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はじく

作者: しずく


その日は良いことばかりではなかった。

朝、髪を巻くにしても雨なのを知らなかったがためにスプレーを掛け忘れてカールがへなってしまった。

仕事に向かう途中車のドアに指をぶつけて痛い思いをした。

ネイルも欠けてしまって、ため息が深くなる。

職場に着く前にいつもの珈琲ショップにいくも、目当てのイケメンのスタッフは今日休み。

職場に到着して切り替えようとするけど、同じ課の女の子が早退してまるっと仕事が私に落ちてきた。

お昼時間は仕事を残したくないがために削って、それでも終わらなくて。

何で私だけヘイストが掛かった働き方をしているのかとここでもため息がでた。


ミスは無い方がいいのだけど、急げば一つ二つやってしまうことはあるもので。

上司に頭を下げて「終わらせたら帰ります。」と報告することしかできなかった。

彼氏からはLINEが来ない。

解っている。彼は今海の上だから。


船乗りの彼と出会ったのは三ヶ月前くらい。

船乗りと言うとマグロとか釣りにいくんでしょ?って言われるけど、実際は違う。

なんか、まぁ操縦士みたいなもんなんだろうなって、私は解らないからそのくらいしか理解しないことにしている。


本当に好きなのか怪しくなるところではあるけど、浮気をしないならそれでいい。

人と人を取り合うなんて二度と御免だ。


なるべく欲望を切り捨てて生きていきたいと願ってからまもなく一年が経つ。

未だにちらつく絶望の欠片に睡眠さえまともにとれない。

そう言うときは車に乗って当てもなく走るのが一番いいと言うことを半年前に知った。


性別関係なく幾つもの体を渡り歩いた時代もある。

忘れたくて忘れられなくて、上書きしても塗りつぶせない。

鮮やかすぎる過去をどんな白色で塗りつぶしても浮かび上がる。 

まぁ、今はこの車に跨がれれば十分楽しい。



雨がフロントガラスに当たって左右の上に向かって這うように伸びていく。


疲れが溜まると人の体温が恋しくなるのはいつからだったか。


誰でもいい。

なんでもいい。

私を腕で掻き抱くようにしてくれれば。

僅かな言葉で私を掌で踊らせ心を切なく震わせる存在。


誰かのものではなく、私だけの、相手だけの。




欲望は尽きないな。



熱くため息をついたら震えていた肺が少しだけ痙攣した。



車を駐車場に止めて低い車の天井をあおぐ。



我が儘で卑しい。

動物としては真っ直ぐに生きていて、悪いことなどまるでないはずなのに。



人間と言う肩書きが私を閉じ込める。

枠が私を形にする。

はじかれれば形もない。



それでも、諦めたくはない。

私の全部をぶつけても壊れない誰かを。


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