第12章 天神流18代目神威龍一
次の日、桜木高校……
舞がハヤトに話かけた。
「ねぇ、不知火君」
「なんだ!?」
赤く染めた髪、鋭い目つき、それが、不知火隼人だ。
「あなたも何か武道をやっているみたいね!?」
「関係ないだろう」
「去年まで、この学校に天神流という古武術の使い手がいたわ」
「ああ!?灯の話では、プロのスイーパーと聞いたが……」
「それは、その子の師匠」
「そうか、弟子がいたのか」
「それで、あなたも後継者になりたくて、この街に来たのでしょ?」
「そうだ!俺は全ての技を会得している。そして、強い!ババアは、再び天神流を、不知火一族のモノにするため、俺や親父、祖父やお袋にまで技を教えた。ジジイはババアに惚れ、婿入りした。だが、俺が小さい時に亡くなった。親父やお袋は腰抜けだから、後継者争いから身を引いた。だが、俺は違う、必ず俺が、後継者になってやる!」
「現継承者である。月形瑠奈さんが、弟子の神威龍一と勝負して、勝った方を後継者にするって」
「フン、面白い!」
「明日、土曜の朝方、時間は午前四時、場所はこの紙に書いてあるから……後、負けた者は、天神流を捨ててもらうって、おっしゃっていたわ」
「上等だ!」
放課後・・喫茶LUNA……
「一応、伝えてきました」
「舞ちゃん、ありがとう」
瑠奈が、舞にお礼を言った。店には、舞、一、四郎のいつもの三人だけで、龍一の姿が見えない。
「龍ちゃんは?」
「あいつは、その辺をジョギングしているわ」
ジョギングといっても、龍一がこの時に走った距離は五十キロ以上だ。
戦いは明日の朝方、下手に体力を使うと不利になるのは分かっているはず。
だが今の龍一には、五十キロくらいなら、たいした距離ではない。
龍一は、五十キロを走り終え、店に戻った。
「ハアハア、ただいま帰りました!」
少し息切れをしているが、とても五十キロを走ってきた感じには見えない。
「みんな、僕、明日に備えて、もう寝るから、ルナさん、今日は泊めてもらいますね」
そう言って、店の奥に入っていた。
そして、午前四時……
指定の場所に、ハヤトが現れた。
龍一と瑠奈は、一時間前から待っていたようだ。
龍一もハヤトも、天神流の道着を着て、腰には刀が……
この戦いは、今までの戦いとは違う。龍一は、瑠奈から奥義の使用も認められている。
そして、二人の戦いが始まろうとした。
その時!
「間に合った」
舞、一、四郎がやって来た。
「皆!」
「天神流の人間じゃない私達が、ここに来てはいけないと思ったのですが、どうしても二人の戦いを見届けたくて」
「ルナさん、僕からもお願いします!」
「いいんじゃない・・アンタの大切な友達なのだし……」
「ありがとうございます!」
「おい、早くしろ!」
「ああ、ワリーな」
龍一がハヤトの前に立ち、互いに礼をし、そして、二人の戦いが始まった。
龍一は刀を抜き、正眼に構え、そして、神速で袈裟斬り!
だが……
「さすがだな~、ハヤト……僕の閃光雷をかわすとは……」
天神流閃光……神速で相手に袈裟斬りをし相手を瞬殺する天神流の剣術。
だが、この技をかわされた時、突き又は薙ぎなどに変換し、第2の攻撃を行うことを「雷」と呼ぶ。
素人なら最初の一撃で瞬殺、玄人さらに達人でも第2の攻撃「雷」で勝負が決まる。
だが、ハヤトは袈裟斬りを後ろに飛んでかわし、龍一は第2の攻撃に胴へ突きをするが、今度は横に避け、「雷」をかわしたのだ。
「今度は俺の番だぜ!」
そう言うと、ハヤトは龍一の頭上より高く跳んだ!天誅だ!
龍一はハヤトの天誅を紙一重でかわした。
だが、龍一の腹から血が……
「な、何で、龍ちゃんのお腹から血が?」
「リュウが天誅をかわした後、ハヤトは、抜刀したのよ。その時、リュウは後ろに跳んだ。だから、あの程度で済んだのよ。もし、リュウの反応が少しでも遅れていたなら、死んでいたかも」
「そ、そんな……」
「思ったよりやるな〜、だが、俺の編み出した抜刀術、不知火はかわせないぜ!」
「抜刀術、不知火!?」
「行くぜ!」
「(正面から突っ込んできた・・)」
ハヤトの手が刀に……
「(来る!)」
龍一は、再び後ろに跳んだ。
だが、
「(フェイント!?)」
ハヤトは刀を抜かず、龍一の後ろに回った。
「死ねー!」
ハヤトが龍一の背後を取り、刀を抜こうとした。
だが、
バシッ!
ハヤトが刀を抜こうとした瞬間、龍一の後ろ回し蹴りが炸裂した!
「(な、何!?)」
ハヤトはそのままふっ飛んだ。
「ば、馬鹿な、俺の不知火が……」
「正面から突っ込んで、抜刀するとみせかけ、相手が本能的に避けようとした方向を読み、超スピードで相手の背後に回り抜刀する。それが、お前の編み出した抜刀術、不知火だろ?」
「くそ、なぜ、俺の抜刀よりも、お前の蹴りの方が速いんだ?」
「お前が、一瞬ためらったから……お前は、俺と同じで、今まで、真剣を持って戦ったことがない……そうだろう?」
「……」
「だから、自分の抜刀術がどれほどの威力か知らない。だが、最初の一撃目で、自分の剣で、人を殺す事が出来る。それが、お前には分かった。そして、心の中で、人を殺したくない。その思いが、お前の抜刀を遅らせた。だから、俺の蹴りの方が速かったんだ」
「なんか、いつもの龍一と違うな」
「そうだね。いつもの龍一君なら、相手が強ければ強いほど、修羅になるのに……」
「リュウは、阿の山で、肉体だけでなく精神的にも強くなったみたいね。もしかしたら、私を超えたかも……」
「龍ちゃんが、瑠奈さんを超えた!?」
龍一が刀を捨てた。
「フン、素手で勝負か……いいだろう」
ハヤトも刀を捨てた。
「(おそらく龍一は、龍神を使ってくる・・ならば、俺も・・・)」
「行くぜ!ハヤト!」
二人が、同時に奥義龍神を使った!
龍神に必要なのは、常識を超えるスピードだ!超スピードで相手の急所に攻撃する。
数秒の間にどれだけ攻撃出来るかで威力が変わる。
そして、ふっ飛んだのはハヤトだ!
龍一の方が、ハヤトより多く攻撃したのだ。
「負けを認めろ、ハヤト」
「くそ、天神流を捨てるくらいなら、死んだほうがマシだ!俺を殺せ!」
「俺は、人殺しなんかになりたくないから……それに、命は大切にするものだ!」
「……完全に俺の負けだ」
「ハヤト、俺の父さんの師匠、堀辺正宗は、天神流を越える技を編み出そうとした。お前も天神流を越える技を編み出し、また俺と戦おうぜ!それに、お前の編み出した不知火……あれは、すごかったし……」
「フッ、いいだろう」
ハヤトの顔から、笑顔が……
彼は立ち上がり、刀を拾って、去っていった。
舞達3人も、そのまま帰宅し、龍一は瑠奈と共に店に戻った。
この日は、天神流の後継者を決める大事な日、そのため瑠奈の店は休業となった。
龍一がリビングで休んでいると、瑠奈は部屋からある物を持ってきた。
「これに、お前の名前を書け」
それは、天神斎から瑠奈までの、継承者の名前が書かれていた巻物であった。
この巻物に、名前を書いた者が、継承者の証なのであろう。
龍一は、瑠奈の名前の隣に、自分の名前を書いた。
この時から、龍一は天神流の十八代目となった。
「今日からお前が、天神流の十八代目だ!」
「はい!ルナさん……あの、えっと……」
「どうしたの?」
「前にも言いましたが、僕と付き合ってください!」
「……ゴメン……お前とは、やはり付き合えない」
「そうですか」
淋しそうな顔をしている龍一を、瑠奈は優しく抱きしめた。
「リュウ、お前の気持ちに答えられなくて、本当にごめんね」
「ルナさん……ありがとう」
瑠奈は裏の世界で生きる女……
龍一には、もっと、すばらしい女性と出会い、幸せになってほしいと、心の底から思っているのであろう
そして、彼女には分かっていたのであろう
あの男が生きているということを……