表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間関係ニャビ☆彡  作者: 山下です(^^♪
22/44

第二十二話 無力

「力無き正義は無力である。正義なき力は暴力である」


宗道臣(少林寺拳法開祖)

怒りの形相をそのままに、先ほど砂球が飛んできた方向を確認し、そこに杖が落ちている事を認めたアンジェロ。


「なるほど…離れた場所にある杖から魔法を撃ち出すなんて、随分とセコイ真似をしてくれるじゃないか、ええ?小僧…」



アンジェロの言った通りだった。優人は、一度落とした杖が、使いかけていたアースの魔力を保っていた事に気付き、その射出を遠隔操作で行えるのではないかと考えたのだ。結果、その作戦は上手くいき、一度はアンジェロを窮地に追い込む事に成功した。だが、不意打ちはそう何度も通用するものではない。今の攻撃で勝負を決められなかったのは、優人にとって誤算である。


「てめぇみたいに小手先の技しか使えないような奴は、魔法使いでもなんでもねぇ…ただの卑怯者だ。そもそも、初級の魔法ばかり、しかもそんな威力で俺に対抗しようとするとは…笑わせるなよ!ファイアっていうのはなぁ…」



アンジェロがそう言いながら、両手を優人の方に向け、ピタリと狙いを定めた。優人は身の危険を感じて、身構えた。


「こういうのを言うんだよ!」



その声と共に、凄まじい勢いで、炎が1本の柱となって、優人目掛けて飛んできた。咄嗟にその場から動いて攻撃をかわした優人だったが、火柱は早く、左腕をかすってしまうった。先程までの火球の比ではない。炎が当たった箇所を見ると、その部分だけ服が焼け焦げている。正面からこの炎を浴びたら、ひとたまりもないだろう。


「ほらよ!」



アンジェロが火柱を出している両手を優人に向けると、出ていた炎も、優人を追うようについてきた。規模は違えど、まるで消防用のホースから打ち出した水を操っているかのようである。その炎を、全力で走って避ける優人。逃げるその後方にある建物が、田畑が、炎の濁流に飲まれて焼け、溶かされていく。


優人は走って逃げ回るのが精一杯だった。対抗しようにも、優人のウォータなど、一瞬で蒸発させられてしまいそうな火力である。炎の柱は一向に止む気配がない。アンジェロの不意をついて攻撃するか、敵のMPが切れるまで持久戦に持ち込むか。そのどちらかしか勝機はないと、優人は感じていた。


しかし、アンジェロのMPが切れるよりも、優人の体力の限界がやってくる方が先だった。人間が全力疾走できる時間というのは、そう長くないものである。たまらず、優人は建物の影に隠れ、壁に背を預けて乱れていた呼吸を整える。あの火柱は、あくまで直線上の対象物を焼き尽くすものだ。建物の向こう側までは届かない。難を逃れた事に安心しつつ、反撃の方法を考える。その為に、まずは杖の回収に動こうと決めた。ふと、周囲の温度が先程よりも高くなっていることに気付いた。


「(え、なんだこれ…?)」



続いて、背にしていた壁から、聞いたことのないような音が聞こえ、やがて凄まじい熱が壁越しに伝わってきた。「まさか…」そう思った優人は、その場から飛び退いた。次の瞬間、壁に大穴があき、そこから炎が吹き出した。その光景を信じられないといった顔で、呆然と眺める優人。同時に、建物は大きな音を立てて崩壊した。飛んできた瓦礫が右足にあたり、優人は激痛に顔をしかめた。


自分の隠れていた場所があらわになり、瓦礫の向こうにアンジェロとアイ達が見えた。アンジェロは、炎を打つのをやめて、さげすんだ目で優人を見ている。こちらに向けて歩を進め、近付いてくるアンジェロ。その様子は、地獄から現れた死神が歩み寄ってくるように見えた。崩れた建物を挟んで対峙する位置まで来たところで、その歩みは止まった。


「ははは。隠れてるんじゃねぇよ、卑怯者が!」



醜悪な顔で笑い声をあげるアンジェロ。優人の服や髪には、崩壊した建物から出た粉塵がついていた。それを、雨が濡らして泥のように汚していく。右足がズキズキと痛む。しかし、それを忘れてしまうほどに、優人の中ではアンジェロに対する恐怖心が勝っていた。アンジェロの魔力と、その禍々しい雰囲気に圧倒されてしまったのだ。こんな相手に勝てるわけがない。その思いが優人の心を支配していた。恐怖の表情を見たアンジェロは、満足したように言葉を続ける。


「今更になって、『許してください』と言っても、もう遅いぜ?それに、テメェは、連れの女を人質に取られている事も忘れたか。どうだ、先にあの女から焼き殺されたいか?」



急に振り返って自分の方を見てきたアンジェロに、アイがびくりとする。


「(そうや、アイ。僕はアイを助けるために戦ってたんや…)」



ガタガタと震える足を無理やりに前に進める。まだ息もあがっていたが、優人はゆっくりと、瓦礫の間を進むように、アンジェロに近づく。髪も服も顔も、火に焼かれて雨を浴び、きっとひどい状態だろう。でもどうだ。ダメージを受けた箇所と言えば、まだ右足くらいじゃないか。僕はまだ戦える。


圧倒的な力を見せつけて尚、自分に挑んでくる優人に、アンジェロは心底呆れたような眼を向ける。


「ハッ。そんな泥だらけの顔で意気がってるんじゃねぇよ。テメェに相応しい、きたねぇおめかしだ。…だがな、お前のその顔ももう見飽きた。これで終わりにしてやろう」



アンジェロがそう言って左手をかざした途端、優人に向けて猛烈な風が吹き始めた。


「(これは…ウィンドか?)」



優人はまだ風属性の魔法を覚えていないが、これまでの経験を通して、この世界にある魔法の仕組みは理解できていた。猛烈な勢いの風が、かまいたちを伴って、容赦なく優人の体を傷付けていく。相殺できる魔法もないので、この場は耐えるしかないだろう。飛ばされそうになりながらも、優人は両腕で顔を覆い、歯を食いしばってその場で踏ん張った。


「いい子だ、そのままじっとしてろや!」



しまった、この風は足止めか!そう思った次の瞬間、凄まじい衝撃が体を襲った。その勢いに呑まれ、体ごと後方に持っていかれるのを感じた刹那、背中に強い衝撃を受けて、優人はその場にバッタリと倒れた。


「(いったい何が…)」



朦朧とする意識の中で、優人は自分の上にガラガラと砂や石の欠片が落ちてくるのがわかった。そうか、今のは恐らくランドウェーブだ。見れば、アンジェロは先ほどより倍近く前方に遠ざかっている。否、自分がはるか後方まで運ばれたのだ。アンジェロの放ったランドウェーブを正面から受けた優人は、土の津波の勢いをそのままに、体ごと建物に叩きつけられてしまっていた。


喉の奥から嘔吐感がこみ上げる。「ごふっ」という声とも咳ともつかぬ音と共に、その異物を吐き出す。地面に散ったそれは、血であった。首から下の感覚が無いので分からないが、もしかしたら肋骨が折れて、肺に刺さっているのかもしれない。


「(くそ…ここまでか…)」


「もうやめて!ユウトがしんじゃう…!!」



遠くでアイが、自分のことを呼ぶ声が聞こえる。体が動かないからそちらを見ることは叶わないが、この声色からすると、恐らくアイは泣いているのだろう。その後すぐ、バシッという音がして、アイの声が聞こえなくなった。まさか、あいつらに殴られたのか。


「よし。その女は縛って連れていけ!まだ子供だが、娼館で働かせればそれなりに稼ぎを出してくれるだろうよ。値落ちしないよう、大事に扱うようにな!」



そんなこと、させるもんか。優人は右手に力を入れて動かそうとしたが、自分の意思に反して、それは叶わなかった。地面に顔がついたまま、起き上がることすらできない。口の中で血と泥が混ざって、嫌な味がする。地面を見つめたまま動けずにいると、近くまで「ザッ、ザッ」と、瓦礫や砂を踏みながら、歩み寄ってくる何者かの足音が聞こえた。そして、その音の主が優人に向けて話し出す。


「あはは!いい眺めだな。お前みたいなクズ魔法使いは、這いつくばって死んでくのがお似合いだ」



そういうと、アンジェロはうつ伏せに倒れている優人の腹部を、何回も蹴りつけた。優人は蹴られる度に呼吸ができなくなり、口からは先ほどよりも血が流れ出ていく。


「ぐぅううぅっ…」


「はは、もう声もでないか。いい気晴らしになったぜ。俺に逆らった罰として、そのまま苦しみながら死ねや」



アンジェロはそう言い残して優人の元を去り、仲間の元へと向かっていった。














雨が体を打つ感覚だけが伝わってくる。体が冷たい。自分はこのまま死んでしまうのだろうか。



こんなことになるなら、デールの言う通りにしておけばよかった。デールは…どこに行ってしまったのだろうか。



思えば、調子に乗ってしまった罰だろう。アーマイドネストで活躍した自分達なら、少しの危機くらいは解決できるような気がして、強気になっていた。


そして、アイまで危険にさらしてしまった。なんと愚かな行動をしてしまったのだろう。









それよりも、自分はどうしてこんなところで、今にも死にそうになっているのだろう。


大学に進学してから、周りと心からの付き合いができなくて…それで、デールに連れてきてもらったんやった。











アフクシスに来てからの事が、思い返された。



話をするネコ、デールに驚いたこと

異世界という響きに胸躍ったこと

草原をデールと2人で歩いたこと

初めての町、グラペブロのこと

笑顔の大切さをデールに教えてもらったこと

アンナさんによくしてもらったこと

冒険者にしてもらったこと

愚者の称号が嫌だったこと

初めて教えてもらった魔法に感動したこと

イノシシに追い回されたこと

そのイノシシをアイが倒してくれたこと

アイとケンカ別れしそうになったこと

それを助けてくれたデールのこと

服をくれたアイのじいちゃん

からかい好きなユナばあちゃん

優しいフォディナの村のみんな

泊めてもらった日に開いてもらった歓迎会

仲良くなれた、不器用な守衛たち

アイとのアーマイドネストでの冒険

アイと達成した5階到達

笑顔で花をつんでいるアイ


そして、倒れたハンスにしがみついて泣いているアイ










思い返せば、僕はこの世界の人には助けてもらってばかりだ。


どうして今まで、自分に向けられた他の人からの厚意に気付かなかったのだろう。


それなのに、何もお返しなんて、できていないままだ。











これは夢だったのだろうか。目を覚ましたら、元の学生生活に戻っているだろうか。


自分はみんなとは違う。

もっとすごい人間なんだって。

他人から良く見られたいと思って。


そんな風に過ごす学生生活。



いや…ちがう。









壁を作っていたのは『自分』なんや。


この世界のみんなとは、フラットな付き合いをしたいと思って接した。

だから、みんなもそれにこたえてくれた。


学生生活では、自分が見栄を張っていた。

だから、心からの友ができなかった。




人は、何処へ行っても結局は『自分自身がどうするか』が大事なんや。


自分の人に対して抱いてる思いが、自分の周りの人をつくっているんや。


いまさら…そんなことに気付いて…














「全然分かってへん…かった…やん」


絞り出すように、声にして発する。


自分は大馬鹿だ。『愚者』の称号がついたことを、心から納得した。












体から力が抜け、次第に思考が不鮮明になってきた。




僕は、もうアカンとおもう。いや…自分のことは、もうどうでもいい…




でも、最後にこれだけは頼ませてほしい。


世話になった人に、そのお礼をさせてほしいんや。

























だから、もし神様がおるんやったら、アイに返してやってくれ。















ヒマワリのように明るい、あの笑顔を。











次話、フォディナ編完結です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ