第8章 龍一の過去(其の三真の強さ)
月日は流れ、龍一は二年生になっていた……
「わ、悪かった。も、もう、修羅には手を出さないから……許してくれ……」
「許してください!だろ!クズ共が……」
六人のヤンキー達が、血だらけになって、倒れていた。
その喧嘩を、一人の少年が震えながら見ていた。
その少年こそ、少林拳の使い手、小林秀一だ。
もちろん、その存在を龍一は気づいていた。
そして龍一は、秀一の近くに歩み寄った。
龍一は、相手が強ければ、ヤンキーであろうと、一般人だろうと、男女関係なく喧嘩を売る。
だが龍一は、嘲笑うかのように秀一の横を通り去っていった。
おそらく、龍一は秀一に、お前は強いが、「臆病者だ!」と言いたかったのであろう……
それは、秀一が龍一に、恐怖を感じ、震えていたからだ。
秀一は、震えながらタバコに火を点けた。
「(あれが、喧嘩屋修羅……)」
それから一週間後……
この日龍一は、あるモノを目覚めさせた。
龍一とトオル、南は、西村モータースに居た。
ここは、摩利支天の六代目、西村和也の実家だ。
「やっと、復活した」
「おう、どうだ!?龍一」
「あっ、カズヤさん、復活しましたよ!ルナさんが愛用していた単車が……」
この日、目覚めさせたのは、瑠奈がレディース時代から、二十歳まで愛用していたカワサキの単車ニンジャだ。龍一が弟子になってからは、瑠奈も忙しくて、ずっと眠っていた単車……
それを、目覚めさせたのだ。
「けっ、単車には興味ネーとか言ってたくせに……」
「ああ、興味ないよ。だからトオル(お前)の単車(XJ)にも興味ない。けど、この単車は、ルナさんが愛用していたから、特別なんだよ」
「問題は、中坊のお前が、コイツを乗りこなせるかだ」
龍一は、まだ中学生、当然単車の免許など持っていない。
「へへっ、ルナさんも同じことを言っていた。けど、ナポレオンじゃないが、俺の辞書に、不可能の文字は無い!」
そう言って、龍一は単車にまたがった。
「その辺軽く流したら、ルナさんの店に行くから……それではカズヤさん、失礼します!じゃあな南、トオル」
ヴォン!ヴォヴォオオン!
龍一は、その辺を流した後、ルナの店に向かった。
喫茶「LUNA」……
ギャババババーン!
龍一は瑠奈の店の前で、単車を止めた。
そして龍一は、店の中に入っていった。
「ルナさん、ニンジャ復活しましたよ」
「へー、ちゃんと乗ってこれたんだ」
「俺は、ルナさんの弟子ですから……」
「それより、さっき、アンタの母親から、電話があったわよ。」
「あっ、携帯の電源、切ったままだった」
「まあ、心配していたみたいだから、家に帰りな」
「は、はい……」
「あっ、単車は、置いてきな」
「はい……」
龍一は店を出て、家に戻った。
「おかえり、龍一」
「ルナさんの所に、電話したみたいだが、なんの用だ!?」
「さっき、学校の先生から連絡があって、あなた、今日も学校に、行かなかったの?」
「悪いかよ?」
「今から、学校に行って、午後からの授業には出なさい!」
「イヤだね」
「龍一、あなた、もう二年生なのよ。来年になったら……」
「うるせーな!俺の勝手だろう!」
その時、今に居た父武蔵が現れた!
武蔵は、格闘家を引退してからは、時代劇モノの小説を書いたりしていた。
「沙織、その馬鹿は、行きたくないって言っているんだ。ほっとけ」
「でも、あなた……龍一、お父さんだって、本当は心配しているのよ。もちろん、お母さんも、そして、先生方も、みんな、あなたの事を心配しているのよ。だから、わざわざお電話を……」
「先公が心配!?笑わせるぜ!そんなの立場上、しょうがなくやっているだけだ!影では、俺をクズ扱いしたりして……あいつらは皆、似非教師だ!表向きは、いい面しやがって、偽善者共が……」
パシッ!
母沙織が、龍一の頬を叩いた。彼を叩いたのは、これが初めてのことだった。
「クソババア!(あっ、涙……)」
沙織の目から、涙が流れた。
その時、武蔵が、
「龍一、庭に出ろ!てめーが、どれだけ弱いか教えてやる。」
「じょ、上等だ!」
武蔵と龍一は、庭に出た。
「龍一、本気で来い!」
「い、いいのか!?てめーは、引退して十四年も経っているんだぜ!?」
「舐められたもんだ……お前など、左手だけで十分だ!」
龍一が攻撃を仕掛けた!
だが、全部、紙一重でかわされている。龍一が跳んだ!天誅だ!
だが、これもかわされた。
「もう、おしまいか?」
そう言って、武蔵の左正券突きが炸裂した。
龍一はそのまま、塀のところまでふっ飛んだ。
ドゴーン!
「ぐはっ……く、くそ、なんて一撃だ」
「喧嘩屋?修羅?笑わせるぜ!?てめーは、弱いものを守って、正義の味方みたいな事をしているらしいが、ホントは、ただ喧嘩がしたいだけなんだろう!?てめー自身も、偽善者なんだよ!瑠奈はお前に、何を教えているんだ?あの女も偽善者か?」
「俺の事を、どう言おうとかまわん……だが、ルナさんの事を悪く言うな!」
「だったら、弟子のてめーが、しっかりしろ!弟子の出来が悪いと、師匠も同じだと思われるだろう!」
「くっ……」
「俺は昔、瑠奈の父月形 良昭と戦って敗れたんだよ。テレビでも、俺は負けた事があるとコメントした」
武蔵は引退後、一度だけ敗北があるとコメントしたが、誰もその戦いを見たことがない。その時の戦いを見たのは、瑠奈、武、凍矢だけ……
そのため、誰も信用しなかった。
また、天神流や良昭の名前も出さなかった。
天神流は影に生きる武術……
だから、天神流の者でない人間が、天神流を語ってはいけない、武蔵はそう思ったから、名前を出さなかった。
もちろんマスコミから相手の名前は?と聞かれたが、武蔵は、
「本物の修羅と戦った」
と答えた。
「信じる、信じないは、人それぞれ」
それが最後のコメントだった。
「(親父が、良昭大先生と戦った!?しかも、親父が負けた!?そうか、それで引退したのか!?)」
龍一が、ようやく立ち上がった。
「どおした、偽善者ヤロー!もう、おしまいか?」
「くそー!いつか、てめーを超えてやる!」
龍一は、そのまま家を飛び出した。
「龍一!……あなた」
「ふん、あの馬鹿が、行く所は決まっている」
しばらくの間、龍一は歩きながら、自分の世界に入った。
「狂おしいほど、痛いのならば、すべてのモノを壊し、自らを修羅と化すことで、求めるモノを手に入れるため、戦い続ける」
龍一は、そうつぶやいた。
彼が求めるもの、それは強さ……
だが、今の彼は、喧嘩の強さしか求めていない。
「(どおすれば、親父を超えられるんだ)」
龍一が立ち止り、我に戻った。
しばらくして、彼が再び歩き始めた。
その時の龍一の顔は、まるで鬼のような表情をしていた。通行人達は皆、龍一と目を合わせないようにしていた。
その時、一人の男が龍一の肩にぶつかった。
「どこ見て歩いているんだ!?コラッ!」
龍一が大声で怒鳴った!
通行人達も、一瞬立ち止まったが、見て見ぬふりをし、再び歩き始めた。
「おっ、ワリーな〜ボウズ。」
「ボウズだと!?今の俺は、機嫌が悪いんだ!喧嘩なら買ってやるぜ!」
「俺は空手家だ!素人を相手にする気はない」
この空手家こそ、元摩利支天のメンバーで、後に新戦会の四天王となる原田光介である。
だがこの時、お互いに相手が何者なのかを知らない。
そのため、龍一は、すでに原田と会っていた事を知らない。
この時出会ったのは、ただの空手家としか覚えていない。
原田も、この時出会ったのは、ただの悪餓鬼としか覚えていない。
「空手家!?上等だよ!?俺は強いぜ!」
「ふーん」
龍一は、完全に切れた!
「ぶっ殺す!」
「礼儀をしらんボウズだなあ……まあ、昔の俺も人の事言えないが……」
「構えろ!空手家ヤロー」
「いつまでも、お前と遊んでいる暇はない。じゃあな〜ボウズ」
原田が、背を向け、去ろうとした。
「逃げるのか!臆病者!」
原田が立ち止まり、振り返った。
そして、原田が上段回し蹴りを放った。
だが、紙一重のところで止めた。
「(やはり出来る・・あの爺さん)これでどっちが強いか、分かっただろう。次は本当に当てるぞ!」
「(み、見えなかった……)」
「ボウズ、強くなるためには、負ける事も必要だ。その悔しさをバネにもっと強くなれ!」
原田が、再び背を向けた。
「ああ、それからこの戦い、おれ自身も、お前の後ろに居る爺さんに、負けた」
そう言って原田は、去っていった。
「(後ろに居る、爺さん?)」
龍一が、後ろを振り向くと、そこには一人の老人が立っていた。
「ジジイ、いつから、おれの後ろに!?」
「ホッホッホッ、ワシの気配に気がつかなかったのか!?わしは、あの男が回し蹴りをする、ちょっと前に、お前さんの後ろに居ったかな」
「(いくら、あの空手家ヤローに、気をとられていたとはいえ、俺の背後を取るなんて……)」
「あの空手家、強いのう……じゃが、お前さんは未熟者じゃ!」
「なんだと!」
龍一が構えた。
「おいおい、こんな年寄りに、暴力を振るう気か?」
「てめー、ただのジジイじゃネーだろう!?」
「あの空手家が、お前さんには、勝ったが、わしには負けたと、言っておったじゃろう……あの回し蹴り、お前さんに対しての警告と同時に、わしへの挑戦でもあったんじゃ……お前さん、あの蹴り見えたか?」
「い、いや、見えなかった……」
「そうじゃろう……じゃが、わしは見えた。顔色一つ変えずになあ。だから、あの男は、負けを認めたんじゃ!」
「……」
「わしの弟子にも、お前さんみたいに喧嘩の強さしか知らんやつが居る……武道家にとって、本当の敵とは誰だと思う?」
「……自分より強い相手!?」
「いや、己自身じゃ!わしの弟子も、お前さんも、心が弱いんじゃ!」
「心が弱い!?」
「そうじゃ!お前さんの心は荒んでいる。そのためお前さんは、わしに背後をとられたんじゃ!もし、わしが悪人じゃったら、お前さんはどうなっていったかのう」
確かに、この老人が悪人だったら、龍一は殺されていただろう。
「まあ、あの男の言うとおり、悔しさをバネに強くなることじゃ」
「じーさん、あんた一体何者だ!?」
「わしの名は、小野寺清じゃ!お前さんは?」
「神威龍一だ!」
「神威!?お前さん、伝説の格闘王の息子か?」
「ああ、けど、俺は親父から武術を学んでいない……俺の師匠は、ルナさんだけだ」
「るな!?月形 瑠奈の事か?」
「ああ、ルナさんの事知っているのか?」
「知っておるぞ。確か天神流とかいう古武術の使い手で、アル何とかっていう殺し屋じゃろ!?」
「アルテミスだ!それに、殺し屋じゃネー、スイーパーだ!」
「ああ、そうじゃ、アルテミスじゃ……そう名乗っておったわ」
「(名乗って!?)じーさん、ルナさんに会った事があるのか?」
しばらく小野寺が黙りこんだ。
そして、小野寺が、再び語り始めた。
「5、6年くらい前に、チンピラ共が悪さをしておったので、少し懲らしめてやったんじゃ。」
「へー」
「じゃが、そうしたら、チンピラ共が、わしの命を狙い始めてのう」
「そうか、それでアンタはルナさんに、奴らを始末してくれと、依頼したんだな!?」
「いや、逆じゃ、依頼をしたのは、チンピラ共の方じゃ……そして、あの娘が現れたんじゃ」
「ば、馬鹿な!?ルナさんは、クズを始末するのが仕事、そんなクズ共の依頼を受けるもんか!」
確かに、小野寺が弱ければ、瑠奈は相手をしなかった事だろう。
だが、小野寺も昔は名のある武道家、天神流の技を振るうに、これ以上の相手だ。
だから、彼女は、チンピラ共の依頼を受けたのであろう。
「あの娘は、修羅そのものじゃった」
小野寺が、この時言った修羅とは、荒んだ者のことではなく、三面六臂の闘神阿修羅の
ことである。その表情は、怒り、悲しみ、意志を表している。
確かに瑠奈は、強い意志を持っている。そして、家族や武を失って、怒りと悲しみを心に秘めて生きている。
「わしは、お前の父、格闘王とは戦った事はないが、おそらくあの娘は、格闘王より強いじゃろう……さすがのわしも、何十年ぶりかに本気になった。さて、この勝負どっちが勝ったと思う?」
「ル、ルナさん!?」
「そう、そのとおり、勝ったのはあの娘で、わしは負けた……望みどおり、わしの命をやると言ったが、あの娘は、ただあなたと勝負したかっただけ……そう言って去っていった」
その後、小野寺の命を狙ったチンピラ共は、全員病院送りとなった。
そして、瑠奈に恐怖を感じ、この街から姿を消した。
だが一人だけ、まだこの街に残っている。その男は入院中に、人のやさしさを知り、心を入れかえ、今は真面目に生きている。
「さて、そろそろ行くかのう」
「フン、いつか、親父にも、あの空手家ヤローにも、あんたにも、負けないくらい強くなってやる」
龍一は、そう言って去っていった。
小野寺も、その場を離れようと、歩き始めた。
その時、
「あっ!小野寺先生、どうも、こんにちは」
一人の少年が、小野寺にお辞儀をした。
「おう、秀一か……」
小野寺に、挨拶をしてきた少年は、小林秀一だった。
実は、秀一に少林拳を教えていたのは、小野寺であった。
「今、面白い男に二人も出会ったわ」
「面白い男?」
「一人は空手家、もう一人は、お前が前に言っておった喧嘩屋修羅じゃ!」
「ま、まさか、修羅のヤツ先生に喧嘩を……」
「売ってきた。じゃがなぁ秀一、少林寺拳法は喧嘩のための武道じゃない、己を鍛え弱き人を守るための武道じゃ!」
「……」
「まあ、お前も、あの少年も若い、これからじゃ」
その頃、龍一はルナの店にやって来た。
「やっと来た……今度は、あんたの父親から電話があったのよ」
「親父から!?」
「しばらく、私の所に預けるって……まあ、あんたには、まだまだ教えなければいけない事がたくさんあるし……とにかく、今日からまた、私と二人で暮らすのよ」
龍一と瑠奈は、二年以上、阿の山にこもって、二人で生活をした事があるが、瑠奈の家での暮らしは龍一にとっては、初めての事であった。
「はい!」
龍一は、再び瑠奈と暮らせるかと思うと、今日の出来事が、どうでもいいと、思えるようになった。さっきまで、鬼の様な表情をしていた龍一だったが、今はまるで、飼いならされた子犬の様であった。
「夕食まだでしょ!?用意できているから、食べな」
「はい!いただきます!」
「でもね、リュウ、あんたには、ちゃんと待っている家族がいるんだから、その事だけは、忘れるんじゃないよ」
「俺、お袋を、泣かせてしまいました……今度、謝ってきます」
「ホント、出来の悪い弟子なんだから……」
「でも、親父のヤツ、ルナさんの事を」
「偽善者って、言っていたんでしょ」
「知っていたのですか?」
「電話で、謝られたわ。でも、それは間違いじゃないわ」
「えっ?」
「間違っているのは、私の生き方……相手がどんなヤツでも、殺せば、罪人よ」
瑠奈自身、自分が罪人だという事を、誰よりも知っている。
そして、その罪を背負いながら、彼女は強く生きているのだ。
「後、親父以外に、空手家と、小野寺とかいうじーさんに負けました」
「あんた、小野寺先生にも喧嘩を売ったの!?」
「はい……」
「あきれた……これじゃ、まだまだ、奥義は教えられないわね」
「はい……」
「それから、どうせ学校に、行く気がないんでしょ!?あんたには、ちゃんと家の事や、店の手伝いをしてもらうから、もちろん、バイト代はだすわ」
「はい、分かりました。あの、僕はどこで寝ればいいんですか?」
「あんたは、下のリビングで寝なさい」
瑠奈の店の奥に、キッチンやリビング、バスルームなどがあり、二階に、瑠奈の部屋がある。
「ああ、それから、変な事しようとしたら、ぶっ殺すからね!」
「は、はい、分かっています」
こうして、龍一と瑠奈の新たな生活が始まった。
瑠奈の店は、年中無休……
瑠奈の店が休業する時は、天神流の特別な修行がある時か、瑠奈のもう一つの仕事が、ある時くらいだ。営業時間は、朝七時から夜十八時である。
その後、夕食が済んだら、天神流の修行が、朝方四時まで続く。
そのため、二人の睡眠時間は、2時間くらいである。
だが龍一は、強さを求めた。
今までとは違う強さを……
真の強さを求めた……