表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間関係ニャビ☆彡  作者: 山下です(^^♪
8/44

第八話 魔法と魔物

「人間を動かすのは、そうしたオモチャなのだ」


ナポレオン・ボナパルト(フランス第一帝政の皇帝)


※自身が設立した『レジオン・ド・ヌール勲章』を「(軍人の)古強者にオモチャを与えた」と批判されたことに対する発言。

「ユウト様、デール様、行ってらっしゃいませ」


そういって見送るアンナさんに笑顔で手を振って、冒険者登録所をあとにした。


アンナさんが振る舞ってくれたサンドイッチは、とても美味しかった。

食文化がそう違わないことをありがたく思った。



そして現在、町を出てダンジョンへと向かっている優人たち。


今、目の前に広がる青々とした草原には、馬車なのか、細めの車輪とヒヅメの跡がある。やはり、この世界には車や電車などは無いのだろうか。


祖母の家の近くも田舎でバスこそまばらではあるが、車は普通に走っている。転移場所からグラペブロまで結構歩いたが、こうまで歩きが続くと大変である。


普段何も考えず、当たり前にあるものとして使っていた車や公共交通機関の事を、ありがたく感じた。



町から少し歩いたあたりで、デールに聞いてみたかった事を話す。


「ところでさ、愚者やし見習いではあるけど、僕の職業って魔法使いやんな。魔法って使えるん?」


「そうだ。さては魔法を使ってみたくなったのだな?」



実は、町を出たらすぐ使ってみたいと思っていた優人。男子にとって魔法とは、生きているうちに一度は使ってみたい憧れなのだ。きっと。


コクコクと小動物のように、素早く首を縦に振る優人。デールは心持ち、笑っているように見えた。相変わらずネコの表情は読めないが。


「ではまず、ファイアを使ってみようか」


「おー!どうやってやればいい!?」


「うむ、手のひらの上に火を集めるようにイメージできるか?」



デールは簡単に言ってくれる。まぁよく分からないけど、とりあえずやってみよう。


正面に右手をかざし、火を思いながら、それが手のひらの中央に集中するようにイメージする。すると、手のひらから5cmほど上に、バスケットボールサイズの火の玉が生まれた。


マヂか…魔法…出た…。綺麗なオレンジと赤の混じったような色をしている。メラメラという音を立てるように燃えるその球体を、まじまじと見つめる優人。


「ふむ、まぁこんなものだろう。そこにある岩に向けて放つと良い。ボールを投げるような形でも良いし、手のひらから押し出すようにイメージしても良いぞ」



デールが見つめる先に、優人の背丈ほどの岩がある。ここから結構離れているが、ちゃんと当てられるだろうか?


ボールを投げるのは、現実でも出来そうだ。折角なので、岩に手のひらを向けて押し出すようにイメージし、火の玉を撃ってみた。


火の玉は重力の影響も受けず、まっすぐ飛んでいき…って、早い!?時速130kmくらいは出ているんじゃないか?


火の玉が岩にぶつかり、ごうっ!という音をたてて消滅した。岩の表面に、焦げた跡が残った。


「デール、魔法できた!でも思ったより威力あって、めっちゃ怖いんやけど!?」



興奮して話す優人を見て、デールも嬉しそうに話す。


「うむ、最初にしては上出来だ。ウォータも原理は同じで、火ではなく水をイメージするだけで良い」



なるほど、総じてLV1の魔法はこのように使うという事か。


と、ファイアがMPをいくら消費するのか気になったので、冒険者カードを確認する。『MP29/30』と表示されている。つまり、ファイアLV1の消費MPは1か。


「他にはLV1の魔法ってないの?」


「これからユウトが覚えられるものは、風の『ウィンド』と地の『アース』だ。魔法使いは火水風土4つの属性を使う事を得意としている。ユウトが勉強して人間力が向上すれば、使えるようになるだろう。それだけではなく、MPの最大値や、各魔法のLVも高まるぞ」



そういえば、こっちの世界に転移してきたばかりの時にも、そんなことを言っていたな。

色々ありすぎて、すっかり忘れていた。


「ちなみに、魔法はレベルいくつまであるん?」


「LV6まであると言われておるよ。LVが1つ上がるごとに消費MPが乗算される代わりに、威力も各段に上がるから、楽しみにしておくと良いぞ」



おお、なんと夢のある話だ。ファンタジー最高!こうなったらLV6まで全部覚えよう。


しかしまてよ、今のデールの説明通りだと…


「さっき消費MPが乗算って言うてたやんな?LV1のファイアやと消費は1?」


「そうだ」


「LV2は2として、その後はLV3で4、LV4で16、LV5で256。LV6で…えーと?」


「65536だ」



しれっと言うデール。


「僕の今のMPなんか、たった30やで?どうやったらそこまで増えるん?」


「うむ、まず普通の方法では増えないだろうな。それに、今のところアフクシスでそれほどのMPを有する魔法使いはいない」



やはりいないのか。みんな使えないと知って、なぜかちょっとホッとする。


デールの説明によると、LV6の魔法は、国を鎮めるほどの水を出したり、その土地一帯を燃やし尽くしたりする威力を持っているそうだ。そんなの、使う機会なんてあるのか?


「かつて、この世界では戦争において使用されたことがある。使った側も、使われた側も、何人もの犠牲者を出した。今でも幾つかの国で、それらの魔法が使用された痕跡を見る事が出来るだろう」


「そうやったんや…魔法で戦争なんて、なんか嫌やな」



急に魔法の事が怖いものに感じられた。


「魔法は、この世界の人々の生活を豊かにするのに役立っておるよ。料理を温めるのも、農作物に水を撒くのも、ゴミを焼却するのも、ホコリを風で飛ばして掃除するのも、魔法の恩恵あってこそできる事なのだよ」



なるほど、結構身近なところで使われてるんだな、魔法。平和な使い道もあると知って、安心した。


「凶悪な魔法を使ったのは魔王の軍勢だ。発動に何人もの魔法使いの命を犠牲にしてでも、その戦いに勝ちたかったのだろうな」



そこまでするか。さすが魔王といった所業だ。それに、命をかけて使う側も使う側だ。自分なら命を投げ出してまで、魔法を発動させようとは全く思わないのだが…


「歪んだ忠誠心は、時に人を異常な行動に駆り立てる。ユウトはそのようにならないようにするのだぞ」


「うん、頼まれてもそんな事せーへんよ!」



命は一つだからね。大事にしなければ。




そのような魔法談議に花を咲かせながら、随分と町から遠ざかっただろう。なだらかな丘に差し掛かったあたりで、急にデールが立ち止まった。


「ユウト、この丘の先に魔物がいるようだ」


「え、魔物!?」



やはりいるのか、魔物。これまで全然遭わなかったから、すっかり安心していた。


「どうやらイノシシ型の魔物らしい。1頭でいるようだ」


「それ、なんで分かるん?」



見てもいないのに、そんなことを言うデールが不思議だった。


「アフクシスでは空気中に魔素が漂っている。魔法もこの魔素を集めて使用するものだ」



なるほど、そういう原理だったのか。酸素みたいなものなのね。でも、それと魔物の探知、どういう関係が?


「その魔素が漂っていないところには何か物体があるし、魔素を体内に多量有する魔物は、魔素の塊のように感知できる。魔素さえ感知できるようになれば、魔物の形状を把握する事など、容易い事だよ」


「なるほど、つまり『円』みたいなものか…」


「なんだ、それは?」



どうやら、デール先生にも、念の知識は無かったらしい。漫画の知識ではあるが、デールの知らないことを知っていた事に、ちょっと得意になる優人。



そんな事より、問題はイノシシの魔物である。


怖いけど見たい。

見たいけど怖い。


「うーん、避けて通ったらええかな?」


「いや、残念ながらこちらに気付いて向かってきている。随分鼻の良いイノシシだ」



戦う事になるのか。覚えたての魔法が活躍する時がきたな。


「そっか。じゃあ、魔法で戦ったらええんやね?」


「…」



デールは何も言わなかった。イエス、という事か?


まあ、イノシシなら獣だし、ファイアは弱点か何かかもしれない。結構な威力があったし、吹っ飛ばしてしまおう。



そう考え、丘を見て待つことにした。


目の前の丘が盛り上がり、てっぺんが黒くなっていく。いや、そう見えただけで、実際には違った。


丘の上に姿を現したそれは、デールの言っていたイノシシである。しかし、ユウトの知っているイノシシと、ある一点において全然違った。



大きい。


明らかに横幅だけでユウトを寝かして2人並べた以上ある。体毛も黒く、明らかに「ザ・魔物」という雰囲気が出ている。


その丸い体に、左右対称についた赤い瞳が見える。丘の上に到着したイノシシは歩みを止め、その赤い瞳でこちらを凝視している。


「で、デール??」



デールは何も言わない。


次の瞬間、巨体が丘を蹴り、地面を鳴らしながらこちらに向かって走り出した。運動会の大玉転がしさながらの迫力である。当たったら確実にあの世に逝きそうだが。



(「これ、ムリゲーじゃね!?」)


優人の脳裏に「ダンジョンより先に、あの世を見るかも…」という考えがよぎった。

今回は、用語等の解説は特にありません☆


前書きの引用句は、魔法というオモチャを与えられた優人が、より魔法を覚えようとする動機に掛けさせていただきました♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ