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彼の恋(仮)  作者: 塩津湖
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大幅追記予定です。



「で、お前は告白に向けて乗り出すわけだ。ク〜〜、青春だね〜〜」といつの間にか起きていたアルコール臭の男は語り手と肩を組みながら言い、また酒を呷っていた。

 語り手も「ああ」と微笑みながら呟き、水を喉に流し込む。

「でもさ」と切り出したのはチャイナドレスだった。「最初にあなたは言ったよね、『失敗した方』だって。どうして失敗したの?」

 「まさか結局怖気付いて告白しなかったとか? だったら笑い者ね」とチャイナドレスは懐疑的な目で訊いた。

 すると、「そりゃ、確かに笑い物だな」と語り手は苦笑しながら発言した。「だが安心しろ。告白はした、返事も貰ったしな」

「なら良かった、そしてご愁傷様」とチャイナドレス。

 それに対して、語り手は「まあ待て、まだ『ご愁傷様』と言うには早いぞ」と勝手に結論づけるのは早いと注意する。「言っとくが、この話には『【彼女】への告白編』がまだ残ってる、結論はそれを聞いてからにしてくれ」

「ふ〜〜ん、まあ期待しないで待っとくよ」とチャイナドレスは呆れ顔で言った。

 語り手は何も言わず微笑んだだけであり、代わりに男の隣にいた女性が「ふふふ」と声を抑えて笑っていた。


***


 さて、そんなこんなで【彼女】に告白しようとするところまで決断した俺だったが、なかなか実行できずにいた。

 なにせ元はヘタレな俺だ、言うべき状況であってもなかなか喉から「好きだ」という三文字の言葉が出てこない。

 おまけに、告白に最適なシチュエーションを俺は用意できない、チャンスはいつも最悪な時しかないのだ。【彼女】とのこれまでの関係の問題で、告白しようと思っていても【彼女】と一緒にいるときは大概、周りに人がいる。

 「好きだ」と告白するときは大抵二人しかいないときにするものだろう?

 つまり、それくらい告白というものは気恥ずかしいものだ。それをクラスメートや学校の奴らの周りならまだしも、周りが他人ばかりの電車の中や駅の構内でそんなことができると思うかい?

 正常な思考回路を持つ時の俺ならそんな危険な賭けをしないね。

 だが、その時の俺は「本気の恋愛」中だ、正常な思考回路なんて絶対にしていなかった。最終手段として、それは選択肢として考えていた。

 ――SNSですれば良い?

 ……そうだな、それも頭の隅で考えていたさ。実はその時、すでに【彼女】とのSNSのID交換も済ませていて、それを使っての告白も考えていた。

 それと同時に、SNSでの告白についてもリサーチしていた。その結果、最近の一部の高校生がSNSの「送信取り消し」機能を使って告白しているということも小耳に挟んでいた。

 だが、個人的な意見として、SNSを使っての告白は【彼女】に軽く見られてしまうのではないか、本気で「好き」とは思われないのではないか、そう思って堪らなかった。

 そして、【彼女】と何もないままいつも通りに過ごしてしまい、そのまま高校二年生の二月が過ぎてしまった。

 ……タイムリミットは、あと二日。

 というのも、俺たちの学校では進学校としては比較的遅めの、高校二年生の最後に二週間の修学旅行がある。しかも、最近はやりの旅行先を選べる方式で、少なくとも俺と【彼女】は全く目的地が被ることはなかった。

 そのため、俺が【彼女】に会うのは、三月に学校に登校する日のみ。すなわち、修学旅行の前日と、修学旅行が終わった二日後の終業式の日、この二日しかない。だが、終業式の放課後には部活の練習があるために、実質あの一日しかない。

 そう、修学旅行の前日、卒業式の次の日こそが最後、最後のチャンスなのだ。

 俺は意を決しなければならなくなってしまった、たとえそれが人のいる駅であってもそれを実行しなくてはならない。

 俺は、その日、【彼女】に告白をすることにした。焦燥感に駆られたことは確かだったがこれまでよりも堅く、そして熱く、それを誓った。

 そして、卒業式の日になった。

 卒業式の終了後、大体の高校二年生は卒業する三年生を見送るべく、中庭に固まるのだが、この日の俺は意地でも、彼女を捕まえなければならなかった。

 なるべく早くバス停に向かうため、三年生を見送るのもそこそこに、俺は全速力でバス停に向かった。

 ――先輩が可愛そう、と。

 ああ可愛そうと思うなら可愛そうと思え。だが、この時の俺は人生最大の賭けをしている気分だった。今は【彼女】に会うことが最善なのだと、俺はそれを疑わなかった。

 灰色の空の下、俺はバス停に着いた。卒業式の喧騒で包まれていた中庭と違って、バス停は驚くほど静かで人は想像よりまばらだった。

 俺は息を切らしながら、辺りを見渡した。

 すると、銀色の金属光沢で輝くベンチに座る一人の少女の姿があった。

 その姿は見たことがあった、俺たちの学校の制服、見たことのあるリュックサック、そしてまっすぐに背中を流れる一つ結びの髪型。

 それは【彼女】だった、俺は間に合ったのだ。

 ……あえてここで弁明するが、俺は【彼女】に一度も「一緒に帰ろう」などということは誘ったことはない。だから、この日だけ【彼女】を誘うということは、不自然さを買いそうでできなかった。

 そしてもう一つ弁明したいことがある、俺は【彼女】が帰宅する大体の時間がわかっていた。……あくまで大体だ、それがわかったのも、俺が真っ先に家に帰りたいときに限って、【彼女】とバス停で出会したからだ。ストーカーなどしたことはない。

 だから、この日も「いつも通り」を装いたかった、たとえ告白ができずとも【彼女】と一緒に過ごせる残り少ない(かもしれない)時間を俺は味わいたかった。

 そして、俺は“いつも通り”に【彼女】に「やあ」と声をかけた、【彼女】は「ん」と小さく声を返した。

 ただ、この日は【彼女】と出会って初っ端から“いつも通り”じゃないことがあった。【彼女】は俺と目を合わせると、すぐにリュックサックをガサゴソと何かを探し始めたんだ。

 そして、【彼女】はシックなベージュ色の箱を取り出し、手渡してきた。

 「これは何?」と俺が訊くと、「チョコ」と【彼女】は答えた。【彼女】曰く、今日卒業する【彼女】の部活の先輩たちに配っていたものが余ったものだという。

「お前、……先輩が居たんだな」と俺が冗談っぽく馬鹿にすると、【彼女】は「うるさい」と反射的に言った。

 ――うるさいぞ。チョコをもらったから、ってだけでそんなに騒ぎ立てるんじゃない。どんだけ遅いバレンタインデーチョコだと思ってんだ。

 ――えっ、嬉しくなかったのか、って?

 まあ、嬉しくなかったわけじゃない、心の隅で嬉しく思っていたさ。

 ……さて、まあそれ以外はその日もいつも通りだった。いつも通り【彼女】とバスに乗り、いつも通り駅構内に入り、いつも通り一緒に電車に乗った。

 その間は、いつも通り俺と【彼女】はたわいも無い話をした、それは主に明日の修学旅行のことだった。

「お前退学するんだよな」と俺が訊くと、【彼女】は「そうだよ」と肯定した。

「じゃあ、修学旅行はどうするんだ」と俺。

「行かないんだよね」と【彼女】。

「そうか」と俺。残念、……とは思わなかった。どちらかといえば可愛そうに思えた。

 俺はふと、「ちなみに、行くとしたらどこに行く予定だったんだ?」と訊くと、【彼女】が選んだのは一番人気のコースだった。「そりゃ、残念だったな」と俺は慰めたが、【彼女】は「仕方ないよ」と答えただけだった。

 すると、【彼女】は「あなたはどこに行くんだっけ」と聞いたので、俺は、一番“不”人気なコースを選んだ、と答えた。「言っとくが、抽選にあぶれた訳じゃない、自ら志願したんだ」という注釈を加えてな。

 【彼女】は「ふ〜ん」と反応しただけだった。

 そして、俺と【彼女】は電車に揺られること十分程が経つと、電車は俺たちの家の最寄り駅のホームに滑り込んだ。俺たちはそこで電車を降り、改札口に向かう。自動改札の読み取り部にICカードを触れ、俺たちは改札口をでた。

 いつもなら、ここで俺たちは別れそれぞれの家に帰るのだが、今日の俺は“事情”によりこのまま【彼女】を返すわけにはいかなかった。

 ……だが、どうすれば【彼女】を引き止められる?

 それを【彼女】と電車に乗っている時にずっと考えていた。しかし、結局降車駅のホームに降りても、妙案は思い浮かぶことはなかった。

 じゃあ、【彼女】をそのまま帰してしまったのかというと、そうじゃない。言い方が悪いが、実は一時間くらい【彼女】を駅に拘束することができた。

 その解は意外と単純明快だった、ただ話し続ければ良い、それだけだった。

 具体的には、改札を出た後いつもなら駅の出入口に足を向かわせるところを、そのまま駅の改札の突き当たりの壁に向かわせ、そのまま立ち話に持ち込んだだけだ。

 ただそれだけで【彼女】を引き留めることができた、嘘じゃ無いからな。

 ――しつこい、か。

 そうかもしれないな、もしかしたら【彼女】もそう思っていたかもしれない。だが、その時の俺と【彼女】は思いの外、話に花が咲いていたことは留意しておいてほしい。具体的に何を話していたかは先ほど話したこと以外はあまり覚えていないが、話に花が咲きすぎて、別れる潮時を見失っていたことも事実だった。

 それはもう時間を忘れるほどに。

 同時に、告白のタイミングもまた見失っていた。

 そして、一時間は少なくとも経った時だった。お互い立ちっぱなしだったために、足に違和感を覚え始めていた、まさにその時だった。

 改札口の向こうから、上半身から下半身を覆い隠す黒い外套を着た女性が現れたのだ。その女性は改札口を潜り俺と【彼女】を見つけると、こちらに手を天高く振りながらこちらに近づいてきた。

 女性は俺と【彼女】より背が高く、焦げ茶色の髪の天然パーマに後頭部に二つのお団子が乗った髪型をしており、ハーフ特有のやや薄い色の瞳だった。

 こんな女性を俺は一人思い浮かんだ、どちらかといえば五月蝿い類の人間でイケイケ系、少し馬鹿でよくクラスメートの一人と口論になっていた女の子。

 そう、その女性は俺と【彼女】の中学の頃の同級生であり、クラスメートだったのだ。その女性は俺と【彼女】の名前を呼び、「久しぶり〜〜」と元気そうな声で言った。俺も「久しぶりだな」という挨拶をその女性の苗字と共に返した。

 ――その時の俺の気持ち?

 なぜ、そんなことを聞くんだ?

 ――告白の途中だったから、か。

 そうだな、確かに本来の目的はそれだったはずだ。だが、【彼女】と話に花が咲いてしまったことで、その時の俺は半分、その目的の達成をあきらめていた。

 だがしかし、図らずも外套の女性が来たことで、俺は【彼女】へ告白できたと言っても過言じゃない。

 ――どうしてだ、って?

 そんな焦らずとも、順を追って話すさ。答えをすぐに追い求めるなよ。

 ……さて、ついさっきも言ったが、その時の俺は告白のタイミングを見失ってしまっていた。それに加えて、中学時代の同級生と居合わせたおかげで、さらに告白ができずにこのまま別れてしまう可能性が増したように俺は感じた。

 なぜなら、その同級生が加わったことで、俺たちは昔話に花が咲いてしまったからだ。

 俺と【彼女】が何をしていたかの話から始まり、お互いの近況報告を俺たちは話し出した。びっくりしたのは俺たちの同級生の何人かが高校を退学していたことだった、その黒い外套を着た同級生もまた高校を一度退学していた。

 今は何をしているんだ、と俺はその同級生に聞くと、同級生はおもむろに胸元のボタンを外し、外套の胸元をはだけさせた。そこから、覗かせたのは赤いチャイナ服だった。

 「今モデルやってんの」とその同級生は言った。最初は冗談だと思ったさ、だけれど、その同級生がその後見せた写真を見て、本当マジだと思った。その写真は真っ白な石畳が敷かれた道路で西洋風の店の前でチャイナ服を着た女性、それはあの同級生だった、がポーズを取っていた。その写真の背景や同級生への光の当たり具合は明らかにプロの御業だった。

 少々脱線するが、この時の俺はその同級生のいきいきとした姿を見ていたら、高校を順調に卒業するだけが世界ではないことを知った気がした。親からずっと言われていた、高校卒業、大学卒業といった必須事項は、決して必須事項では無いように疑うようになるきっかけとなった。

 だから、もしかしたら【彼女】の「高校を退学する」という選択【彼女】にとっては英断だったのかもしれない。今となってはわからないがな。

 まあどれだけ楽しくても潮時というのはあるもので、その同級生はそろそろ帰らなければ、ということで帰っていった。

 そんなとき、別れ際にそいつからかなり強烈な言葉が放たれた。

「お前たち、付き合ってんの?」と、ね。

 そして、俺はここで人生最大の失言をするんだ、なんだと思う?

 ――そんなことは良いからさっさと話せ、と。……釣れないなあ、まあ良いけど。


 俺はね、「『まだ』、付き合ってない」と言ったんだ。


 「『まだ』、とか言うな」と即座に訂正したのは【彼女】だった。

 その声は初めて聞く【彼女】のマジ(本気)トーンだったが、その一連の流れはある意味、助け舟だったように思う。

 それを聞いた同級生は「ふ〜ん」と鼻を鳴らすと、納得したような様子で帰っていった。

 同級生を見送ると【彼女】は左手につけた腕時計を確認した。すると、【彼女】は「もう結構、時間経ってるね」と言った。俺も腕時計を確認すると、時計の短針は二と三の間を指している、卒業式が終わってから三時間、駅についてから一時間以上が経過していたのだ。

 すると、【彼女】は徐にスマートフォンを取り出し、誰かに電話を始めた。

 一分ほど電話の相手と喋った後、【彼女】はこちらを向き、「お母さんが近くに来てるみたいで、車で一緒に帰ることになった」と言った。

「そっか、じゃあこの辺で帰るか」と俺は壁から背中を離し、直立になる。俺は、どこで合流するの、と訊くと【彼女】は駅の隣の商業施設の中にある本屋と言った。

「じゃあ、行くか」と、俺と【彼女】はその本屋を目指して歩き出した。

 そして少し歩き出した時、俺は彼女の耳元に「……本当に付き合っちゃう?」と囁いた。


***


「で、あなたは玉砕したと」と言ったのはやはりチャイナドレスだった。「いや〜〜、なかなか面白い話だったなあ〜」

 チャイナドレスはわざとらしく煽るような口調で語り手に向けて言った。

「……話を遮るなよ、クソ女」と語り手は、口悪くチャイナドレスに向けて言った。「まだ話は終わってないんだ、勝手に話を終わらせるな」

「え〜〜、もう終わったようなもんでしょ」とチャイナドレス。

「アホか。まだ起承転結の『転』だよ、馬鹿野郎。まだその結果も言ってないでしょうが」と語り手。

「あんた最初に言ったじゃん、『失敗した方』の恋バナだって。ってことは振られたんでしょう?」とチャイナドレス。

「それがちょっと違うんだよな〜〜」と語り手は歯切れ悪く口にした。

「どういうこと?」と訊いたのはチャイナドレスだった。

 語り手は後頭部に手を回しながら、「俺、【彼女】に歯切れよく『ごめんなさい』と断られた訳じゃないんだ」と照れながら言った。「『本当に付き合っちゃう?』と言った後、【彼女】は『今日の夜に返事をして良い?』と返事をしたんだ」

「で、その夜、君は【彼女】にLINEで『ごめんなさい』と言われた挙句、ブロックされました、と。いや〜〜、面白かったな〜」とチャイナドレスが茶々を入れると、語り手が「勝手に話を変えるな、そして終わらせるな」と遮った。

「そんなにバッドエンディングがお望みなら、お前らの考えるエンディングで終わらせても良いんだぞ。ただし、ハッピーエンドのトゥルーエンディング(本当のエンディング)は聞けねえけどな……?」と語り手は笑顔で腕まくりをしながら、怒気が混じった声色で静かに発言すると、「すいません、黙ります」とチャイナドレスは改まったように謝った。

「ん、ハッピーエンド?

 これはバッドエンディングなんじゃないのか?」」

 こう疑問を投げたのはタンクトップだった。

「バッドエンディングだとは一言も言ってないぞ、俺は『失敗したラブストーリー』としか言ってないからな」と語り手は答えた。

「それは、バッドエンディングだと思うが」とタンクトップが反論すると、「……俺はまだ告白の結果すら言ってないのにバッドエンディングだと決めつけられるのは、少々心外だな」と語り手は言った。

「それに、『振られた』ことがそのままバッドエンディングに繋がるとは限らないぞ」と語り手は言う。

「どう言うことだ?」とタンクトップが訊き返したが、語り手は「まあ、最後まで聞け」とだけ言った。

 語り手は残り少なくなった麦酒(ビール)を口に運ぶと、口を開いた。


***


 まあ、ここまで煽ってきたが話はあと少しで終わりだ。なに、あと数分くらいで話し終わるさ、もう少しだけ辛抱してくれ。

 さて【彼女】からの返事だがきちんとその夜にもらったさ、しかも電話でな。

 ――返事か、予告した通りだよ。

 答えは『ごめんなさい』だ、お前の予想通りになったぞ、良かったな。

 ――良くねえ、って?

 まあ、良いさ。どう思おうが好きにしろ。

 俺自身、無理やり差し込んだような告白になったが、【彼女】に十分俺の気持ちを伝えることができた、満足だ。

 それに【彼女】はかなり真面目に考えて告白の返事をしてくれたんだ。

 ――振られた理由、かい?

 それはな、『今の私だと無理』だってよ。と、言っても俺が嫌いだった訳じゃない。

 その時の【彼女】は心理的にキツイ状況にあった。そのことで俺に迷惑を掛けたくない、という【彼女】の思いからだったんだ。

 正直、フラれたことは堪えたが、【彼女】が真剣に俺への答えを考えてくれたことで傷は浅かった。気にしちゃいないよ。

 そんなわけで、俺と【彼女】は恋人同士になることはなかったが、友達ではいてくれた。

 同時に、俺はこれを機に【彼女】にSNSで頻繁にメッセージを送るようになった。告白によって、俺と【彼女】はさらに仲が良くなった、と俺は感じたからだ。

 ――しつこい、と。

 まあそう思うよ。懲りねえ男だとも、自分で思う。

 だが、【彼女】は俺の適当なメッセージにもきちんと反応してくれた。俺はそれがこの上なく嬉しかった。

 それは俺が修学旅行に行っている間も続いた。暇を見つけては、俺と【彼女】は頻繁に連絡を取り合った。

 修学旅行先でふと撮った写真を【彼女】に送ったり、修学旅行先が海外だったんだが、そこで見つけた日本との違いを【彼女】に話したりした。

 まあ、そのときも彼女から何かかかってくるようなことは無かったんだが。

 で、そんなこんな充実した修学旅行の翌々日は修了式だった。ちなみに、修学旅行の翌日は時差ボケ解消の為の休養日だった。

 同時に、その日はちょうどホワイトデイだった。

 俺はその日、部活があったんで帰りは【彼女】と絶対に鉢合わさないということはわかっていたんで、終礼が終わった後、俺は【彼女】のクラスに直接でむいた。バレンタインデーのお返しと修学旅行のお土産を兼ねた修学旅行先で有名なチョコレートを渡すためにな。

 俺は、数奇な目で見られながら、【彼女】のクラスに入ると【彼女】はいそいそと帰る準備をしているところだった。その時の【彼女】に最後の登校を惜しんでいるような雰囲気はなかった。

 俺は【彼女】にそのチョコレートを渡すと、【彼女】は「こんな高そうなチョコ、受け取れないよ。あれ、一〇〇円ちょっとのものなのに」と言いながらも、照れたような様子で受け取ってくれた。

 その時も、俺は満足感で満たされていた。今日が、もし人生で最後に【彼女】に会える日であったしても悔いは無い、そう本気で思っていた。

 そして俺は春休みに入った。といっても、俺は部活から身を引いたことで俺の高校生史上最も暇なものだったがな。そのため、春休みでも俺と【彼女】は頻繁に連絡を取り合った。遊びに行く約束も取ろうとした、叶わなかったがな。

 ――ああ楽しかった。【彼女】と会えずとも、頻繁に連絡を取っていたからこそ楽しかったはずなんだ。

 そんなこんなで過ごした春休みだったが、三月の終わりにそれは起きた。

 彼女のアカウントが俺のSNSの友だち欄から消えたのだ。


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