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人間関係ニャビ☆彡  作者: 山下です(^^♪
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第三十六話 刺客

「笑顔と握手には金も時間もかからない。そしてそれらは商売を繁盛させる」


ジョン・ワナメイカー(政治家、経営者)

日も傾きだした中、立ち昇る煙は次第に勢いを増しつつあった。窓際には、野次馬と化した大勢の傍聴人たちが押し寄せ、あれやこれやと話し合っていた。爆発が起こったと思われるのは、冒険者協会の正面入口付近である。優人達が今居るこの法廷は、王城の5階に位置しており、その現場を上方から見下ろす形になっている。


ゆらゆらと形を変える黒煙の隙間から、剣や金棒などを手にした、武装した大勢の荒くれ者たちが冒険者協会本部へとなだれ込んでいくのが見えた。協会の入口はすぐに、ならず者たちで埋まり、ごった返した。入口から入りきれなくなった賊は、建物の脇に置かれた資材を上り、2階の窓をたたき割って、そこから侵入していく。



窓際は既に多くの観衆にさえぎられていたが、優人とアイは、遠巻きに何とかその様子を確認する事が出来た。法廷に居る皆が、この王都、しかも本丸である王城の近くで、このような無法をやらかす者が居るとは到底信じられない、といった表情を浮かべている。


先ほどまで優人から離れていたデールが、再び彼の肩に飛び乗り、耳打ちした。


「ユウト、すまないが冒険者協会を助けに行ってもらえるか?」


「もちろん!アイもええな?」



アイは、真剣な表情でこくりとうなずいた。恐らく2人の返答を予期していたであろうデールだが、こうした場面でも丁寧な依頼口調で物事を頼める彼に、優人は感心した。


「2人とも、ありがとう。この王城には、王城と冒険者協会、お互いの有事に対応できるよう、連絡通路が設けられている。ミード王の許可を貰えれば、そこを通ることが出来るだろう。私の名前を使って、使用許可を取ってほしい」


「わかった、やってみるわ」



ミード王は群衆から離れた位置で、法廷に控えていた兵士達を集め、何事かを順に指示していた。今回の出来事が発生してから1分と経っていない。かなり素早い対応といえるのではないだろうか。優人は指揮を執っているミードに、遠慮がちに声をかけた。


「ミード王、申し訳ないのですが、連絡通路を使わせていただいてもよろしいでしょうか」


「君たちは?」


「デールの友人で、冒険者の優人と言います。こちらは、同じく冒険者のアイです。彼に代わって、依頼させていただいています」



優人の話を聞いたミード王は、彼の肩に乗ったデールを確認する。それに対し、デールはこくりと頷いてみせた。デールが王に直接話しかければ、兵士達の目に触れる事になる。それを避けるために優人を介して彼が依頼しているのだと、聡明な国王は即座に理解した。


「分かった。連絡通路の扉は番号で開くようにしてある。6538の順でパネルを押し込めば、鍵が開くようになっているよ。我が王国の衛兵達にも、冒険者協会を援護するよう伝えているところだ。具体的な作戦が決まるまで、少しの間持ちこたえてもらいたい」


「わかりました。ありがとうございます」



目で国王に礼を述べたデールが優人の肩から飛び降り、2人に先駆けて走り出した。アイも国王に一礼し、デールに続いて走り出す。同じく2人を追って走りだそうとした優人に気付いた三神が、声をかけてきた。


「ユウト、君には大きな力があるのだろう。しかし気を付けたまえ。敵のあの人数、巨大な組織が関与していると見ていい。王国でこのような大それたことをやらかす連中は…恐らくアウトフィットだろう」


「分かりました。情報、ありがとうございます」



優人は礼を述べると、三神に手を振ってアイの後を追った。三神は、いつになく真剣な表情で優人を見据えていた。デールとアイは優人を待っていたらしい。法廷から出てきた優人の姿を確認すると、彼に手を振ってから下り階段を進んでいった。優人は2人の後を追いながら、思い出したように自分の冒険者カードを取り出し、能力を確認した。


【クラス】

賢者見習い


【ステータス】

HP:150/150

MP:210/210

攻撃:23

魔力:101

防御:19

魔防:48


【スキル】

ファイアLv3

ウォータLv3

アースLv3


【パッシブスキル】

体力強化

魔素感知

魔法合成


【パーソナリティ】

転移者


【装備】

木の枝



いつの間にか、また少し能力が伸びたようだ。賢者になってからはMP消費が激しかった為、それが倍近く増えているのが特に嬉しかった。フォディナ以降、さしたる戦闘も経てはいないが、フォルク亭をめぐる一連の案件収束に際し、優人が取った行動が精神面を成長させたと、この世界に認められたのだろう。


2階分の階段を降り、再び通路を進んだその先にある1つの扉の前で、デールとアイが止まった。法廷からここまで、およそ3分。恐らくあれが、冒険者協会本部と王城をつなぐ連絡通路なのだろう。


扉の前に到着した優人はカードをポケットにしまい、横手に設置されたパネルに「6538」と番号を入力する。ガチャリと金属質な音を立てて、錠が外れるのが分かった。押し開いた扉の向こうには、幅3メートル、長さ100メートルほどの通路が広がっていた。


「ユウト、魔素探知を忘れないようにな」


「わかった、気を付けるわ」



デールの言葉で、魔素探知の事を思い出す優人。MPを消費しない便利な魔素探知だが、気を付けていないと、ついつい周囲を警戒するのを忘れてしまう。優人のような戦いの素人が、恐らくは戦場になっているであろう冒険者協会内部に進むのに、これほど心強いスキルは無いだろう。


魔素探知を始めると、早速、優人達が今来た道から、中年の男性がこちらに向けて駆けてくるのが分かった。デールはこの事に気付いていたのだろう。距離はもう目前である。アイに「誰か来る」と伝えてすぐ、通路の角からその人物が姿を現した。そして、その人物は優人達を認めるとこちらに向けて歩み寄り、声をかけてきた。


「や、やっと追いついた…待ってください!」



四十代前半くらいだろうか。ダメージの入った青色のジーンズに、皺のついたチェックのシャツ。典型的な西洋人風の顔をしたその男性は、肩で息をしながら懇願してきた。


「あの、どうなさったんですか?」


「いえ、失礼かと思ったのですが、たまたま国王様とあなたたちが話しているのが聞こえてきまして…私はアンセルミ。あなた方と同じ、冒険者です。」



優人の問いにそう答えて、アンセルミと名乗ったその男性は、握手を求めてきた。西洋式の挨拶なのだろう。握手に慣れていない優人だったが、反射的に相手に手を伸ばす。その手を握り返したアンセルミの握手は力強かった。


「今日は興味本位で傍聴に参加していたのですが、このような事が起こって。もしよかったら私にも、お手伝いをさせてもらえないでしょうか。これでも、多少は腕に覚えがあるんですよ」



そう言って、アンセルミは大腿部に沿うように設けられたポケットから、取っ手のついた鉄で出来た棒を取り出して見せた。見慣れないものを見る目になっている優人とアイに、アンセルミが「トンファーという武器です」と説明する。カンフー映画に出てくる武器だ、と優人は思い出していた。なるほど、この武器であれば持ち歩くのに不便はなさそうである。


「助けてもらえるんでしたら、ありがたいです。是非お願いします」


「ありがとうございます!」



アンセルミは笑顔でそう答えた。敵の数は分からない。味方は多いにこした事は無いだろう。一応デールが賛同するか聞いてみようとしたが、彼はアンセルミの視界から隠れるように、アイの背後に控えていた。確かに、人2人にネコが同行しているなど、一般の冒険者であるアンセルミには奇異に見える。身を隠しておいて正解だろう。こうしてアンセルミを迎えた一行は、連絡通路を進んだ。短い通路ではあったが、途中で思うところがあったのか、アイがアンセルミに質問した。


「あの、ところでアンセルミさんは、どうして危険を承知で手伝ってくださるんですか?」


「それはもちろん冒険者だから…と言いたい所ですがね。実は本当は、ちょっとお恥ずかしい理由なんです。こうした冒険者協会の危機を手伝えば、協会から謝礼が出るんですよ。だから、多少危険でも収入の為に頑張るんです」


「そうなんですか」



優人はそのやり取りを聞いていたが、アンセルミの回答にアイが浮かない顔をしているのが分かった。アイ自身は、世界を平和にする為に冒険者となったのだから、それも無理はないだろう。冒険者と一口に言っても、その動機は人それぞれだ。さしたる志もなく、ただ収入が良いからという目的で冒険者になる者も、決して少なくないらしい。協会としても、魔王の軍勢と相対するだけの人手は欲しい。両者は持ちつ持たれつといった関係で成り立っている面もあるのだ。


そして、あっという間に連絡通路の先に突き当たった一行。優人は扉の横に設置されていたパネルに、先ほどと同じパスワードを入力し、扉を開いた。扉の向こう側は小さなホールのようになっていて、右手は上り階段、左手は下り階段に、それぞれなっていた。見覚えのある場所だと思ったら、前にデールと一緒にリカルドの元へ挨拶に出向いた時に通った道だった。


あの時と違っているのは、事務員さんや冒険者がおらず人通りが全くない事と、すぐ下の階から絶え間ない喧騒が聞こえてくる事である。しかし、ホールに足を進めた時から、優人はそれとは別の理由で緊張を強いられていた。


というのも、吹き抜けになっているこのホールの右斜め上方、2つ上の会長室のあるフロアから、こちらを見下ろすようにしている人物を魔素探知が捉えたからである。敵か味方か判別できないが、大勢の人間が争っている真っ只中で、階下に駆け付ける事もせず、また避難しようというそぶりもない。何かをただ待っているようなこの人物に、優人は警戒を抱いたのだ。おそらくデールも同じように、その人物に注意を払っているだろう。


「…下の方で争いが起こっているようですね。私は下に行って加勢します。ユウトさんたちも、下に向かわれますか?」


「あ、えーと…」



アンセルミから見えない、アイの後ろに隠れた位置で、デールが首を横に振るのが分かった。当然、そこは優人の視界にも入らない位置なのだが、彼には魔素探知によりデールの一挙手一投足が手に取るように分かる。


「えっと、一度上の階に居る会長のリカルドさんに話をしに行こうと思っています」


「リカルドさんに?わかりました。ユウトさん、お互いに頑張りましょう」



そう言って、握手を求めてくるアンセルミ。何気なくその手を取った刹那、階上の人物が片手で手すりを掴み、ひらりとそれを乗り越えた。その身が重力に従って、優人達が居るすぐ近くへと落下してくる。予想していなかった事態に「あっ」と思った優人だったが、敵かもしれないその人物の奇襲に備えるべく、アンセルミの手を放して素早くその場を飛び退こうとした。


しかし、アンセルミは力強く握ったその手を離さなかった。これには優人は慌てた。その様子にただならぬ気配を感じたアイが「ユウト!」と叫ぶ。アンセルミはそれまで見せていた好々とした笑みを消し、蛇のような瞳で優人を見つめ、ニヤリと微笑んだ。

【用語等解説】

握手…初対面における握手は、友好の証として相手との距離を縮める役割を果たす。日本ではあまり人と握手する習慣は無いが、海外では『パワーシェイクハンド』という技術も存在するくらい、政治やビジネスの場でも握手が活用されている。また、握手は相手との約束を取り付ける『クロージング』において、その成功確率を高める上で重要な役割を果たす。



※久しぶりの戦闘シーン…うまく書けると良いのですが(^_^;)

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