第四話 まだ見ぬ邪悪な意思
「善にも強ければ、悪にも強いというのが最も強力な力である」
フリードリヒ・ニーチェ(著書:『人間的な、あまりに人間的な』)
異世界…本当にあったなんて…
剣と魔法、仲間とモンスター、ダンジョンに宝物…まだ見ぬそれらに、優人の中で希望が膨らむ。
スマホでオンラインRPGに熱中していた優人にとって、異世界は憧れの場所だった。まさか、このような形で来れるとは…
「異世界ってことは、ファンタジーの要素…あるん?」
「…ユウトの言うところのファンタジー要素が、どこまでを指すかは分からないが、およそ『ある』と回答して問題ないだろう」
「くぅぅっ!やったーーー!!」
あまりの驚きように、デールが一瞬びくっとしたが、優人にはそのような些細なことは見えていなかった。
「デール、いくで!俺、この世界がめっちゃ楽しみやわっ」
広い緑の海原に、ぽつんとあった石畳のスペースから出て、颯爽と草原を進む優人。
その後をスタスタと、足音を立てず進むデール。内心で、優人を連れてきて正解だったかどうか、彼は不安になってきた。
(「やれやれ。いつまでも、この調子が続くと良いのだが…」)
「ところで、勢いで歩き始めたけど、街はどっちなん?」
「…こちらで正解だ。規模は小さいので、町というべきかもしれん。ここからそう遠くはないの。30分もあれば到着するだろう」
「小さい町か!まさに、冒険の最初の方って感じやな」
嬉々として話をする優人に対し、デールの不安はより増していった。
(「…しかしユウトは行動にせよ発言にせよ、この後の事にせよ、本当に何も考えていないのだな…これでは先が思いやられそうだ」)
デールは、やれやれといった感じで、小さくため息をついた。
もちろん、ネコの口から出た小さなため息など、優人に聞こえようはずも無かったが。
「まだ時間かかりそうやから、ちょっとお互いの話でもせーへんか?」
「良いだろう。優人の事を是非聞かせてくれ」
どうせネコとの話だからと思って、盛り上がる事を期待していなかった優人だったが、デールとの話は意外にも弾んだ。もちろん、デールの成した技であるが。
祖母の家に帰省していた事。現実の世界に嫌気が差してきていた事。自分と馬の合う友人が居らず、大学での人付き合いが面倒だと思っていた事。スマホゲームにはまっている事。…優人は、これまで自分が誰かに言いたかったことを全て話せた気がした。
そうしてひとしきり自分の話を終えた優人は、デールのことも教えてもらった。
名前を聞いても優人にはピンとこなかったが、デールはネコとして転生する50年以上前に、アメリカで少しは名をはせた、講師のような人だったらしい。
転生したのは、ここ5年くらい。なぜネコに生まれ変わったのか、なぜ前世の記憶が残っているのかは不明。脳なんかは、人間からネコになる過程で退化というか、記憶できる量が明らかに減ると思うのだが…
転生先は日本。東京や大阪をはじめとする大都市から、優人と出会った兵庫県の田舎町に至るまでを放浪し、それぞれの地域で普通のネコとして、人間の暮らしに溶け込んでいたのだそうだ。
旅をしている中で、彼はある事実を知る。
彼が亡くなってから50年以上の時が流れても、生前彼が広めていた、人間関係をより良いものにする教えや、悩まずに生きていく方法は浸透しておらず、当時と変わらず、むしろそれ以上に人々の争いや悩みが絶えない事を。
彼は知識のタネを撒いた。しかし、それが発芽していない。
愛する母国アメリカは今でも戦争から抜け出せず
人々の間では些細なことから言い争いが起こり
人との関わりを少なくするネット環境が出現しても
人々の人間関係における悩みは絶えず、逆に深くなり
精神を病む人、自ら命を絶つ人が増え続けている
テレビなどのメディア、彼の没後書かれた書物を始めとする記録、現代を生きる人々の実生活から、それらを悟った彼は、なぜ今の世に負が蔓延するようになったのか、独自で調査を開始した。
学校教育や人々の私生活だけでなく、時として政府の重要機関にまで忍び込み、ありとあらゆる記録や文献を漁り、要人の声を盗み聞いた。ネコの姿は人に発見され辛く、発見されても咎められる事がないので、便利だった、との事だ。
そうして、ついに見つけた。
何者かが人々の負の感情を助長している、と。
はじめは日本だけかと思われたそれが、実は広い地球全土にわたって、邪悪な意思によって生み出されている。
そして、その意思はどうやら、優人が暮らす世界とは別の世界から送り込まれている。その世界こそアフクシス。今僕らが立っている世界だ。
このアフクシスの世界は『信条や知識、思いなどを総称した人間力を、力として具現化する世界』なのだそうだ。
「つまり、この世界では、その人の持つ人間性が、そのまま力になるってことなん?」
ここまでデールの話をおとなしく聞いていた優人だが、自分も異世界で活躍できるのではないかと、内心でワクワクしてきて、話に割って入った。
「概ね、その認識で間違いない。単純な力として作用するだけでなく、魔法などの威力としても作用する。更に、その人間性は正義と悪を区別しない」
「え…?どういう事??」
デールは前を見つめ、歩き続けたまま、答えた。
「良い者も、悪い者も。その極みに居るものは、とてつもなく強い、という事だ」
「げ…じゃあ、魔王みたいな奴は性格も最悪だし、力も強いってことか?」
この世界が有する仕組みを使えば、地球上に負の影を落とす事も出来る。
つまり、この世界の何者かが、人々の負の感情を操るだけの力を得て、それをアフクシスと異なる世界である地球全土にわたって広まるよう計画し、遂行しているのだ。
なんの為に?
そんなことは分からない。ただ一つ言えることは、その何者かの力を断たない限りにおいて、地球上に真の平和が訪れる事はあり得ない。という事だ。
その力が、ここアフクシスから発せられているものである事を突き止めたデールは、単身この世界に乗り込むことに成功した。
そして彼自身も、このアフクシスの世界で力を得て、お互いの世界を行き来する方法を会得したとの事。先ほど優人がこの世界にやってきた時に見た雷光は、彼の力で発生させたものだという。…異世界転移も可能にするとは、恐るべき力だ。逆に言うと、デールはそれだけ人間力が高いということなのだ。
人は見た目によらないものだ。
いや、この場合、ネコは見た目によらない‥と言うのだろうか。
「そうだ。そして私は、この世界の魔王に等しい者が、地球上に負の影響を与えている根源であるとみている」
「ホンマかいな…異世界から地球に?冗談きついで…」
そんな魔王に勝てる気がしない。
勝負などせず、自分は剣と魔法で思う存分にこの世界を楽しむのだ。と、優人は思った。
永遠に続くかに思われた草原を歩く2人の前に、建物の屋根が見えてきた。
※ 次話で、ようやくストーリー本編に入ります(^^ゞ
冒頭の前書きも、人との関係において有用なものにしていきますね☆