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人間関係ニャビ☆彡  作者: 山下です(^^♪
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第二十九話 自分で考えたと思わせる

「ええ、それは大統領がお考えになった事です」


エドワード・ハウス(アメリカの政治家、助言者)


※ウィルソン大統領が、ハウス大佐の言ったことを、あたかも自分で考えた案であるかのように口に出した時に、周囲に対して彼はそのように公言した。

カバンから飛び出したデールは、2人の前で、あらためてフォルク亭を称賛した。


「うまかった…本当にうまかったぞ、優人!店を畳むなど言語道断だ。あの店主には、なんとしてもフォルク亭を続けてもらわねばならない!」



お行儀悪く、口の周りに肉汁をつけながら、デールが吠えている。ネコが吠えるというのも変ではあるが、興奮冷めやらぬ口調で話をするデールは、まさに吠えているといった感じなのだ。


「ちょっとデールちゃん、どうしてそんなに口の周りが汚れてるの?」



アイの疑問も最もである。しかし、ここにきて優人は、フォルク亭で騒いでいるデールを大人しくさせるために、慌てて肉をリュックに突っ込んだ事を思い出した。リュックの中を確認したアイが悲鳴をあげている。


「これは、フィラデルフィアにあったブリテン社という出版社の話なのだが…」



アイの騒ぎをよそに、デールが声のトーンを落として話しだした。優人はもちろん、肉汁で汚れた持ち物をリュックから取り出しながら、アイもデールの話を真剣に聞いた。



ある頃、同社の発行する雑誌を中傷するデマが流された。ブリテン誌は広告ばかりが多く、ニュース記事が少ないので、読者が飽き飽きしている。という趣旨の、悪意のある噂話だったらしい。実際にそれを受け、ブリテン誌に広告を出す企業が減ってしまった。ブリテン社としては、どうにかして、この噂の火消しに走らなければならない。


そこでブリテン社は、平均的な1日の記事を取り上げて分類し、1冊の本として世に出版した。『ある1日』と題されたその本のページ数は、300ページ。当時の価格にしておよそ2,000円相当の文量があった。しかし、ブリテン社はこれを20円で販売したのだった。


本は話題となり、多くの人がこれを買い求めた。この本の出版により、ブリテン誌には面白い読み物が沢山掲載されているという事を、見事に証明して見せたのだ。




そこでデールは話し終えた。優人はうーん、とうなるしかなかった。


「論より証拠…ってことか」


「そうね、いくら自分たちの雑誌には良い記事が載っていると言い回っても、世間の人は聞き入れてくれないわよね」



デールはうなずいてみせた。


「そうだ。自己弁護は良い結果を生まない事が多い。ブリテン社はそれをわかっていたのだろう。そして、当時として斬新な価格設定。これらが成功の鍵になった事は、言うまでもない」



確かに、多くの人が手に取ってくれるような価格設定にした事が、ひとつの成功要因だったのは間違いないだろう。ここで、アイが気になった事を聞いた。


「でもそれって、出版社の話よね。フォルク亭はレストランよ?」


「ふふ、その通りだ。しかし、ブリテン社が用いた方法は、今回のケースに応用できないものだろうか」



優人は少し考えてみた。そして、ある発想に至る。


「わかった!つまり、応用すると…」



3人は、顔を近付けてヒソヒソと作戦会議を始めた。






















「なにこれ、めっちゃおいしいやん!」


「ほんと!こんな店が王都にあったなんて!」


優人とアイが発した驚きの声に、道行く人々が振り返った。



「坊ちゃん嬢ちゃん、ありがとよ!さあさ、フォルク亭の試食会だよ!この機会にぜひ、自慢のステーキを食べてっとくれ〜!」



ジューシーに焼かれた肉が、フォルク亭の店長、ロインによって味付けされ、手際よくサイコロ状にカットしていく。その香りがちょうど昼時の飲食店街に漂っていた。なんだなんだと言いながら、腹をすかせた住民たちがその場に集まっていった。


「ねぇねぇ、もう一切れもらってもいい?」


「ああ、かまわないよお嬢ちゃん。まだたくさんあるから、よかったら友達もつれておいで」



アイがフォディナから持ち出した魔法を維持できるプレートに、優人がファイアで熱を入れる。そして、焼いた肉をホテルのバイキング料理さながら、ロインが目の前でお客さんに提供する。こうして即席の試食会場が完成した。声に呼ばれたのか、はたまた美味しい匂いにつられたのか、いつの間にか、周囲には黒山の人だかりが出来ていた。


「おっちゃん。俺にもそのステーキ、食べさせてくれ!」


「わたしも欲しいわ。旦那の分ももらっていいかしら?」


「はいよ。みんな、押さないでも大丈夫だよ!美味しいと思ったら是非フォルク亭に来ておくれ。今日と明日はサービスしとくよ〜!」



昼時、飲食店が立ち並ぶ大通りに、威勢のいい声が響いた。それに合わせるように、優人が質問した。


「ねぇ店員さん、サービスってなんだい?」


「普段は15ゴールドで、このステーキランチを出してるんだが、今日明日限定で10ゴールドで提供してるよ!ぜひ、この機会にウチに寄っとくれ~!」



その言葉を聞いて、試食会の会場に集まっていた何人かがフォルク亭の方に歩き出した。他の人々も、その姿を確認したとたん、我先にとフォルク亭に向けて走り出した。そう広くない店内はあっという間に満員となり、店の外にはフォルク亭のランチを求める行列が出来た。


試食会場の方も、引き続き好調である。肉を焼くロインの手際の良さは見事なものだったが、何より、試食会場に立ち寄ったお客さんの数の方がすごかった。まだ20枚以上あったステーキ肉は、イナゴの大群のように押し寄せた民衆によって、15分と経たないうちに平らげられてしまった。


「ユウトくん、アイちゃん、こんなことになるなんて…俺…2人になんて言って感謝したらいいか…」


「ちょっと、ロインさんったら大げさよ!」



そう言って涙ぐむロインを、アイが慌てて制する。優人は、自分たちよりも身銭を切ってこの試食会を敢行してくれたロインの方がよっぽどすごいと思ったのだが。自分たちが感謝されるのは気恥ずかしかったが、決して悪い感覚ではなかった。



この試食会を思いついたのは優人だった。アフクシスにはスーパーマーケットは存在しないらしい。転移者である優人は、スーパーで行われている試食を真似すればよいのではないか、と考えたのだ。優人の案に2人も賛成だった。そのうえでデールは、試食会に立ち寄る「ファーストペンギンが必要」だと提案した。


今でこそ、スーパーで当たり前に使われているショッピングカートだが、それが作られた時は、使う人が1人も居なかったという。カートを皆に普及させたのは、実はサクラの存在だったらしい。自分からは、最初の1人になれない。そうした大衆心理を逆手に取って、逆に最初の1人を作ってしまえばいい。皆が躊躇している中で最初に行動できる1人の事を、アメリカでは敬意をこめて『ファーストペンギン』と呼ぶのだそうだ。


ショッピングカート同様、何もしらない人が試食に並ぶには勇気がいる。だから、優人とアイが最初の火付け役として、会場にやってきたふりをしたのだ。デールの言った通り、この作戦は大成功を収めた。








翌日も、試食会は大盛況だった。ランチセールが今日までという事もあってか、試食会に集まったお客さんの多くは、そのままフォルク亭へと流れていった。驚いたのは、昨日来たばかりのお客さんが、今日もフォルク亭に並んでいた事だ。料理をよほど気に入ってくれたのだろう。


今日は、昨日より多くの肉を用意して試食会に臨んだ。今日はサクラは必要ないだろう、という判断の元、ロインとともに一所懸命に試食会場を盛り上げている優人とアイを見て、デールは1人、満足していた。


「…やはりきたか」



その時、デールの魔素感知が異常を察知した。そのことを伝えるため、優人の足元まで行き、足にすがりつくデール。優人も、デールの行動を受けて周囲の様子を把握し、その異常に気付いた。甲冑をまとった兵士たちが、物々しい雰囲気でこちらへと向かっているのだ。彼らがここに来るまで、3分とかからないだろう。


優人はロインにそのことを伝えた。ロインは焦った表情を浮かべたが、目の前のお客さん達に集中するように優人が伝えると、再び料理人の顔に戻って作業を再開した。優人は『フォルク亭』と書かれたエプロンを身に着け、試食会場となっているスペースの端に立ち、兵士たちの到着を待った。


「さて、やっぱ緊張するなぁ…デール、いざという時は頼んだで」



その言葉を聞いているのかいないのか、デールは優人の近くに控えつつ、ネコらしく後ろ足で耳をかいている。ほどなくして、10名ほどの部隊で構成された兵士たちが優人の視界に入った。試食のステーキ待ちをしていたお客さんの何人かが、その様子に気付いて振り返った。


兵士たちの先頭に、背の低い小柄な男がいる。兜に羽飾りがついているところを見ると、この男が部隊のリーダーなのだろう。試食会場に到着したその男は、フォルク亭のエプロンを身に着けた優人を認めると、甲高い声でわめきちらした。


「フォルク亭の者だな。誰の許可を得て、ここでこんな事を行っている!今すぐ撤収せよ!」

【用語等解説】

ファーストペンギン…天敵がいるかもしれない海の中に、果敢にも最初に飛び込むペンギン。翻して、多くの人が行動をためらっているなかで、最初に行動できる勇気を持った人物。


自分で考えた事だと思わせる…デールは、自分が試食会を提案するのではなく、優人が自分でそれを思いついて提案できるように、ブリテン社の話を引き合いに出した。優人自身が考えたアイデアなので、それに対して彼が前向きに取り組んでくれるだけではなく、その成功によって優人が自信をつける効果も期待できる。


社会的証明の原理、活用編です!(^^)!

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