第6章 龍一の過去(其の一修羅誕生)
土方と瑠奈の戦いから一週間後……
すでに龍一は、学校を自主退学していた。
彼の担任は、止めるどころか、やっと一人、問題児が消え喜んでいた。
「緒方先生、また一人、うちの学校のクズが消えて良かったですね。」
「まったくですよ。あのクズ、父親があの格闘王だから、自分も強くなれると思っているんでしょう。」
その話を聞いていた女教師が、二人に文句を言い始めた。
「緒方先生、藤田先生、神威君はクズじゃありません。」
「早乙女先生は、あまいんですよ。あいつは、遅刻はするは、授業中は居眠りしているはで、問題児以外の何者でもありませんよ。」
「それだけで、あの子をクズと言うのですか!?」
「あいつは、普段おとなしくしているけど、裏では何をやっているかわかりませんよ。」
「そうです。どうせ影で、シンナーを吸っていたり、イジメをしたり、ホント何をやっているか分かりませんよ。」
「お二人が、そういう人だということが、よくわかりました。」
そう言って早乙女先生は、席に戻っていった。
「後は、嘉納 四郎も辞めてくれれば、嬉しいのだが……」
その頃、舞達は……
「なんか、龍ちゃんがいないとさびしいねぇ。」
「確かに今日一日、なんか物足りなかったなぁ」
「そうだね。しかも龍一君、明後日から一年間、山ごもりでいなくなるしねぇ」
「まあ、あいつが決めた事だ。それより、そろそろ帰ろうぜ」
その頃、龍一は、家で自分の過去を思い出していた。
今から十六年前……
一九九〇年五月二十日に、神威 龍一は、名古屋で生まれた。
そしてこの年に、伝説の格闘王が、格闘家を引退する。
三歳の頃になると、武道の変わりに、ピアノを習っていた。龍一は、両親からかなり甘やかされて育てられた。
そして、月日が流れ……
小学4年生の時、龍一はいじめられていた。
彼は毎日、毎日、上級生や中学生までマジっていじめられていた。
だがその年の、十二月一日に、龍一は、瑠奈に助けられ、そして弟子となる。
龍一は、瑠奈の弟子となってからは、学校に行かず、天神流の修行に励んだ。
「もっと腰に、力を入れて」
「ハアハア……は、はい」
龍一は、力強く蹴った。
「ダメダメ、こう蹴るのよ。」
バシッ!
瑠奈の蹴りが、龍一に決まり、龍一は一瞬体制を崩した。
瑠奈は、もちろん手加減をしたが、今まで甘やかされてきたため、龍一は今にも泣きそうな顔をしていた。
「まあ、今日はこれくらいにしましょう。」
龍一は、涙をこらえて、
「あ、ありがとうございました。」
そう言うと、瑠奈が近くに来て、龍一の怪我を診た。
「大丈夫みたいね。」
龍一の顔が赤くなった。
「(ホント、ルナさんって、美人だなぁ……こんな人が、将来お嫁さんになってくれたらうれしいなぁ)」
この頃から龍一は、瑠奈に憧れていた。
やがて、龍一も中学生になっていた。
龍一は、小学校の卒業式はもちろん、中学校の入学式にも出てこなかった。
だが、中一の秋に、龍一は派手に金髪に染め、二時間目の途中に登校してきた。
龍一が、通っていた白川中学は、昔から有名な不良学校で、虎次郎やトオル、南達もこの学校に通っていた。
また、あの瑠奈や北斗達もこの学校の出身である。
だが、十年も時が経っているので、瑠奈達を知っている教師はいなかった。
龍一が、ドアを開け、初めて教室に入る。
「おい、あれ龍一か?」
「マジ!?どうしたんだ!?アイツ。」
生徒が騒ぎ始めた。
今の時間、龍一のクラスは社会の授業をしていた。
「き、君が、神威君か!?」
社会科の教師は、震えながら、龍一に話しかけようとしたが、龍一は勝手に空いている席に座り、そのまま腕を組んで眠り始めた……
二時間目の授業が終わり、休み時間の時、二人のヤンキーが龍一の席に近づいてきた。
「おい、起きろ!」
「テメェ〜、なんだ、そのカッコウは……」
「なんだ、お前らか……」
実はこの二人、昔上級生たちといっしょに、龍一をイジメていた二人だ。
「雑魚に用はない。消えろ」
二人は完全に切れた。
「……まあ、強くなるためには、実戦も必要か……」
そういって、龍一は立ち上がった。
一人が殴りかかろうとした瞬間……
バキッ!
と教室中に鳴り響き、龍一の正券突きが決まった。
もう一人は、龍一の後ろを取ろうとしたが、結局、龍一の裏拳が決まった。
「龍一君!」
一人の女子生徒が、龍一に話しかけた。
「静か……」
彼女の名は、星野静で、ルックスも良く、成績も優秀でクラスのアイドル的存在だ。
「いったい、どうしたの?」
「お前には関係ない。俺はこれから、修羅となり強くなる。」
「ク、クソ餓鬼が……」
裏券を喰らった生徒は、ポタポタと鼻から血を流していた。
「おい、虎次郎は来てないのか?」
「き、来てねーよ」
「そうか……」
チャイムが鳴り、三時間目の授業が始まろうとした頃、龍一は教室を出た。
「おい、あれがホントに龍一か!?」
「ムチャ強え〜」
その頃龍一は、屋上で一服していた。
「(修羅か……いいだろう今日から俺は喧嘩屋だ!)」
昼休み、龍一は三年のとこに来た。
「お、おい、あれ一年坊か!?」
「それにしても、なんて目をしてんだ。」
「(チッ、強そうなヤツはいないのか)」
その時、教室から、泣き叫ぶ声が聞こえた。
「い、痛い……も……もう、やめて下さい。」
「お、おい、助けてやれよ。」
「馬鹿、お前が行けよ。」
「おい、ズボンとパンツ脱がせ!」
「や、やめて!」
その時!
「おい、まだ弱い者イジメをしているのか?マサシ!」
「誰だ!」
「昔、お前にいじめられた、神威だよ。」
「ああ、お前か……それにしても、あの泣き虫野郎が、ずいぶん派手な頭をしているなぁ」
マサシは、いじめていた少年を蹴っ飛ばした。
そして、龍一に攻撃を……
だが、一瞬のうちに上に跳び、そして龍一の天誅が決まった。
更に龍一の攻撃が続く……
その時!
「おい、一年坊、そのくらいにしな。」
「ああ!?誰だ、テメェー」
「俺は岡村トオル」
この時、龍一とトオルは初めて顔を合わす。
トオルは中学二年の夏に、この学校の転校してきたため、龍一の事を知らないのだ。
また、転校してしばらくしてから、南の兄北斗と同じボクシングジムに三年間通っていた。
「俺の名は、神威龍一……アンタ、強そうだな」
龍一は拳を強く握り、トオルに喧嘩を売ろうとしたが、トオルは、
「俺に、喧嘩を売ろうとしてもだめだぜ。俺は、無意味な喧嘩は嫌いなんだ」
「無意味な喧嘩!?トオル、こいつは三年に喧嘩を売ってきたんだぜ」
「ああ?てめぇ、またイジメをしてたな!?」
トオルの顔つきが変わった。
「(何だ!?コイツも俺と同じで、イジメをしているヤツが気に入らないのか!?)」
その時、龍一に一人の女子生徒が話しかけてきた。
「ちょっと龍一、私の彼氏に手を出さないでよ」
「南か……いい彼氏だな」
そう言って、龍一は教室を出た。
「南、もしかして、あいつが伝説の格闘王の息子か!?」
「ええ、そうよ」
「なかなか面白そうなヤツだ……」
トオルは嬉しくなり、龍一のクラスへ向かった。
龍一が、自分の教室に戻ると、さっきの二人のヤンキーが再び龍一に喧嘩を売ってきた。
「しつこいぜ、お前ら……」
龍一が攻撃をしようとした時、
「お前、ホント喧嘩が好きなんだな!?」
トオルが、龍一のクラスにやってきた。
「なんだ……?俺と喧嘩するきになったか?」
「いいや、俺はお前が気に入った」
「……!」
「どうだ、俺とダチにならねぇ?」
「ダチだと!?」
龍一は今まで、友達なんていなかったから、少し動揺していた。
そして、
「お前は、南の彼氏だし、俺もお前が気に入った……」
龍一は少し照れながら、返事を返した。
「お、おい、やばいぜ」
「ああ、トオルさんが出てくるとは……」
こうして龍一は、初めて友達と呼べる存在が出来た。
龍一は、それから毎日のように喧嘩をするようになった。
だが、龍一が喧嘩屋として喧嘩を売る相手は、自分が強いと認めた相手とイジメをしているヤツだ。
また、売られた喧嘩は必ず買っていた。
しかも、この時の龍一は手加減を知らない。
特に虎次郎とのタイマンは、瑠奈以外に、止める事が出来なかった……
初めて、虎次郎とタイマンをハったのは、龍一が喧嘩屋になって三ヵ月後だった。
ある土曜の午後……
龍一は、公園のベンチに座っていた。
その姿を、六歳くらいの女の子が眺めていた。もちろん龍一は、この視線に気づいていた。
龍一は、タバコに火を点け、そして微笑んだ。
すると、少女が話しかけてきた。
「お兄ちゃんは外人さん?」
「いいや、金髪に染めているんだよ。」
「なんか女の人みたい」
その時!
「あっ、兄ちゃん!」
「龍之介……」
「この人、龍之介君のお兄ちゃん!?」
「そうだよ。すごく強いんだよ」
「でも女の人みたいで、全然強そうに見えない」
どうやら彼女は、龍之介の友達で、名前は花沢百合という。
龍之介と百合が仲良くお話をしていたら、
「中坊が、何派手に染めてんだよ」
高校生くらいのヤンキー五人が龍一に喧嘩を売ってきた。
公園にいた親子達は、急いでその場から離れた。
平和だった公園の中が、一瞬で修羅場となった。
「修羅に生き修羅に死ぬ……」
そう、龍一がつぶやいた。
そして、一瞬で五人のヤンキーを血祭りにした。
「お前ら、運がいいなぁ。弟達がいなかったら、こんな程度じゃ済まないぜ!?」
「パ、パツ金に女顔……こいつが修羅か!?」
「すごーい。龍之介君のお兄ちゃん、本当に強いんだ」
だがヤンキー達にも意地があった……
まだ龍一とやる気だ。
だがその時!
「最近、ずいぶんと暴れているみたいだなぁ!?」
龍一の表情が変わった……
「龍之介、彼女連れて、他の所で遊んで来い」
「えっ?う、うん……ユリちゃん、行こう」
二人もその場から離れた。
「やっと、テメェーと喧嘩ができるぜ!虎次郎」
だがその時、警察が現れた。
「お前ら、何をやっている!」
「おい、マッポまで来たぜ」
「ああ、やばいな……」
ヤンキー達も、その場を離れた。
「堤防で勝負だ」
「フン!」
虎次郎も、公園から離れた。
だが、龍一はその場から動かなかった。
「お前、中学生だろう。名前は?」
「……喧嘩屋修羅だ」
「ふざけてないで、質問に答えろ」
「さて、そろそろいいかな……」
龍一はタバコを銜えた。
「おい、未成年がタバコを吸っていいと思っているのか!」
「未成年?タバコ?あの二人は、シンナーを吸っているみたいだぜ!?」
「なに!?」
警察が、後ろを振り向いた瞬間、龍一もその場を離れた。警察は後を追うが、龍一の速さに、ついて来られなかった。
龍一は、どうやら時間稼ぎをしていただけだった……
龍一が堤防に向かう途中、トオルと南に出会った。
「おい、そんなに慌ててどこに行く?」
「堤防で、虎次郎とタイマンだ。」
そう言って、堤防に向かった。
「……おい南、俺達も行くぞ!」
トオル達も堤防に向かった。
その頃堤防では、虎次郎が龍一を待っていた。
そして……
「待たせやがって」
「ああ!?誰のために、時間稼ぎをしてやったと思っているんだ!」
「行くぜ!」
ついに二人のタイマンが始まった。
先に攻撃を仕掛けたのは虎次郎だ。
バキッ!
と、音が鳴り響き、虎次郎のパンチが、龍一の顔面に直撃……
今度は龍一のローキックが、虎次郎こめかみに直撃した。
もの凄い激戦が続く……
トオル達が、堤防についた頃には、二人は血だらけになっていた……
さすがに止めたほうがいいと、トオルは思った。
だが、トオルでは、今の龍一と虎次郎を止める事が出来なかった。
二人の戦いは終わらない……
虎次郎が、隠していたナイフで攻撃を……
だがそれをかわし、龍一は手裏剣を投げたが、虎次郎もかわす。
しばらくしたら、静が現れた。
「龍一君、お願いだからやめて!」
「無理だぜ!?俺達でも止められないんだから……」
「そ、そうだ!兄貴の幼馴染の、瑠奈さんなら止められるかも!?」
「瑠奈さん!?」
「ええ、その人が、龍一に格闘技を教えているらしいのよ」
「お前、その人の場所分かるか?」
「ええ」
「よし、その人を連れて来てくれ」
「分かったわ」
南は、瑠奈の店に向かった……
龍一は、虎次郎のナイフを持っている手首をつかみ、鳩尾に蹴りを喰らわせ、そのまま関節を決め、投げて、喉めがけて、かかと落とし……天神流雷鳴だ!
「ぐは〜」
虎次郎もこの攻撃で、かなりのダメージをくらった。
だが、龍一自身も、体力的にかなり限界がきていた。
その頃、やっと南は、瑠奈の店にたどり着いた。
「ハアハア……瑠奈さん、大変です!龍一が虎次郎と喧嘩して……ハアハア……」
「落ち着いて、言いたい事は分かったわ。二人の喧嘩を止めてほしいのね。」
「は、はい……て、堤防にいます」
「悪いけど店番をお願いね」
「え?は、はい……」
堤防では、まだ二人のタイマンが続いていた。
スピードと技は龍一、パワーと実戦経験は虎次郎だ。
虎次郎は、小学生の頃から、高校生や一般の大人と喧嘩をし、ほとんど負けた事ない男だ。だが、二人の強さ自体は互角だ。
後は体力勝負だ。
二人が攻撃をしようとしたその時!
「いい加減にやめな!」
瑠奈が現れた。
「ル、ルナさん……」
龍一の動きが止まった。
だが虎次郎の攻撃は、止まらない……
「そんなに喧嘩がしたいなら、私が相手をしてあげる」
「上等だー!」
虎次郎は、瑠奈に攻撃を仕掛けた。
だが、鳩尾に瑠奈の前蹴りが決まり、一撃で虎次郎は立てなくなった……
「く、くそったれ〜……こ、この俺が、女なんかに……龍一に、そして女、必ずお前らをぶっ殺す!」
虎次郎はフラフラな状態で去っていった。
「す、すごい……いくら龍一との戦いで、血だらけになっているとはいえ、あの虎次郎を一撃で……瑠奈さんか……そういえば、北斗さんから、あの人の伝説を聞いたことがあったな……」
「リュウ、帰るよ。」
「は、はい……トオル、お前も来いよ」
「あ、ああ……」
それから後に、何度も虎次郎と戦うが、この時のように瑠奈が止めたり、勝負がついたかと思えば、二人ともダウンして立てなかったりして、勝負は龍一が、高校に入ってからも、つかなかった……