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アルケミー ガジェット  作者: オオタカ アゲル
7/20

第7話 激戦

 コックピットの中でジークは焦りを感じていた。

 一撃離脱攻撃を繰り返しているうちにモーターから良くない音が聞こえてきたからだ。

 この音は試運転中に何度も聞いたモーターが焼き切れる前に聞こえてくる音と同じだった。

 ジェネレーターの出力的には問題ないはずだが、それなら何が問題なのかということになってくる。

 おそらくだが初めての戦闘で想定していた以上の過負荷がモーターにかかってしまい不調を訴え始めたのだ。

 試運転時には解らなかった問題点がデビュー戦でいきなり出てきてしまったのだ。

 そのため今はモーターを休ませるため一旦動きを止めていた。

 しかし、相手は長年試合経験を重ねてきたベテランだ。

【新人つぶし】と呼ばれていても、否、呼ばれているからこそ相手の不調に敏感になり好機と見るやすぐさま攻めたてる。

 それに対してジークは画面に迫る敵の姿と集音器から集まる外の音に意識を集中してタイミングを計る。

 アーケロンが数歩歩いてからのローラーダッシュ。

 相手が鈍重だと思い込んでいたら不意打になるであろう攻撃をジークは未熟で無駄のある動きをしながらも何とかかわす。

 そして、相手が大振りの後にさらす隙をついて、その背に向かって渾身の一撃を叩き込む。


 ガキン


 激しい金属音が辺りに響く。

 だがそれはジークが敵に有効打を与えた衝撃音ではなく、今まで見せていなかった素早い動きで振り向いたダルトンの攻撃がゼピュロスに当たった音だった。

 思わぬ攻撃でゼピュロスは吹き飛ばされてしまったが、何とか姿勢を崩して倒れこむ事だけはまぬがれた。

 しかし、今ので左腕の調子が悪くなった。

 咄嗟に今の攻撃を盾で防いだが、巧みな盾捌きができるほどの技量はないため左腕にかなりのダメージが入ったようだ。

 どれほどのダメージが入ったか確かめたいところだが、その隙を相手は与えてくれない。

 すぐさまダルトンが猛攻を仕掛けてくる。

 それをジークは間一髪で躱していく。

「さっきまでの勢いはどうした!」

 騒々しく捲し立ててくるダルトンの声は無視し、ジークは相手の一挙手一投足を集中しながらみさだめていく。

 そうしているうちにジークは隙をついた攻撃ができるようになっていく。

 だが、今のジークの操縦技術では十分な威力のあるカウンターにはならなかった。

「フン。悪足掻きを!」

 先ほどの攻撃が当たったことでもはや風前の灯だと思ったダルトンがさらなる猛攻を仕掛けてくる。

 攻撃に重さと鋭さが増した事でジークの技量ではだんだん捌ききれなくなっていく。

 そのことに焦りを感じたのかジークはゼピュロスに盾を構えさせて縫うように強引に前へと強引に突っ込んでくる。

「甘いわ!」

 それを破れかぶれの特攻と見たダルトンは嘲りながらも渾身の一撃を叩き込んだ。


 ガキン


 先ほどよりも激しい打撃音がして再びゼピュロスが吹っ飛ばされる。

 今度はバランスを崩してしまい地面に倒れこんでしまう。

 しかも左腕もなくなっており、さらに遠くへと千切れ飛んでいた。

 かろうじて握りしめることができていた盾には、先ほどの衝撃の強さを物語るように大きなへこみができていた。

「ちょこまかしやがって」

 勝利を確信した笑みを浮かべたダルトンは、ハンマーを振り下ろしたアーケロンの姿勢を直す。

「お前のようなクズは一生ドン底を這いずり回っているのがお似合いなんだよ!」

 そう叫んでとどめを刺そうとハンマーを振り上げようとしたが、うまく持ち上げることができなかった。

「なんだ。どうなっているんだ?」

 自身の勝利は揺るぎないものと思った瞬間の不調にダルトンは慌てふためくが、すぐに気を取り直して各部をチェックする。

その結果分かったことは右の肘が歪んで曲がらなくなっているということだった。

「クソ。どうなってやがるんだ!」

 悪態をつきながらもダルトンはハンマーを左手に持ち替えて引きずりながら前進する。

 さすがの重装パワータイプの機体でも両手用の巨大なハンマーを片手で運ぶのは一苦労なようだ。

 そうしている間にもゼピュロスはゆっくりと立ち上がる。

 一瞬の攻防で激しい損傷を受けたがゼピュロスはまだ動くし、ジークも健在だった。

 先ほども脳天を揺すぶられるほどの衝撃を受けたが気を失うことはなかった。

 そのためダルトンが近ずく前に立ち上がることができた。

 ジークは各部を素早くチェックして、弱々しく見えながらもゼピュロスを身構えさせる。

 それから相手のほうを見定め、右腕に不調があるのを確認した。

「やっとうまくいった」

 ジークがそう呟いた後に十分な間合いに入ったアーケロンが体を捻って溜めをつくる。

 どうやら今度は横に大振りして止めを刺すつもりのようだ。

 ジークは相手の動きを見定めてタイミングを計る。

「これでとどめだ!」

 もはや意地で立っているとしか思えない虫の息のようなゼピュロスに向かって、最後となるとどめの一撃を放つ。

 それに合わせてジークもこれが最後の一撃になるかもしれない一撃をお見舞いする。


 ガキン


 再び激しくぶつかり合う金属音がして何かが吹っ飛ばされる。

 観客の誰もがダルトンの勝利で試合が終わったと思ったが、そうはならなかった。

 なぜなら吹き飛ばされたのは巨大なハンマーであり、ゼピュロスは振り上げた斧の一撃を相手の肘関節に見事に当てていたのだ。

「やっとコツがつかめてきたぞ」

 今度はジークがコックピットの中で不敵な笑みを浮かべる。


 ジークは常に観察を続けていた。

 戦っている最中だけでなく、その前も。

 バドの家でテレビを見ている時も、単に試合に熱中するだけでなくあらゆる機体の一挙手一投足にいたるまでまで細かく監査していた。

 その中にはダルトンの機体も当然入っていた。

 昨日の整備の合間と今日も朝からいなかったのはダルトンの控えの整備場に行っていたからだ。

 もちろん破壊工作をするためではない観察するためだ。

 自前の小道具を使っての潜入術で入り込んだジークは相手の機体を隅々まで監査していた。

 そうやって技術者の目で見定めたジークは機体にどんな癖があり、どこを叩くのが一番効果的なのかを予測していた。

 残念ながら本人の技量でうまく活かせるなるまで時間がかかってしまい、危うい状況まで追い込まれてしまったが。

 もちろん潜入した時に破壊工作をしようかという思いは少しはあったが、純粋にバトリングの勝負で名をあげたいという気持ちが強かったため何もしなかった。


 かくして最初の特攻は一か八かの賭けで偶然にもうまくいった。

 その次はこちらの弱々しい姿に油断してくれたおかげでうまくいった。

 そのためダルトンは信じられないことがおこった事で茫然自失となってしまった。

「クッ。まぐれでいい気になるなよ!」

 すぐに正気に戻ったダルトンだったが、時はすでに遅かった。

 これを好機ととらえたジークがリミッターを外して全力での攻撃を開始したのだ。

「ウォー!」

 雄叫びをあげてジークは斧を叩きつける。

 制限時間はおよそ三分。いや、モーターの調子からもっと短いかもしれない。

 その間にダルトンのウォーリアを倒すことができなければ、もう何もできずに敗北となる。

 しかもこの試合は勝者が敗者の機体を奪えるリアルアンティだ。

 精魂こめて作ったゼピュロスを幸運にも手に入れた最高のジェネレーターごと奪われてしまう。

 返却金など払えるだけの貯えなどないジークはそれだけは避けたかった。

 だからこそ、この三分間に全てを賭けた。

「この、調子にのるな!」

 だがダルトンもベテランの選手として為す術もなくめった打ちにされることなく反撃にでる。

 肘を破壊されて武器は持てなくても蹴りを入れることはできるので、思いっきり右足を蹴り上げた。

 しかし、ガムシャラな攻撃をしながらも、極度の集中状態にあるジークの視覚と聴覚は相手の攻撃の前兆を捉えていた。


 ガキン


 間一髪で相手の蹴りを躱したジークは、そのまま膝に斧を叩きつけた後に体当たりを仕掛ける。

 いくら重装でパワーのある機体であっても体勢のの悪い状態で体当たりをくらえば当然ながら倒れるしかなかった。

 そうなったところでゼピュロスがすかさず蹴りつけ踏みつける。

 そうなったところでダウンのカウントが始まり、これが10数えられればジークの勝ちとなる。

 転倒の衝撃で気を失わなかったのか、ダルトンは懸命にもがいて脱出しようともがいている。

 だが、リミッターを外したゼピュロスのパワーと手足の損傷のせいで、うまく起き上がることができなかった。

「クソ、立て、立ちやがれ』

 悪態をつきながらも足掻き続けるが砂埃をあげるだけでどうにもならず、無情にもカウントが終了してジークの勝利が確定した。

 新人が悪役を斃す姿に感動を覚えた観客は惜しみない賞賛を送り、それに答えてジークはゼピュロスの右腕を高々と掲げさせた。

 そうして初試合であげた初勝利にジークが酔いしれている中で、ゼピュロスのモーターが火を吹いて壊れた。

 

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