第二十六話 イメージチェンジ
「女性の言葉をとらえるのは、ウナギのしっぽをとらえるようなものだ」
セルヴァンテス(作家 著書『ドン・キホーテ』)
海を映したような全面の青。今日はそんな晴天に恵まれた日だった。ぽかぽかと、という形容さながら、日差しは温かく、快適だった。そういえば天気の良い日に、こうして外で過ごす機会など、日常生活では無かった。優人はそんなことを考えながら、デールと一緒に冒険者登録所の正面、大通りに面した噴水に腰を掛け、アイが出てくるのを待っていた。
思い返せば、ここは自分が冒険者登録する時も、座って待っていた場所である。あの日から、まだ数日しか経過していないというのに、随分と昔のように感じられるから不思議だった。それほどに、ここ数日めまぐるしい出来事に見舞われたという事だろう。
優人とアイの目的は、魔王の討伐で一致した。病室で話し合ったあと、優人と同じ冒険者になることを決めたアイは、その翌日となる今日、その登録を済ませるために協会に出向いたのだ。なぜか事務のアンナさんの勧めもあり、アイに同行していた2人は、外で待つことになったのである。フォディナの件は無念だったが、それ以外は物事が順調に進んでいるのを感じる。アイの心も落ち着き、ようやく旅に集中できそうだ。これまでを詳しく説明するため、優人はデールと別れてから起こった出来事を話していた。
村の中でハンスを看取った事、アンジェロ達に襲われた事、命を落としそうになった事、戦いの中で賢者になった事。さすがのデールも、その過程でソマリスにも会った事には驚いているように見えた。…見えた、というのは、言葉を発しないデールの表情(?)で判断した為だ。日中は、この大通りを行き来する人も多い。人とネコが話している様子は大勢の人に目撃されてしまうだろう。だから、デールは言葉を発さずに聞き役に徹していたのである。
人通りが途絶えたタイミングで、デールが説明してくれた。まず、優人のように転移してきた存在とはいえ、神と呼ばれる存在が人を自分の元に呼んでまで、力を与える事は無いのだそうだ。また、死者を蘇らせるような魔法は、存在するかどうかさえ怪しいレベルらしい。ソマリスに呼ばれなかったら、自分はあのまま間違いなく死んでいただろう。そう考えるほど、優人は自分が幸運だったと痛感する。そして、話題は賊を倒した時に移っていく。
優人が賊を倒した魔法は、ファイアとウォータ、それにアースである。賢者になり、それぞれの属性をLV3まで使いこなせるようになった優人は、それらを用いて彼らを撃退した。ファイアについては、アンジェロが使っていた火炎放射を上回る威力の物を扱うことが出来る。アースについても、ランドウェーブまで撃てるようになっていた。ただしあの時、賢者になった優人が使った魔法は、それらとは一線を画すものである。
合体魔法。
通常の魔法使いが一度に扱えるのは、1つの属性だけである。優人の場合、それを2つ、あるいは3つ以上、融合させることで同時に使うことが可能らしい。形容するなら、スマホを初めて操作するような感覚だった。賢者になったタイミングで、直感的に魔法を合体させる事が出来ると悟った優人は、早速それを実戦に用いたのだ。ファイアとアース、それらのLV3を掛け合わせた『マグマ』、それにアースとウォータ、LV2を掛け合わせた『スワンプ』。デールの説明では、いずれも消費MPは多いが、敵の足止めないしは、地上を歩く部隊の殲滅まで図れるような、大規模魔法に分類されるもの…という過去の記録が残されているらしい。
ポケットから、冒険者カードを取り出して、今の情報を確認する優人。
【クラス】
賢者見習い
【ステータス】
HP:110/110
MP:110/110
攻撃:21
魔力:82
防御:18
魔防:39
【スキル】
ファイアLv3
ウォータLv3
アースLv3
【パッシブスキル】
体力強化
魔素感知
魔法合成
【パーソナリティ】
転移者
【装備】
木の枝
あれから何度か見返してみたカードだが、賢者なのに見習いってなんだろうと毎回思う。デールの話では、人間関係のスキルの習熟度が高まれば、この見習いは卒業できるのではないか、とのことだ。いつ見習いを卒業できるのかは不明だが、少しずつアフクシスで学んでいきたいところである。
ここ数日、優人は夜にこっそり冒険者協会支部の宿舎を抜け出しては、この魔法合成を研究していた。ファイアとウォータを混ぜたら、周囲を消滅させるような魔法を撃てないか、ファイア同士を掛け合わせて撃ったら上位のレベルのファイアにならないか、など、色々と試していたのだ。それらの取り組みの多くは徒労に終わったが、いくつかの成果は得られた。今後機会があれば、実戦でそれらを使うこともあるだろう。
そして、今回の事件を機に、風属性の魔法も習得しておきたいと思った。扱える属性は多い方が良い。できるだけ早い段階で習得しておこうという案に、デールも賛成してくれた。
それにしても…人通りが途絶えたタイミングで、優人は再びデールに話しかけた。
「なぁデール、アイやけど随分と遅くないか?」
「ユウトよ、レディの身支度というのは、時間がかかるものだよ」
「なんか紳士っぽいな。デールってそんなキャラやったっけ?」
そんな話をしながら、間もなく待つこと1時間という時になって、冒険者登録所の扉が開いた。そちらに目を向けると、アイとアンナさんが扉から出てくるところだった。アイの姿を見た優人とデールは、現れた少女の変化に驚かされた。
「アイ、その髪…」
「えへへ、似合う?協会の人が『旅をしやすいように』って切ってくれたの」
「ほう…随分と大人っぽくなったよ」
ふわっと膨らみのある髪を左手でポンポンっと軽く叩きながら、アイが笑顔でこちらに向かってくる。なんだかんだで、アイがまだ落ち込んでいるのではないかと思っていた優人は、いつもの様子を取り戻したアイを見て安心した。そして、相手の変化をほめる事を忘れないあたり、さすがデールである。自分も見習おうと優人は思った。
「アンナさんが、旅をするなら髪は短い方がいいって。切ってもらうのに少し時間がかかって待たせちゃったみたい。ごめんね」
「ううん、大丈夫やで。冒険者登録も済んだん?」
「うん!これで優人と同じ冒険者だね」
そういいながら、まっすぐに笑顔を向けられると、なんだか恥ずかしさを覚える。そして不思議だが、冒険者になったアイに、今まで以上に親近感が湧いた。子供のころ、同じゲームで遊んでいた友達と出会ったときのような感覚に似ている…と、優人は思った。
「そ、それでさ。職業は何やったん?」
「えへへ~」
そういいながら、嬉しそうに冒険者カードを取り出すアイ。デールと一緒に内容を確認してみる。
【クラス】
武闘家
【ステータス】
HP:225/225
MP:0/0
攻撃:54
魔力:6
防御:23
魔防:15
【スキル】
波動撃
地裂斬
【パッシブスキル】
体力強化
回復強化
【装備】
竜皮のリュック
優人は、なんだか見たことのあるスキルが並んでいる気がした。アフクシスは優人と住んでいる世界に並行して存在する世界だから、そうした知識もお互いに共有しているのだろうなと、自分なりに納得する。ひとり考えに耽っていた優人をよそに、アイが自分の職業に対するちょっとした不満を述べた。
「私、カワイイ女の子のはずなんだけどなぁ」
「はは、アイらしい職業だと思うよ!」
思わずそう言ってしまった優人に、アイがふくれっ面を見せる。
「ちょっと優人、どういう意味よっ」
「え、いやほら、元気で活発なところがいいなって思って!」
危ないところだった。とっさに自分でフォローしたが、女子相手にこういう発言はよくないのか、と優人は今更ながら気付いた。デールを見ると、下を向いて何やら震えている。どうやら他人事だと思って笑っているようである。このままだと気まずいので、優人は話題を変えることにした。
「そういえばさ!デール、次は王都に行くんやったっけ」
「そうだ。ただし、当初と少々目的が違ってきた。協会のメアリの報告によると、牢から放った賊…サムはアウトフィットの一員だったらしい」
「放った?それにアウトフィット?外行きの服とかそういう意味かな」
英語の知識を頼りに、アウトフィットを解釈しようとする優人。
「ユウトよ、翻訳を頑張ったようだが、今回はハズレのようだ。アウトフィットは王都に存在する組織の名前でな。非合法な活動で拡大している、冒険者協会の敵のような存在なのだよ。王都の中枢にも、その手を伸ばしているという噂がある。厄介な相手であることは間違いない」
厄介な相手、という言葉にマイクやアンジェロの事を思い出し、優人は納得した。
「とらえたマイクとサムについては、あえて脱出できるような牢を用意しておいた。そこから逃げ出したサムの逃走先が王都、それにアウトフィットの本部だった、というわけだ」
なるほど、そういう探し方もあるのか。と、優人は思った。さすが冒険者協会といった感じである。しかしそうなると…。優人とアイは、顔を見合わせてから、デールの方に向き直った。
「という事は…」
「そうだ。今回我々が王都に行く目的は、敵の本拠地の捜査だ」
【用語等解説】
共通項類似性の原理…出身地や趣味、見ているテレビ番組など、同じものや似ている事があると、人はその相手に親近感を覚える。
今回のケースでは『優人と同じ冒険者』という言葉に、お互いが親近感を覚えている。
~ご挨拶~
12月は投稿が少なくなってしまって申し訳ありませんでした!
月並みではございますが、本年もありがとうございます☆
そして、来年が皆様にとってよい年になりますように(^^)




