し巻き込まれないよう音もなく離れていきました。野次馬なんてして、事が起きた時に巻き込まれては大変ですものね。この学園の方は空気の読める方々ばかりで安心しました。


「とぼけるな! おおかた誰かの答案でも覗いたのだろう!」


ベン様ったら体が跳ねてしまったことが悔しかったのか、勢いよく言いがかりをつけてきたわ。

ならば……その言いがかり、受けて立ちますわ!


「──誰かの……とは、どなたの答案でしょうか」


こてり、と顔を倒してベン様を仰ぎ見る。


「誤魔化すな!」

「いいえ。わたくしの点数は500満点中、498点。二位の方は466点。しかも隣のクラスの方ですわ。一体、どなたの答案を覗いたらこの点数になったのか教えていただきたいものです」


カンニングだなんて、人任せにして点数を取ってもしょうがないじゃない。そんなの三流の悪役よ! 物語序盤の斬られ役よ! 私は最後まで舞台に立つわ。舞台で散るの! 華麗にね!


「で、では教師に便宜を図ってもらい、テストの問題や答えを事前に知っていたんだろう!」


そ、そんな便宜を図る教師がいるのかしら!? 初耳だわ!


「そのような先生は存在しないと思われますが、もし心当たりがあるのであれば学園長へ直談判された方がよろしいのでは?」


ぐっ……と黙ってしまったベン様の横から、今度はノア様が出てきた。


「ローズ様。まぐれで今回に限って成績が良かったからって、それを鼻にかけるのはみっともないよ」


鼻にかけてないわ! まだ!


私は先程まで貼り付けていたほほ笑みを下ろし、少し目を伏せ、儚げな表情を作った。

ノア様のお兄様であるミハエル様に教えて頂いた、《天使の愁い顔》を発動!


「八つ当たりはおよしになって。わたくしは、ただひたむきに勉強をしただけですわ。それを不正だなんだと……ましてや、学園の先生方まで……」


ノア様は少したじろぐと、バツの悪そうなお顔になった。効きましたわミハエル様! さすがです!

ミハエル様いわく、ノア様は「虫に怖がり泣いてしまうような無垢な女性が好き」とのことでしたので、この《天使の愁い顔》を猛特訓しました。


特訓中、どうしても空腹で覇気が無い顔になってしまって困ったのはいい思い出ですわ。


「おかしいだろう! いつもリヒトより下位だったくせに、急に首位だなんて! それは不正じゃないかって声もあるんだ!」


息を吹き返したベン様が喋った! 連携プレーですわね!


「ええ。わたくしはおかしかったのですわ」

「なんだと」

「わたくしは殿下を支えようとするばかりで、上に前に立ってはならぬと自分を律してきました。しかし、私は新しい師と出会い考えを改めたのです」


「もう、やめてくださいローズ様! 間違いは誰にでもあることです……ッ。ですから……っ」


いつからいたのか、ベン様とノア様の後ろから瞳を潤ませたソーニャ様が躍り出てきた。


あっ、ちょっとソーニャ様、まだ師匠の話しの途中ですわよ!

今から師匠の凄さでベン様を圧倒させるところですわ!


「ですから…っ。ローズ様……今なら取り返しがつきます! 先生たちに謝ってきてください!」


ソーニャ様は体の前で組んだ両の手を震わせ、涙をこらえながら切にそう訴えた。


「──わたくしが?」

「はい……っ!カンニングは……、いけないことです。不正をして点数を取ったからって……虚しいだけじゃないですか!」


ヒ、ヒロイン~~~~!!!

見まして? ソーニャ様、よほど私が怖いのかぷるぷる震えながらも立ち向かって!

正しくあれと涙を浮かべながら悪に立ち向かう! これこそ、まさにヒロインのあるべき姿ではないでしょうか。ローズ感激。


では、これでこの場を終わらせるわ。


ソーニャ様、ベン様、ノア様の瞳を順にゆっくりと見据え歌うように話す。


「──ソーニャ様。わたくしは何ら恥ずべきことなどしておりません。まさしく、自分の力で手に入れるものにこそ価値があるからですわ」


しかし、視線だけは逸らさない。


「これ以上の言いがかりは侮辱として受け取ります。……悔しかったら、皆さまもお励みになって?」


私は逃げも隠れもしない。


「お待ちしておりますわ」


最後にニッコリと、しかし魔王のように微笑み。かっこよく身をひるがえした。

リチャード様! 決まりましたわ!


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[一言] ソーニャさんイメージの十倍くらい成績がいい……
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