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第25話:お祭りと告白 前編

◇ ◆ ◇


「ねぇ、花火大会に行こうよ」


夏休みに入り小町は、姉の小春と、純、純の妹の芽衣、そして同級生の黒崎巡を誘って、近くの河川敷で行われる花火大会に誘った。

周辺では有名な花火大会で、かなりの人が集まるお祭りである。


「私も息抜きしたくてさ!」


夏休みの間に小町の出演しているドラマのセカンドシーズンの撮影が始まっており、その合間をぬってのお出かけだった。


──そういうわけで五人は夕方の早い時間に待ち合わせ場所の駅に集まった。


純はいつもと同じような地味な服装──羽織っている紺のシャツだけはいつもより少しだけ頑張ったおしゃれ感があった。


小町は──


「どうかな? 私の変装」


いつもは明るめの髪を黒染めスプレーで暗くして、髪型もエクステンションを使って清楚なイメージのロングヘアーにしていた。

服装は青色の花柄で飾られた浴衣に、下駄を履いている。


「普段とだいぶイメージ違うでしょ?」


巡がうんうんと頷きながら小町の周りを回ってその服装を眺めた。


「確かに……これならバレなさそうですねぇ」


彼女自身も、黒と白を基調としたシックな浴衣を着こなしている。


「私のイメージってギャルっぽい感じだからね〜。この服装だとそれとは真逆だし、これだけ人がいれば大丈夫よ、きっと」


「なかなかいいんじゃな〜い? ぷはぁ〜、あ〜、やっぱ花火と言えばビールがうまいわ〜」


姉の小春はジーパンにTシャツスタイルでだれていた。

片手にはコンビニで買ったビールがあり、それをグビグビと飲んでいる。

アルコールが既にまわっていて顔が赤い。


「うわ〜……、お酒臭〜〜」


可愛らしい黄色の浴衣を着た芽衣は、そんな小春の姿をみながらうんざりとしていた。


「ど〜う? 純くん、感想はぁ?」


小春が純にからんでいく。


「そうですね〜……。普段の小町さんは、どちらかというと可愛いらしいタイプですけど、黒髪になるとより大人の魅力が出ますね。なんだか新しい小町さんを発見できたみたいで、うれしいです。浴衣も涼しげで、似合ってます。美人が際立ちますね!」


「わ〜お〜、ストレートぉ!」


「ちょ、ちょっと! 純くん、大げさだよぉ!」


小町はテレテレとしながらも、ほてった笑顔を隠すようにぶんぶんと手のひらを振った。


「いえ、大げさじゃないですよ」


純が追い打ちすると──


「うひひ〜」


「……も、もう!」


耐えられなくなった小町は手のひらで顔を隠した。


そんな姿を見て、芽衣は──


(……わ、私だって高校生になればあれぐらい……)


「まぁまぁ……芽衣ちゃん。そんな落ち込まずに……さぁ、行きましょ」


巡に気づかわれていた。


◇ ◆ ◇


皆で会場に到着すると──


「うわ〜、夜店が一杯だよ」


カステラ、焼きそば、お好み焼き、焼き鳥といったものを売っている屋台が、所狭しと河川敷に並んでいた。


「純くん、なにか食べたいものある?」


「いや〜、特には……」


興味なさげに答える純。


「も〜、そういうだろうと思った! ほ、ほら、たこ焼きとかどう?」


「ん〜……でも銀○この方が、きっと美味しいですよ」


比較として、有名なたこ焼きチェーン店を挙げてしまう。


「はいはい、そういうことは言わないの! お祭りならではの良さがあるんだからさ! ほら、行こう!」


小町は純の背中をおして、たこ焼き屋に向かう。


そんな二人の姿を見ながら他の三人は──


「ん〜……小町もだいぶ純くんの扱いに慣れてきたような……」


「……ですねぇ」


「ぐぬぬ……」


思い思いの感想を持っていた。


純と小町がたこ焼きの列に並んでいるのを待っている間、小春が切り出した。


「ねぇ、私たちも何か買いに行こうか? 焼酎とか、ハイボールとか、梅酒とか」


片手のビール缶は既に空になっていた。


「うう……それって、全部お酒ですね……」


「しゃーない、スミ○フアイスでもいいけど」


「それもお酒じゃん!? 私たち未成年です!」


「そっか〜。ん〜……それじゃあさ、かき氷とかどう?」


「あ……良いですねぇ!」


巡が提案に乗ってくる。


「ほら、かき氷って、ビールぶっかけたら、キンキンに冷えてやがる! って出来るし!」


「このアル中めぇ……」


「まぁ、行ってみましょうよ、芽衣ちゃん」


意気揚々とかき氷の夜店に向かう小春に続いて、二人もかき氷の屋台に向けて歩き出した。


◇ ◆ ◇


たこ焼きの列に並んでいた小町は、姉からの「私たち、別の屋台に行ってるからさ〜、ごゆっくりどうぞ♡」というメッセージを見て赤くなっていた。


(……もう……!)


「どうかしましたか?」


「え!? えっと、お姉ちゃんたちもどっかで食べ物買ってるって!」


携帯を巾着袋に放り込んで、はははとごまかし笑いをする。


「そうですか」


そう言って前を向く純。

そんな純の手を小町はつい見つめてしまう。


(……純くんと手をつなぎたいなぁ……なぁんて……)


お祭りの高揚感もあって、小町の心もいつも以上に盛り上がっていたのである!


──いつも以上の思い切りを見せるときだ。


小町は作戦を立てると──


「……っえい!!」


両手でとびつくように、純の右手をつかまえる。


「? どうかしましたか? 小町さん」


純はいつもの表情で小町の顔を見つめた。


(……くっ……純くんめ、やっぱり動じない!……)


「……え……ええと! ほ、ほら、お金だよ、お金!」


小町は両手に握りしめた小銭を見せた。


「ええ? いいですよ。親からもお小遣いもらってきましたし……」


「い、いいよ。ほ、ほら、私って、一応働いてるしさ!」


「そんな、悪いですよ」


「いいって! いいって! ほら、私がたこ焼き食べようって言ったんだしさ!」


小銭を握った手を、純の手に強引に押しつけた。


「そうですか? ……どうもすいません」


純は押し切られて頭を下げつつ小町の手をとった。


「えっと……き、気にしないで良いからね!」


「……はい、ありがとうございます」


「…………」


二人は至近距離で見つめ合うようになり、少しの沈黙が流れ──


「…………え〜と、小町さん……?」


「な、なに?」


「え〜と……手がですね……」


純の手を小町は握りっぱなしにしていた。


「──はっ──! ご、ごめん、ごめん!」


慌てて手を離して距離を取る。


「いえいえ」


純は再び前を向きながら、


「あっ、僕たち次ですよ」


脳天気にたこ焼きの順番を気にしていた。


一方、小町は──


(……前はよく分からなかったけど、純くんの手ってあったかいんだなぁ、結構ゴツゴツしてるし……)


などと純の手のひらの感触を名残惜しく確かめていたのであった。


【あとがき】

お祭り行きたくなってきた……。

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