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人間関係ニャビ☆彡  作者: 山下です(^^♪
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第二十一話 魔法

「お前の道を進め、人には勝手なことを言わせておけ」


ダンテ・アリギエーリ(イタリアの詩人 作曲『神曲』)

震えながら自分たちに挑んでくる優人を見た賊達は、盛大に笑いだした。


「コイツ、わかりやすいくらいビビッてやがるぜ!あはは!」



こっちはありったけの勇気を振り絞って言ったというのに、逆に笑われることになってしまうとは心外である。ムスッとする優人を余所に、賊たちはしばらくの間、笑いあっていた。その笑いがひとしきり落ち着いてきた頃、3人の中で一番背の低い、これまで黙っていた男が優人の前に進み出た。


「小僧、この娘を返してほしいと言ったな。もし俺と勝負して勝てたら、お前ら2人とも見逃してやってもいいぜ?」



粘着質な声で優人にそう投げかける男。男の身長は優人と大差ない。まだ能力は未知数だが、後ろのマイクを相手にするより、勝算はありそうだ。これはチャンスかもしれない。そう優人は思った。


「ダメ!私はいいから逃げて、ユウト…」


「嬢ちゃん、残念だがそれは無理な話だ。あの坊やが逃げたとしても、俺が走って追いかけるほうが早いだろうよ」



捕らわれの身であるアイの言葉をサムが否定する。どの道逃げられないのであれば、この勝負、受けて立つしかないだろう。優人はそう覚悟を決めた。


「わかった、受けて立つよ」



しかし、優人の言葉などどうでも良いかのように、マイクが言葉を続ける。


「おいおいアンジェロ、もう交代の時間なんだから、痛ぶるのはほどほどにしとけよ?」


「ああ、わかったよ…」



アンジェロと呼ばれた賊は、不服そうにマイクに応えた。優人は、自分が置き去りにされたような気分になり、不快に感じた。アンジェロは優人の方に向き直ると、まるで獲物を前にした蛇のように、舌なめずりした。


「おい小僧。このアンジェロ様の魔法であの世に行ける事を喜べ!」



あいつ、魔法使いなのか?優人は背中に下げていた杖を取り出した。アンジェロは「ほぅ」と、意外そうな目で優人を見る。


「護身用の杖…テメェもしかして魔法使いか?」


「そ、そうだ!魔法なら負けないからな!」



優人は精一杯の声を出して言い返した。杖を持つ手が震える。これは武者震いか、それとも恐怖か。自分の事なのに、よくわからなかった。その様子を見たアンジェロは、ニヤリと笑う。


「おもしろい。魔法使い同士の対決といこうやっ!」



そう言うが早いか、アンジェロが優人に手を向け、巨大な火球を放った。明らかに、普段優人が使っているファイアよりも威力がある。防ぎきれないと判断した優人は、その火球を横に飛んで避けた。優人の背後で火球が民家にあたり、激しい熱を発する。その熱を後方に感じながら、相手と自分の魔力の差を認識する優人。ひやりとしたものが、背中を流れ落ちた。


しかし、こちらだってやられてばかりではいられない。優人はアンジェロの魔法を避けたその位置で、すばやく行動を開始する。杖を両手に持ち、その先を正面にして構えた。そして、足を肩幅に広げ、出来るだけ強く念じながらファイアを放つ。


アンジェロのものより、2回りほど小さな火球が飛んでいき、狙い違わずアンジェロに命中する…かに思われた。しかし、優人のファイアは、アンジェロが伸ばした左手の先に生じた水球に阻まれ、ジュッという小さな音を立てて消滅した。


「お前な、こんな遊びみたいなファイアで俺を倒そうと思ってるのか?はやくその手に持っているオモチャを捨てて、本気で撃ってきたらどうだ!まさか、そのオモチャ無しじゃファイアを打てないっていうオチじゃあるまい」



呆れた顔でアンジェロが問う。その言葉から察するに、この世界では杖を介して魔法を使うのはイレギュラーらしい。先程アンジェロが言っていたように、杖の用途はあくまで護身用という事か。


しかし、今のファイアは正真正銘、優人の全力である。渾身の力を込めて放ったハズの火球が、いとも容易く防がれてしまった事に、焦燥を感じる優人。こんな時、デールがいれば打開策を示してくれるかもしれない。しかし、それが叶わない今、自分で何とかしなければならない。


そんな優人を試すかのように、アンジェロが続けざまに火球を放って攻撃してくる。まるで、的を相手に魔法の練習でもしているかのようである。よどみなく、何発ものファイアを放つアンジェロ。優人は村を全速力で駆けながら、その火球をかわしていく。火球が当たった場所が、まるで砲弾を浴びたかのように壊れ、燃えていく。


「逃げ足はなかなかのようだな。だが、そろそろ1発くらいは当たってもらおうか!」



アンジェロがそう言うと、ファイアの雨が止み、優人は走ることから解放された。息を切らしつつ、敵の方に向き直る優人。と、次の瞬間。アンジェロが優人の上空に向けて手をかざし、砂球を打ち出した。方向が逸れていることに安堵しつつも、砂球とアンジェロの双方から目を離せないでいる優人。その様子に満足したように、アンジェロがニヤリと笑う。


「ほらよ!」



アンジェロが、ばらりと開いていた拳を握りしめると、それを合図に、空中で砂球が分解して四散した。重力に従った砂が、つぶてとなって優人に降りかかる。顔の前に腕をかざすことで、顔に飛んでくる砂を防ぐ優人。砂つぶては中々止む気配がない。耳だけが頼りになる中で、アンジェロの声が聞こえてくる。


「小僧、戦いの途中で敵から目を放すとは随分と余裕じゃないか」


「(しまった、この砂は目つぶしか!)」



砂を受けながらも、なんとか前方を見た優人は、火球がこちらに向けて真っすぐ飛んできているのを見た。それはもう、間近まで迫っている。避けられないと判断した優人は、手に持った杖に魔力を集中し、アンジェロと同じように水球を作り出し、火球の到来に備えた。そして、自分の全身を飲み込むほど巨大な火球が身を包むその瞬間を狙い、水球を放つ。


「うあっ!」


「ユウト!」



水球が命中し、炎の威力自体を抑える事には成功した。しかし、倍近い大きさの火球である。水球がそのすべてを相殺する事は叶わなかった。これまで黙ってただ戦いを見守っていたアイが、悲鳴に近い声で優人を呼ぶ。


「くそっ…」


「ははは、どうした小僧!格上が相手だ。そろそろ本気で来ないと危ないんじゃないか?」



幸いにも、こちらのダメージは少なかったようである。しかし、このままではジリ貧だ。火だけで勝てないのであれば、ウォータやアースを使って戦うしかあるまい。今の自分に使える魔法は限られている。それほど多くない手玉をいかに活用できるかが勝負の鍵であることを、優人は理解していた。


アンジェロの真似ばかりしているようで不本意ではあるが、やはり砂を使った目つぶしが効果的だろうか。そう思いながら優人は杖の先に魔力を集中し、砂球を作り出そうと試みた。その時。


「ユウト、燃えてるよ!服が燃えてる!!」


「え、うそ?わわ、ほんまや!」



アイの言葉に慌てて自分を確認する優人。先ほどウォータで相殺し切れなかった炎であろう。こぶし大くらいの小さな火が、ズボンについていた。優人はアースを撃つ準備をしていた事も忘れ、杖を地面に放り出した。そして、両手でパタパタとズボンを叩いて火を消す。その様子を呆れたように眺めるアンジェロ。


火はすぐ消えた。貴重なMPを使わずに済んだことにホッとしつつ、優人は杖を拾おうとした。その時、手から離れていたにも関わらず、杖の先が土色の淡い光を帯びている事に気づいた。


「(これはもしかして…)」



その発想に至ると同時に、優人の中にこの危機を乗り越える妙案が浮かんだ。


「わかった、そろそろ本気でやってやるよ!」



急な優人の宣言に、アンジェロは警戒の色を強めた。


「ほう…ようやく本気で掛かってくる気になったか」


「ああ。もうこんなものは使わない」



その言葉とともに、優人は杖を放り投げた。手を離れた杖は回転しながら飛び、そのままアンジェロの側方、離れた位置に落ちた。その様子に満足するアンジェロ。手を前に突き出して構える優人。出し惜しみしていたくらいだから、それなりの腕はあるのだろう。アンジェロはそのように思った。


「小僧、お前の力を見せて見ろよ!」


「言われなくてもやってやるよ!これでどうだ!」



その声とともに、優人はファイアを放った。優人の手の先から撃ちだされた火球が、10メートルほど先にいるアンジェロ目掛けて飛んでいく。しかし、杖を手放した状態で手の先から打ち出したそれは、バスケットボール大くらいのサイズしかなかった。


「てめえ…本気でやるんじゃなかったのか!」



飛んでくる火球を前に、アンジェロが吠えた。魔法使い同士の戦いは、この世界では珍しい。それは、魔法を使える者自体の絶対数が少ないからである。まだ子供とはいえ、魔法を使える敵というものを少しは期待していたのだ。そんな中で待っていた敵の本気のファイアがこの程度の威力であったことに、アンジェロは裏切られた気分だった。


「(あのガキ…期待外れもいい所だ。もういい、遊びは終わりだ。この火球を消したら、一気に始末してやる)」



面倒そうに前方に手をかざし、作り出した水球で優人の攻撃を相殺しようとするアンジェロ。そして、火球はそのままアンジェロの作り出した水球の中に消えていった。アンジェロが反撃に転じようと、手に魔力を集めようとしたその瞬間、ドシャァっという音とともに、アンジェロは何者かに側頭部を殴りつけられたのを感じた。目の前がグラリと歪んで、危うく倒れそうになる。


「(なんだ?一体何が起こった?)」


「アンジェロ!前だ、前を見ろ!」



朦朧もうろうとする意識の中で、必死に正面を見据えようとするアンジェロ。その眼前には、高速で迫ってくる火球があった。しかし、アンジェロにはそれが火球であるという認識が出来ない。そして、優人ができる限りの力を込め練り上げた火球は、狂いなくアンジェロに命中した。


「ぐあぁっ!」


「アンジェロ!!」



賊たちが声を上げる中、優人は立て続けに3発の火球を叩きこむ。それらは全てアンジェロを直撃し、燃え上がった。炎がアンジェロの身をつつむ。救いを求めるように手を伸ばしたアンジェロは、そのまま地面に倒れ込んだ。その様子に、マイク達が動揺する。


ようやく一矢報いる事ができた。残るはあと2人。いや、アンジェロは自分に勝ったらアイを解放すると言っていた。これで戦いは終わったのだ。倒れたアンジェロの手が、無念を表しているかのように、上空に伸びた。


「(アンジェロの最期か…)」



優人がそう思った次の瞬間、アンジェロの上空に、直径2メートルほどの水球が出現し、そのままアンジェロ目掛けて落ちた。優人が「しまった!」と思った時には、アンジェロの身を包んでいた炎は綺麗に消え去っていた。あれはウォータを使う為に伸ばした手だったのか。これで、また仕切り直しである。優人は再び身構えた。


服も髪も水浸しになりながら、アンジェロが不気味なほど静かに立ち上がった。激しい息遣いだけが、聞こえてくる。その姿を見た優人は、何か得体の知れない恐怖を感じた。全身の感覚が、これは不味い、早く逃げろと警鐘を鳴らしている。しかし、アイを人質に取られている今、その場から逃げる事は叶わない。少しの沈黙の後、アンジェロが般若のような形相で叫んだ。


「この…クソガキがぁぁ!普通には殺さんから、覚悟しやがれぇぇぇえ!」



観戦していたマイクとサムは、苦虫をつぶしたような表情でこの戦いの成り行きを眺めた。


「あ〜あ、あのガキ、アンジェロのことを本気で怒らせちまった…」



その場にいる全員が、先ほどより雨脚が強まった事にも気付かぬほど、戦いは熾烈を極めていく。

解説等、ありません。

フォディナの戦い、あと2話を予定しています☆

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