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人間関係ニャビ☆彡  作者: 山下です(^^♪
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第三十七話 イージスの盾

「行動を起こし、今をつかめ。人は貝になるために創られたのではない」


セオドア・ルーズベルト(第26代アメリカ合衆国大統領)

上層階から舞い下りた人物は、床へ着地するのを待たず、その手に持った機関銃のトリガーを引いた。ヴァラララッという、小槌を叩くような音がホールに響き、銃口から立て続けに5発の高速のつぶてが放たれる。射出された鉄塊は空気を割き、音よりも早く、コンマ0.1秒を要さず優人の至近距離に到達し、今まさに彼を射抜かんとした。


その刹那、優人の周囲の魔素が弾丸に反応し、誰にも知覚できない程の水と土で構成された物体が出現。刺客から放たれた銃弾はその物体と衝突し、優人にぶつかる直前でその威力が相殺される。


キンッという高い音を立てて、刺客の近くに薬莢が落下する。優人を盾にするように弾丸を防いでいたアンセルミが、驚いた顔をして優人から離れ、男の近くへ飛び退すさった。


「チッ、運のいいガキだ…おい、スカリーゼ!お前もこの距離で普通外すか?」


「おかしいな。間違いなく当てたと思ったんだが」



アンセルミが、男に悪態をついた。帽子を深くかぶった男…スカリーゼは、着地の衝撃を吸収する為に取ったであろう、膝をついた姿勢を解いて静かに立ち上がり、優人達を見据えた。人を殺すことをなんとも思わないような冷徹な光をその目に湛えながら。


それにしても、何という身のこなしか。2つ上の階までは、ゆうに8メートル以上の高さがあるだろう。スカリーゼはそこから飛び降りて無事だっただけでなく、空中で優人に向けて銃を撃つという、曲芸じみた事までやってのけている。恐らく、このアフクシスだからこそ為せる業なのだろう、と優人は考えた。目の前の2人の話は続いている。


「ボスが言うには、TMPも、あっちじゃもう古いそうだ。そろそろ新しい銃を用意してもらった方が良いんじゃないか?」


「それが出来たら苦労はしねぇよ」



TMPというのは、スカリーゼが手に持った銃の事だろうか。確かに、今の攻撃は本当に危なかった。アンセルミが対象の動きを抑え、スカリーゼがとどめを刺す。シンプルだが、狙われた側が警戒していなければ、避けようが無いだろう。そして実は、先ほどスカリーゼが言っていたように、彼が放った銃弾のうち2発は狙い違わず優人に命中するところだったのだ。今、優人が無傷でいられるのは、魔法の力に他ならない。


『アイギス』


英語名は『イージス』。ギリシャ神話に登場する神が用いる防具の名を冠したこの魔法は、アースとウォータを組み合わせた、対物理・対魔法防御壁を作り出す、現在優人が使える中で最高峰の合体魔法だ。フォディナの戦いの折、至近距離から放たれたアンジェロのフレイムスローを防いだのも、このアイギスである。バリアウォールが単純な壁を作り出す魔法であるのに対し、こちらは相手が視認できないほど小規模のバリアが展開可能であり、攻撃をピンポイントで防御する性能を有している。


通常の合体魔法は2つの属性を混ぜて行使されるのだが、こちらは内側と外側、層を2つに隔てる事で、魔法と物理の両方に対し防御効果を生じさせる物になっている。アイギスが攻撃を認識すると、外殻の、粘度が高く、弾力を持った水魔法の膜が、外部からの衝撃を吸収して緩和させる。大概の魔法や物理攻撃は、この段階で威力を失う事になる。そして、硬質の地魔法で構成された内側で、その威力を完全に無力化させる仕様になっている。


防御壁は即時に展開され、優人の全身を守ってくれる。更に嬉しいのは、この魔法が敵の攻撃に自動で反応してくれる代物だという事だ。先ほどのスカリーゼの銃撃のように、人間の反射神経で対応できない瞬発的な攻撃にも、電撃的に対処する事が出来る。ただし、それなりのデメリットも存在する。


まず、アイギスはLv3の合体魔法にカテゴライズされる為、発動1回あたりにMPを8消費する。当然、MPの総量が210の優人が同じような攻撃を立て続けに受ければ、すぐにMPは枯渇してしまう。現に、先ほど放たれた銃弾2発を防いだことにより、既に16ものMPが失われた。この調子で攻撃を受ければ長くは持たないだろう。また、この魔法は他者に展開出来ない為、大規模な攻撃を行使された際に、アイやデールを守る事が出来ない。この点で言えば、防御性能こそ劣れど、燃費・範囲は通常のバリアウォールの方が優れていると言える。


今回のように、どこに自分の身を狙う者が居るとも分からない有事にあっては、高い効果を発揮する魔法であることに間違いはないが、使いどころを考えなければ、たちまち自らをピンチに陥らせる魔法に早変わりしてしまう事だろう。


優人がそのような魔法を行使できる事を知るよしもないアンセルミとスカリーゼは、いつも通りの手慣れた段取りを踏んで、彼らのボスから依頼された少年抹殺の任務を遂行しようとした。アンセルミがターゲットと接して油断を誘い、動きを止める。それをスカリーゼが撃ち倒す。


「アイ、僕の後ろに。あいつが撃ってきたら、僕が魔法で防ぐから、アイは左に走って逃げてくれ。もし2人がアイを追ったら、僕はそっちを助けに行くわ」


「うん、わかった」



いつの間にか、デールはどこかへ行ってしまったようだ。いつも肝心な時に居ないような気が…。そのように優人が考えている間にアンセルミとスカリーゼはお喋りを辞め、臨戦態勢に入っていた。2人がじりっ、と優人たちとの距離を詰める。優人とアイも、相手に身構えた。緊張感が支配するホールで、アンセルミが口を開いた。


「坊主、お前だろ?アンジェロやマイクを倒したっていうガキは。どんな小細工を使ったのかは知らねぇが、俺たちに同じ手が通用すると思うなよ?」



アンセルミの口から、苦い思い出のある相手の名前が発せられる。この2人も、アウトフィットの一味である事は間違いないだろう。優人は相手に返事することなく、素早く意識を集中させ2人の賊を取り囲むようにバリアウォールを展開した。マイクとサムを閉じ込めた、あの頑丈な防御壁である。


「よし、やった!」



敵の無力化に成功したと思った優人は、次の瞬間、自分の見立てが甘かったことを知らされる。ドオンッ!という音と共に、一瞬にしてバリアウォールに亀裂が入り、土壁が内側からしなった。驚愕の表情でその様子を眺めている優人とアイの目の前で、内側から第二撃が加えられ、脆くも壁に穴が開いた。その穴からスカリーゼが飛燕のように飛び出し、手に持った凶器がヴァラララッと閃光を放つ。


それを視認してすぐに、ユウトは右へ、アイは左へとそれぞれ通路へと駆けた。その2人に続いてスカリーゼは優人を、アンセルミはアイをそれぞれ追った。




右側、優人。


先ほどのスカリーゼの攻撃にも、アイギスが3度発動した。まだ1人として敵を無力化できていない。この戦いが収束するまでに、自分のMPはもってくれるだろうか。優人は不安に捕らわれながら、目の前に広がる通路をジグザグに走った。出来る限り、スカリーゼの攻撃が届かないように行動し、アイギスを温存しておいた方が良いだろう。


アイに左側へ行くよう指示したのは、魔素探知であちらが事務室になっている事が分かったからだ。障害物が多い場所であれば、敵も攻撃を仕掛けにくいのではないか。そう考えたのだ。後方からスカリーゼがついてきている事を確認しつつ、優人はあえて行き止まりとなっている通路へと進んだ。すぐさま優人に追いついたスカリーゼが彼を見つけ、10メートルほどの距離を置いて立ち止まった。


「小僧、お前何か魔法を使って俺の攻撃を防いでるだろ?」



やはり気付かれていた。ただし、防いでいるとは言え、銃で攻撃されるのは滅茶苦茶怖い。少し前までただの一般市民だった優人は、銃の怖さを十分知っている。それを魔法で防げようなど、考えてもみなかった事である。


「このTMPは、1秒ありゃ15発の弾を打てる代物だ。お前らには既に30発の弾を打ってる。これでも俺はそこそこ実践を積んでるんだ。戦いのプロでもないお前らに、その全弾が命中しねぇって事はあるまい」


スカリーゼは両手を左右に広げ、大げさにかぶりを振った。



「いつかお前の魔力は尽きるんだろうが、弾もタダじゃない。こっちとしても無駄撃ちは避けてぇところ…そこで提案だ。この建物に居る奴らは皆殺しにするよう、ボスから指示が出ているが、大人しく降参するのであれば、お前と、向こうで戦っているお嬢ちゃんの命は助けてやろう。どうだ?」



優人の答えがNOである事は言うまでもない。逆に、こちらの都合など全く考慮していない相手の提案に、優人は憤りを覚えた。


「お前達の方こそ、早く降参してこの建物から出て行ったらいいだろ!」



そう言って、優人は左手に魔力を集中させ、フレイムスローを放った。炎が東洋の竜を思わせる形となり、ゴオッ、という音を発しながらスカリーゼに襲い掛かる。それを見たスカリーゼは、左手を使って羽織っているマントを咄嗟に自分の前に構えた。炎がマントにぶつかり、彼が濁流に飲まれるのを防いだ。


初めて自分の魔法を防御されたことに驚きながらも、優人はフレイムスローを打ち続けた。優人の視界に、スカリーゼの右手元で閃光が迸るのが映った。ヴァラララッっという音とともに、アイギスが迎撃反応を示して数回、発動する。


「(やばっ!)」



このまま攻撃し続けるのは逆にマズイ。そう感じた優人は、手から放出している炎を止めて、眼前に小さめのバリアウォールを作り、その陰に隠れた。被弾したバリアウォールの土片が弾け飛ぶのが見える。


「(なんてやつだ…防御しながら、攻撃してくるなんて)」



あのマントは耐火性の装備なのか。だとすると、地魔法くらいしかスカリーゼを倒せる魔法はなさそうである。しかし、あの動きの速いスカリーゼが大人しくランドウェーブに当たってくれるだろうか?そう考えた結果、優人は1つだけ、確実にスカリーゼにランドウェーブを命中させられるであろう方法を思いついた。


「ち、参ったな…攻撃している時なら防御が疎かになっていると思ったんだが…完璧でいやがる」



優人と同じような感想をスカリーゼも抱いていたらしい。いや、口に出して言う分だけ、彼が焦っているのが感じられる。恐らくは、今の攻撃で優人を仕留められると思っていたのだろう。カードを確認する余裕が無いので正確には分からないが、そろそろ奴を倒さなければ、こちらのMPが切れてしまうだろう。優人としても、一気に勝負を決めたいところだ。


よし、と気合を入れ、優人はバリアウォールを発動した。地魔法の壁が、スカリーゼの周辺に作られていく。スカリーゼは、自分の周囲の変化に一瞬驚いた。自分が今来た道を覆うように突如として壁が出現し、目の前の優人と自分を直線で結ぶ一本道だけが彼の前に残ったからだ。


「バリアウォール…か。こんな使い道があったとはな。しかし、これではお前も逃げ場がない…」



空になった弾倉をその場に捨てて新たな弾倉を装填し、銃口を優人に向けて構えたスカリーゼの前方で、少年の手が下から上に向けて振るわれた。何をしたんだ?と、スカリーゼが考えたその刹那。少年の足元から突如として生じた瓦礫の濁流が、土石流を思わせる津波となって、逃げ場のない彼へと迫っていった。


「お…おぁあああぁ!」



スカリーゼが背後の壁に手をつき、恐怖の表情を浮かべた。意識を失う前に彼が最後に聞いたのは、バキリ、という自分の体の骨が砕ける音だった。






先ほどのホールを出てから、ここまで恐らく3分ほどしか経っていないだろう。優人は倒れたスカリーゼの手からTMPを取り上げて、トリガーの近くに小さなレバーを見つけ、それを動かした。これが安全装置になっているのだろう。トリガーを握っても、銃弾は出なかった。


ひとまず、自分に襲い掛かる脅威は去った。優人はホッとする一方で、アイは大丈夫だろうかと思い至る。魔素で作り上げた壁を崩してその様子を探知した彼は、事務室へと足を早めた。

【用語等解説】

特にありません☆彡


銃に関する知識は、学生時代に読んでいた小説で得た程度です(;’∀’)

今回はオーストラリア製の銃、TMPタクティカルマシンピストルに登場してもらいました♪20年以上前の銃ですので、きっともう古くなっているハズ…


知識に不備がありましたら、申し訳ありません(;^_^A

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