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アルケミー ガジェット  作者: オオタカ アゲル
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第二話 ジャンク屋

 ジークは今、不機嫌な顔をした初老の男性と対面していた。

 男の名はバド。アクロスの街の外側に広がるスラムにあるジャンク屋の主人だ。

 バドが不機嫌な顔をしているのは、客がはけてこれから飲みに行こうか思っていた矢先にジークが大きな荷物を引きずってやって来たからだ。

 本当なら明日出直し来てこいと言いたいところだが、ジークとは色々と持ちつ持たれつな関係であるため無愛想な顔になりながらも対応しているのだ。

「それにしても、またとんでもない物を持って来たものだな」

 態度は素っ気ないが、仕事柄の好奇心を滲ませながら倉庫に運び込まれたコンテナをバドは調べ回る。

 バドは金勘定より機械に対する知識と技術で店を切り盛りしていた。

 若い頃に軍の整備士をしていたという噂があるが、本人は自分のことは語ることはないので真偽のほどは定かではない。

 バドは扉の把手を弄りながら鍵の調子を確かめる。

 それから様々な器具を持って来て本格的な鍵開け作業に入る。

 もちろんジークも側で黙って見ているだけでなく手伝いをする。

 普段なら素人の手出しは断るところだがジークは違った。

 バドがジークに出会ったのは三年ぐらい前のことだった。

 当時ジークは店の裏にあるジャンク品置き場に忍び込んで何かをいじっていた。

 それを見つけたバドは大いに驚いた。なにせこの店には自信が手がけた自慢のセキュリテイシステムがあるのだから。

 しかし、ここに入れたのは偶然だろうと思い直して、怒鳴りつけて追い払おうとしたが、その手元を見て静観することにした。

 彼はジャンク品を寄せ集めて何かを組み立てていた。

 そうして一時間ほどかけて作り上げたものをジークは高く掲げ持つ。

 それはオモチャのようなマジックハンドだった。

 素人から見ればチャチな代物だが、仕事がら様々な機械に触れて来たバドにとっては見事な一品のように見えた。

 ジークに物作りの才能があると思ったバドは、それ以来自由に店に出入りさせた。

 そして、自分が物作りのノウハウを指導しながらジークの作った物を店に並べ、ちょろまかす事無く利益の一部を渡していた。

 そうしている内に作業用の人型機械であるワーカーを完成させ、さらには砂中に潜んでいるサンドワームを引き摺り出すことができる高周波発生機を完成させてサンドワーム狩りをするようになった。


 カチリ


 夜も大分更けた頃、軽快な金属音が響き渡る。

 バドは額の汗をぬぐいながらコンテナの鍵が開いたのを確信して扉に手をかけた。


 ギギギ


 今度は不快な金属音が辺りに響き扉がゆっくりと開いていく。

 扉を全開にして二人は中を覗き込むが、当然真っ暗で何があるかはわからなかった、それでも倉庫からの照明でうっすらとだが何かがあるように見えた。

「今日はここまでにしておこう」

 そこまで確かめたところでバドがそのように切り出す。

 それを聞いたジークは驚いた顔になり、やがて納得できない不満顔になる。

「せっかく扉が開いたのに中を見ないのか?」

 つい強い口調になって抗議の声をあげるが、バドはそんなことには気にも留めずに答える。

「寄る年波には勝てなくてな。今日はもう休ませてくれ」

 普段は年寄り扱いすると怒るバドだったが、今は都合のいいことを言ってコンテナの扉を閉める。

 どうやら扉の鍵を開けるのに相当神経を使ったようだ。

 それから奥の方へ行ってから何かを持って再びコンテナの方へと近ずいて来た。


 ガチャン


 バドが持って来たのは錠前だ。

 ジークがジャンク品を寄せ集めて作った丈夫な錠で扉を閉ざした。

 ちなみにこの錠前は破られにくい物としてよく売れていた。

「お前も今日は泊まっていけ」

 なおもジークは不満を口にしようとするが、バドがとっとと寝床に引っ込んでしまったので諦める。

「それとジーク。今夜は用心を怠るなよ」

 不貞腐れて足元に転がっているものを蹴り飛ばそうしたところで、ひょっこり顔を出したバドが声をかける。

 不安定な体制であったため驚いて転びそうになるが何とか踏みとどまる。

「あんな物を持って帰って来たんだ。コソ泥どもがお宝があると思って忍び込んでくるかもしれないな」

 そう言って今度こそバドは寝床に入って行ったのを見てジークは気まずい顔をしながらも警告には従うことにする。

 この店はスラムにあるにしては警備がしっかりしていた。

 それは優秀な用心棒を雇っているからという訳ではなく、バドとジークが協力して作った警備システムがついているからだ。

 バドが店を出しているのはスラム街なので当然治安が悪い。

 なので自分の工作技術を使って可能な限りの防犯対策をしていた。

 それはもう近所でも恐れられるほどだ。

 それでもどういうわけかジークは潜り抜けて来たが。

 そのことで少し落ち込んだこともあったが、気を取り直してセキュリティの強化に協力させることにしたのだ。


 ジークは倉庫の一画にある整備場へと足を向ける。

 ジークがこちらに来たのは整備に必要な機械の中に自分のワーカーがあるからだ。

 ジークはワーカーに充電用のコンセントがちゃんと刺さっているかを確認し、さらに充電もちゃんとされているかも確認する。

 それが終わってからワーカーの座席に座り込んでから毛布を被って眠ることにする。


 ジークはこの店で住み込みで働いている訳ではなかった。

 スラムの中の空き家で一人暮らしをしていた。

 親はいたはずだが、ある日突然いなくなってしまったのでよく憶えていなかった。

 どうしていなくなったのかはわからない。しかし、スラムという場所では人が突然いなくなることなど珍しくもないことだ。

 突然天涯孤独の身になったジークは何度か死にそうになりながらもしたたかに生き残った。

 持ち前の手先の器用さが幸いし、どんな所にでも進入し、あり合わせの材料で便利な道具を作って生活に役立てているのだ。

 そのおかげでバドにも拾ってもらった。

 住みかだけは今だにスラムにある空き家を転々としているが。

 これはジークがバドのことを信頼していないからという訳ではなく、彼なりに考えたリスク回避だった。

 住みかを一定にしないことで敵対的な人間に待ち伏せされる心配もないし、財産を分散して隠しておけば全財産を奪われる心配もない。

 確かにバドの店はこの辺り一帯では安全な領域だが、それを過信するつもりはなかった。

 こうやってジークは生き馬の目を抜くような世界で生き抜いて来たのだ。


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