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人間関係ニャビ☆彡  作者: 山下です(^^♪
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第二十八話 フォルク亭

「間違っていたと認めるのは、なんら恥ではない。それは言い換えれば、今日は昨日よりも賢くなったということなのだから」


アレキサンダー・ホープ(イギリスの詩人)

「ちょっと店員さん!きなさい!」


ステーキハウス、フォルク亭の店内は、本日一番の荒れ模様を呈していた。美味しさを味わった次の瞬間、止める間もなく、アイがホール係を呼びつけたのだ。それほど広くない店内に、アイの声が響き渡る。その声のトーンにただならぬ気配を察して飛んできたホール係に、店の責任者…店長を出すように言いつけている。


なぜアイが店長を呼んだかは謎だったが、それより問題はデールだった。リュックの中から肉をよこせとしきりに催促してくるのだ。よほど腹をすかせていたのだろうか。その声がテーブルにやってきたホール係に聞こえないよう、優人は必死にリュックを押さえつけておかなければならなかった。


「はい、ただいま参ります」



キッチンの奥から、店長と思しき人物の声が聞こえてくる。この時「少々お待ちくださいませ」ではなく「ただいま参ります」と言ったあたり、接客の心得がある店舗なのだな、とデールが思ったらしいが、これはまた後で聞いた話である。


それにしてもこのステーキ、なんでこんなに美味しいのだろう。焼いているハズなのに、口の中で溶けるように柔らかい。まるでじっくり煮込んだ肉のようだ。よほど良い肉を使っているのだろうか。三ツ星レストランと比較しても、遜色のないレベルだろう。しかも、ランチは15ゴールド。1500円ほどの価格でこの肉が出てくるのであれば、決して高くない買い物だ。これなら、サクラなど使わず堂々と営業していても、お客さんは入りそうなものである。


「ユウト、もう一度言う。今すぐ私にもその肉をよこすのだ」



そのような優人の思考は、人が豹変…いや、ネコが豹に変化したように、リュックの中でジタバタと暴れ出したデールによって中断される。デール、こんなにお行儀の悪いネコだったか?


とりあえず、飲食店にネコを連れ込んだ事がバレると騒ぎが大きくなりそうなので、今にも飛び出そうとしているデールを押さえつけながら、手元のステーキをフォークで突き刺し、そのままカバンに放り込む。リュックの中から「あつっ!」という声が聞こえた気がするが、今は細かい事を気にしている場合ではない。次は、急に怒り出したアイを止めなければならない。


「なぁアイ、そこまで怒る事ちゃうやろ?」


「そこまで怒る事よっ!こんなに美味しいんだから、正々堂々商売すれば良いじゃないの!どうして優人は平静でいられるのよ」



アイ、こんなに正義感が強い子だっただろうか?とりあえず、怒っている理由を聞くことはできたが、質問の方法については失敗だった事に気付く。怒っていることを指摘されて喜ぶ人はいないだろう。


優人が次の言葉を返せずにいるうちに、テーブルに店長らしい、恰幅の良い男性がやってきた。コックさんがかぶっているような帽子といい、白のユニフォームといい、まさにステーキハウスの店長といったいでたちである。アイは先ほどと同じ旨の怒りを、その男性にぶつけた。


「ちょっと!こんなに美味しい料理を出しているのに、なんでサクラを使ってまでお客さんを呼ぼうとするの!?こんな事しなくたってお客さんは来るでしょ?」


「も…申し訳ありません。お客様を騙すような事をしてしまい、心よりお詫びいたします。返す言葉も…御座いません」



そう言って、沈痛な表情を浮かべるフォルク亭の店長。それなりに修羅場をくぐってきたアイの剣幕は凄まじい。それに押されるように、店長はタジタジといった風体で、サクラを使っていた事をあっさりと認めた。素直な謝罪が返ってくるとは考えていなかったのか、勢いを削がれたように、アイは少し落ち着きを取り戻した様子だった。


「…どうしてこんなことするの?」


「はい…お客様に料理をお褒めいただき、大変嬉しく思っております。しかし、当店が美味しくないという評判が経ってしまいまして…」


「評判?」



アイは眉根をよせて、店長の言葉を繰り返した。確かにデールも「美味しくないと評判の店だ」と言っていた。これほど美味しいのに、なぜ逆の評判が立つのだろう。少し静かになったところに、リュックの中からデールが肉を食べている音が聞こえてくる。デール、頼むからもう少し静かに食べてくれ。優人はそう心の中で祈った。


「はい、どうやら私どもの店舗が、なぜか王都通信社に目をつけられてしまっているようなのです。月に何度も、使っている肉が悪いのではないか、味も日によって違う…など、私共の悪評が多々流されております。常連だったお客様も去ってしまい、今はなんとか新規のお客様を獲得しようとサクラを使っている次第です」



王都通信社というのは、新聞社のようなものだろうか。


「じゃあ、その王都通信社に間違えた評判を流さないように伝えるか、騎士団…だっけ、そっちに助けてもらえないか相談してみたらどうなん?」



アイが話す前に、ついつい自分が聞いてしまった。アイも横でしきりにうなずいている。


「通信社からは、美味しい、美味しくないといった指標のないものなど、あくまで個人の感想に過ぎない。取材した記者が美味しくないと思ったので、そのように書いているだけだといわれました。もちろん、騎士団にも具申したのですが、事件ではないし、民事には不介入だとして、跳ね除けられてしまいました」



店長は力なく首を横に振ってうなだれた。


「これ以上は何もできず、私には頼る相手も居りません。この店はもともと飲食店街から離れており、立地もよくありません。噂を知らない新規のお客様だけでも、どうにか獲得できないかと、家族をサクラとして使っていた次第です。しかしもう資金的にも精神的にも限界です…今月末までお客様が帰ってこなければ、この店は畳むしかありません…」



そう言って店長は、苦労がしわとなって刻まれた顔をくしゃくしゃにして、悔しそうな、それでいて今にも泣き出しそうな表情を見せた。これには、優人とアイも同情するしかなかった。なるほど、従業員を雇って美味しいと言って街を回らせたところで、どうせ店の回し者と思われるのが関の山だろう。王都通信社が出す情報を、市民は信じるだろう。


「…ねえ優人、なんとかしてあげられないの?」


「うーん…」



優人は考え込んでしまった。『ペンは剣よりも強し』とは言ったものだが、まさかこれほどまでとは。噂というものの脅威を、優人は初めて目の当たりにした。このいわれのない噂に対抗する手段は無いものか。現実世界ではどうだろう?そう考えてはみたものの、商売の心得のない優人に、なかなか良いアイデアは浮かばなかった。





お会計を済ませて外に出た2人は、美味しいものを食べた後だというのに、気持ちが沈んでいた。何とかしてあげたいという気持ちはあるが、自分たちに対応できそうな事態ではなさそうである。


「フォルク亭、このままつぶれちゃうのかな…」



ぽつりとアイが言葉を発した。折角美味しい店だったので、優人もまた利用したいとは考えている。しかし…。あきらめの言葉を口にしようとしたその瞬間。


「2人とも、あきらめるのはまだ早い!」



勇ましく発せられたその言葉とともに、リュックからデールが頭を出した。その真剣な表情、ピンと立った耳、確かに勇ましかった。口の周りが肉汁で汚れていることを除けば…だが。

【用語等解説】

誤りは素直に謝る…アイからサクラを指摘された店長は、隠さず素直にそのことを認めて謝罪した。それによって、アイの怒りは収まった。「あれはサクラではない」と否定した場合、このように事は順調には運ばない。


【詳細と活用方法】(人間関係ナビ☆彡)

http://for-supervisor.com/human-relationship/ayamaru/


※ デールのキャラが崩壊…と、書いている筆者も思ってしまいました(;’∀’)

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