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人間関係ニャビ☆彡  作者: 山下です(^^♪
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第四十話 第一印象の大切さ

「あなたが人間関係で気をつけなければならないことは、自分勝手な思い込みで人を判断してはならないということです」


ジョセフ・マーフィー(アメリカの宗教家、著述家)

会長室のある5階フロアへ辿り着いた優人達は、意外にも多くの人々を目にすることになった。会長室の隣にある会議室は、大勢の怪我をした冒険者が運び込まれ、混迷としていた。腕を負傷した者や、壁にもたれかかって動かない者。机に掛けられたシーツの上に寝かされている者も居た。治療に当たっているのは職員だろうか。怪我人は20人以上おり、広い会議室は医療現場さながらの様相を呈していた。


本来、医務室は急病人が担ぎ込まれることも見越して1階に備え付けられているのだが、そこは現在戦いの真っ只中である。医薬品は限られるが、安全なこの階を治療スペースに充てる事にしたのだろう。


多くの人は、優人達が会議室に入ってきた事に気付かない程、慌ただしく駆け回っていた。しかし、その中で一人の剣士がこちらに気付き、近づいてくるのが優人には分かった。あれは確か、冒険者協会のライルさんだ。


「デール!それにユウトくんにアイちゃんも」


「ライル、こちらに来ていたのか」


「ああ、例の調査でな。それにしてもお前たち、こんな時に一体どこから入ったんだ?」


「爆発が起こった時にちょうど城に居てな。ミード王の許可をいただいて、連絡通路を使わせてもらった」



優人の肩につかまり、ライルと話をするデール。この位置で会話をすれば、周囲の人々からは、優人がライルと話をしているように見えるから、都合が良いのだろう。もっとも、人の肩にネコがつかまっているという状況は、他の人々の目に奇異に映るのは間違いないだろうが。


ライルとデールが話をしている最中、治療に携わっている職員や冒険者が慌ただしく往来している中で、アイが何かに気付いたように、1人の女性職員に声をかけた。


「メリナさん!」


「え…?アイちゃん!」



メリナが嬉しそうにこちらに駆け寄る。フォディナで負傷したアイがグラペブロに運ばれた後、介抱にあたってくれたのはメリナだった。アイによると、彼女は怪我を治療してくれただけでなく、アイの話し相手になることで、心のケアも行ってくれたらしい。


「そうそう。メリナとツェルトも一緒だ。ツェルトの方は1階で敵さんの侵入を防いでくれてるぜ」


「そうか。彼が前線に立ってくれているのであれば安心だ。少々の事では敵も突破できないだろう」



ライルとデールの話が続く。優人は三神が言っていた事を思い出し、念のため2人に確認した。


「敵というのは、アウトフィット…ですよね?」


「そうだ。恐らくこの前のフォディナの一件が自分達の仕業だとバレる前に、こちらを潰してしまおうと考えて仕掛けてきたんだろう。もしくは、これ以上捜査を続けるのであれば、容赦しないというメッセージかもしれんな」



ライルの言う事が正しいのであれば、アウトフィットという組織は、かなり暴力的な相手である。大の大人がそうした行動に出る事は、平和な日本で暮らす優人には信じられなかった。


「それにしても、このような時にライルが大人しくしているとは珍しいな」


「おいおいデール、俺をただの暴れん坊だと思ってるだろ」



デールの言葉にライルが笑った。


「現場の指揮は、協会本部のお偉いさんが執ってる。自分の管轄でグラペブロ支部の俺に暴れられたら面目が立たないだろ?だから、俺は彼に言われた通り、怪我人を介抱している職員達の用心棒を請け負ったってワケさ」


「確かに本部としてのメンツもあるだろうな。ところで、リカルドも戦っているのか?」


「いや、残念ながら会長はアグニヒトだ。タイミングの悪いこった」



アグニヒトは、この王都があるハンガイークとは別の大陸と、リカルド会長から聞いたことがある。船か何かが無ければ、帰ってくる事は容易ではないのだろう。


「まぁ、今のところこちらが優勢だ。そのあたりが分かったから、俺やメリナに前線から外れて怪我人を診るよう指示してきたんだろう」



なるほど、協力する事も大切だが、ライルの言うように、時には相手を立てるのも大事なのかもしれない。しかし、なぜかツェルトだけは下で戦っている。優人にはその理由が気になった。


「だとすると、どうしてツェルトさんは下にいるんですか?」


「ああ。あいつは人が傷つくのを放っておけない、根っからのナイトだからな。本部の連中は、守備がイマイチだったらしい。それを知ったツェルトが「見返りは求めないから、ただ前衛で皆を守らせろ」って志願したのさ」


「うむ、彼らしいな」



デールが意を得たようにうなずく。優人は、フォディナからグラペブロに向かう道中、不愛想な表情でアイを担いで運んでいたツェルトの事を思い出していた。そのようなツェルトを見ていただけに、彼の事を冷たい騎士だと決めつけていたのだ。自分が偏見を持っていた事に気付いた優人は、こっそりと反省した。


「敵の人数は?」


「報告をまとめると、ざっと200人と見ている。建物1つ攻め落とすのに、大した人数を集めたもんだ。侵入箇所は1階と2階。1階を派手に爆破して、それをおとりに2階から侵入する作戦だったらしい。ま、その時俺が2階を通ってたのが、奴らにとって運のない事だったがな」



堂々と話をするライルに、デールが遠慮がちに話題を振った。


「ライル、それがな…少々言いにくいのだが、報告しておかなければならない事がある。恐らくその時に侵入したのだろう。スカリーゼという人物が、この5階に潜伏していたようだ」


「なに!見逃しちまったか…しかも、スカリーゼと言えば奴らの幹部じゃねぇか」


「大丈夫だ。ユウトが倒してくれたよ」



スカリーゼが幹部なら、恐らく一緒に行動していたアンセルミも同じく幹部なのだろう。2人が目覚めた時に暴れられては困るので、優人は彼らをバリアウォールで固めておいた。バリアウォールを突破してきたあの2人も、さすがに体を横たえた状態のまま身を固められては、目を覚ましても簡単に脱出することは出来ないだろう。


「ユウトくんが?まだ若いのに、さすが賢者だな」


「いえ、アイも戦ってくれたんです。あと…スカリーゼが持っていたこの銃は、協会の方で預かっていただけませんか?」



優人はそう言って銃を取り出し、ライルに手渡した。敵の武器であり、しかもこの銃が多くの人を殺めている。そう思うと、自分で持っているには荷が重かったのだ。ライルは珍しいものを見る目で銃をまじまじと眺めた後、それをメリナに手渡し、保管するよう指示した。


その時、にわかに階下が騒がしくなり、これまでの喧騒とは異なる悲鳴のようなものが聞こえてきた。ややあって、大広間の扉が乱暴に開けられ、職員と思しき1人の青年が駆け込んできた。そしてライルを発見すると、焦燥した様子で話しかけた。


「て…敵に魔物が加わりました。ライル殿に助太刀をいただきたい、とボルトン副官より伝令です」


「はぁ!魔物…?」



階段を上って5階まで走ってきたのであろう。息も絶え絶えに、その青年は依頼した。それにしても、魔物は人がペットのように飼う事は出来るのだろうか?ライルの様子では、それはあり得ない可能性が高そうだが。


「本当に、この王都のど真ん中に魔物が?」


「は、はい。人型ですが鳥のような翼をもった、見たことのない魔物です」


「アウトフィットの奴らの隠し玉か?」


「わかりません。それだけでなく、マクガーンまで…」



その名前を聞いたライルが、驚きの表情を浮かべた。


「マクガーンだと?あいつは少し前に火竜ヴォルカノと戦って、瀕死の重傷を負ったと聞いたが…」


「はい、そう報告を受けていたのですが…。とにかく、その魔物とマクガーンが加わってから、こちらの戦線が崩壊しています。ツェルト殿が善戦してくれていますが、このままでは危険です!」



竜がいる事を知って、一人ひそかに心躍らせた優人だったが、どうやら今それを聞くのは野暮のようである。また落ち着いた時に、デールに教えてもらう事にしようと彼は思った。


「…わかった。俺とデール、それにユウト君で対応しよう。アイちゃん、申し訳ないがメリナと一緒に、ここの守りをお願いできるか?ここにいるのは怪我人と戦闘に向かない奴らばかりだから、襲われたらひとたまりもないんだ。俺達にもしもの事があれば、その時は頼んだ」


「もしもの事って…ライルは殺されても死なないでしょ?」


「おいおいメリナ、俺を不死身の化け物みたいに言うなよ。まあちょっと行ってくるわ」



そう言って、ライルは駆けだした。それに続くデールの後を追おうとする優人に、メリナが声を掛ける。


「ユウトくん!これ、持って行って。2つしか残ってないけど、MPを回復できる薬よ」



メリナが青い液体の入った綺麗な瓶を優人に手渡す。


「ありがとうございます。もらいます」


「相手は強敵よ。気を付けてね。そして、ライルのことも…お願い」


「メリナさん、安心して。これでもユウトは、めっちゃ強いから大丈夫よ」



メリナもライルも、冗談を言っておどけていたが、それは不安の表れなのかもしれない。そしてアイ、頼むからハードルを上げないでほしい。優人はメリナに曖昧に会釈して部屋を後にした。4階、3階…と、下るにつれて不安が増す。窓の外には、間もなく闇のとばりが降りようとしていた。











周辺の道路には、直径1メートルほどの穴が無数に開いている。どれも、あの魔物が作ったものだ。魔物が来てからというもの、圧倒的にこちら有利だった筈の戦いが、形成逆転した。


アウトフィットの連中は、魔物を先頭にして冒険者たちを片っ端から襲わせた。魔物はその2本の剛腕で強烈な打撃を繰り出す。そうやって、目にした冒険者を片っ端から手に掛けていった。その攻撃を受けて弱った冒険者たちが、アウトフィットのごろつき共に止めをさされていく。


多少危険ではあるが、自分なら、あの魔物の攻撃から皆を守るくらいの自信はある。しかし、ツェルトはそのように考えつつも、その場から動けないでいた。自分の目の前に立つ男が、こちらに対して凄まじい気迫を漂わせているからだ。


「マクガーン…」



重傷を負わされたとは言え、軍隊を率いて戦っても勝てるかどうか分からない火竜を、サシで仕留めるような男が、目の前で自分を牽制している。最強のアサシンと名高いマクガーンを前に、ツェルトは極度の緊張を強いられていた。直径2メートルはあろうかという大盾を持つ彼の手に汗がにじむ。


しかし、そのこう着状態に終止符が打たれた。


黒一色の服に身を包んだマクガーンの姿が、夕闇に溶け込んで徐々に消えていく。そのような錯覚をツェルトが覚えた次の瞬間、マクガーンの姿が彼の眼前に現れた。目の前に居た筈の相手の動きを視認出来なかった事に衝撃を受けながらも、ツェルトは必死に自身の前に大盾をかざした。


豪雨を思わせるような勢いで、ナイフが大盾を打った。金属質な音が絶え間なく鳴り続ける。通常であれば、ツェルトは敵の攻撃を正面から受けるのではなく、30度ほどの角度をつけて受け流す。後方に守るものが居ない限りは、こうする事により、盾が摩耗するのを防ぐことが出来るからだ。しかし今、彼にその余裕は無い。歴戦を乗り越えた騎士であるツェルトも、これほどまでの猛攻を前にしては、後退しながら正面に向けて盾を構えるしかなかった。


だが、ツェルトは防御一辺倒に思わせつつも、マクガーンに反撃する機会をうかがっていた。彼は、後退する足を一瞬早めても、マクガーンが自分を追って攻撃してくる事を見抜いていた。マクガーンは攻撃する事だけに集中しているらしい。しかし裏を返せば、そこに隙があるという事だ。


ツェルトが再び後退する足を早めた。少しだけ広がったその距離を詰めようと、マクガーンが追う。突然、ツェルトが構えていた盾を軽く右に傾け、左手に隠し持った短槍を素早く突き出した。


「もらった!」



走り出したマクガーンは、急に止まる事は出来ないだろう。しかし、槍を突き出したツェルトは、あり得ない光景を目にした。


「(い…いないだと!)」



マクガーンを捉えたと思った空間には、何も存在していなかったのだ。ツェルトの槍が宙を泳ぐ。次の瞬間、ツェルトの腹部に衝撃が走った。


「ぐあぁ!」



地に着く程に姿勢を低く落としたマクガーンの渾身の蹴りが、ツェルトの腹部を打ったのだ。盾を手放した彼の巨体は3メートル以上吹き飛ばされ、地面でバウンドする。


「ツェルトさん!」



戦いの指揮を執っていたボルトンが、悲痛な声で叫ぶ。しかし、彼の声が発せられる頃には既に、マクガーンは倒れたツェルトとの距離を詰め、その手に握りしめたナイフを構えたところだった。


「…終わりだ」



マクガーンの持つナイフが、正確にツェルトの喉目掛けて突き出された。ナイフが肉を裁ち、ツェルトの首から鮮血が散る…かに思われたその時、2者の間に突如として壁が出現し、マクガーンのナイフを弾いた。


「む!」



予期せぬ事態を前に、後方に跳躍し距離を取るマクガーン。その視線が、冒険者協会入口に立つ1人の少年と騎士、そして1匹のネコに向けられた。


「ま…間に合った!」



優人が夢中で放ったバリアウォールは、間一髪でツェルトの命を繋ぎ止めたのだった。

【用語等解説】

初頭効果…最初の情報が重要という概念で、優人がツェルトに抱いていた先入観は、これによって引き起こされています。人間は、多くの情報を処理しなければならないため、一度「この人は〇〇」と決めると、なかなかそのイメージを変えられないらしいですね☆


初頭効果に縛られて、相手にレッテルを貼らない事。また、初対面の相手には笑顔で、明るく接する事が相手に良い印象を持ってもらいやすい事。それぞれ意識しておきましょう(^^)/


※ 初頭効果は、詳しく書くと長くなりますので、このあたりでご容赦を♪

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