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人間関係ニャビ☆彡  作者: 山下です(^^♪
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第十八話 警鐘

「過ちてあらためざる。これを過ちという」


孔子(思想家・哲学者 著書『論語』)

ゲーノモスの力でダンジョン1階入口前まで飛ばしてもらった2人は、ドアを開けて階段を上り、そこにあった鉄製の扉を押し開けた。


「ただいま!」



声を聞いた守衛が、驚いた顔でこちらを見る。それほど親しい間柄ではないが、人の顔を見ると、安心するものだ。


「おや…随分と早い帰還だな。まだ3時間しか経っていないぞ。やはり3階層くらいまでしか行けなかったか?」



ガタイのいい守衛の、どこかトゲのある物言いに、優人はついついムッとしつつ、アーマイドネストの中での事を、ドヤ顔で守衛に報告する。5階の守護者であるモグラを撃破した事。モグラが魔法を使えるようになっていた事。精霊と契約して地魔法を覚えた事。守衛の2人は、優人たちの報告に驚きを隠せない様子だった。


「これは…想像以上だな」


「デールさまがついているだけで、これほどまで上手くいくとは…」


「ちょっと、どうしてここでデールちゃんが出てくるのよ」



守衛2人の会話に思わずツッコミを入れるアイ。ここの守衛のデール崇拝ぶりには参ったものだ。当のデールはというと、部屋の隅に転がった鉛筆を手で叩いて転がしている。傍目にはネコらしく遊んでいるように見える。ネコのフリをしなければならないというのも、意外と大変なのかもしれない。ほんの少しだけ、優人はデールに同情した。


「いや、君たちの実力は本物のようだ。これまでの非礼を詫びよう…すまなかった」


「え?いや、大丈夫。こっちこそ、なんか言い返すように伝えてしまって申し訳ない」



こうやって素直に謝られると、こちらも怒る気をそがれてしまう。自分が誤っていると思ったら、素直に謝る事が大切なんだな。と、優人は1つ賢くなった気がする。


「それと、君たちがアーマイドネストで取ってきた素材があるなら、協会の方で買い取らせてもらうが…」


「え?ここって、そんな事もやってるん?」


「ああ、お互いにメリットがあるからな。冒険者としては素材をゴールドにすることで手荷物を減らす事が出来るし、協会は買い取ったものを加工して販売する事ができる。協会は、その収益で冒険者を登用・養成する事ができるわけだ。…そうそう、協会では市場の価格を把握し、その額で買い取っている。だから、足元を見られる事も無い。安心して売ってもらって構わないぞ」



なるほど、だから冒険者協会は、素材をとってきてくれる冒険者を優遇するのか。組織を運営するためには、冒険者の活躍が必要不可欠。お互いに持ちつ持たれつの間柄なのだ。優人は今更ながら合点した。アイのリュックには質量軽減が付与されていると聞いていたが、それでも持物は少ないに越したことはないだろう。


「そういう事やったら、お願いするわ」


「わかった、ここに素材を出して少し待っていてくれ」



しばらくして、素材はお金になって返ってきた。換金されて手に入ったのは4,500ゴールド。通貨の単位が見慣れたものだったので、優人は安心感を覚えた。この世界での4,500ゴールドの価値はよく分からないが、アイに聞いたところ100ゴールドもあれば、1日を町で遊んで過ごせるらしい。何となく100ゴールド=1万円くらいかな?と、優人は予想した。日常使っている通貨の100分の1くらいだと考えると、色々な事をイメージしやすい。


という事は、今回の4,500ゴールドは、日本円にして45万円。アーマイドネストに入っていたのは3時間くらいだから、時給にすると15万円…それなりに危険ではあったが、たった数時間でとてつもない金額を稼いだと言える。これだけあれば、よくしてもらったフォディナの村のみんなにも、十分なお返しができそうだ。


「ええんかな、こんなにもらって…」


「大丈夫だ。この布や蛇皮、それに守護者のモグラの爪は高額素材だからね」



蛇皮については、拾うかどうするか迷っただけに、一応持ってきて良かった…と思った。思わぬものが高額素材にランクインするものだ。これからは、素材は何でも拾っておくようにしよう。と、心に誓う優人。


「ところで、君たちはこれからどこに向かうんだね?」


「フォディナの村やで。アイは、家に帰らなアカンねん」



ここまできて、守衛にも関西弁で喋っている事に気が付く優人。まぁ、標準語は喋り慣れないし、関西弁でも話が通じているから良いか。


「ああ、フォディナなら日が沈むまでに到着できそうだな。気を付けて帰るんだぞ。そして、今度は30階層まで制覇しにやってくるといい」


「うん、お金に困った時は、そうさせてもらうわ!」



笑顔でそのように言う守衛。優人達が変わったからか、守衛の態度が変わったからか分らないが、どうやら仲良くなれた気がする。何度か会話をかわしたせいなのか、それとも実力があると判断されたからだろうか。なんにせよ、相手から認められるというのは、どこか嬉しいものだ。


外まで見送りに出てくれた守衛たちに手を振りながら、優人とアイ、そしてデールはアーマイドネストをあとにした。あの守衛たちのことだから、恐らくデールの為の見送りがメインなのだろうが…ま、いっか。





そうして、アーマイドネストからフォディナへ向かう帰り道、優人はふと先ほどのやりとりの中で気になる事が出来て、アイに尋ねた。


「それにしてもさ、守衛2人しかおらん建物の中に、結構な金額のお金か置いてあるんやな。強盗にでも襲われたら、どうするんやろ?」


「もう、優人ったら本当に何も知らないのね…。あのゴールドは、建物の中に置いてあったんじゃなくて、あの人たちが冒険者協会に連絡して転送してもらってるのよ」


「え、お金を転送?そんなことできるんか!」



画期的な技術があるではないか。わざわざゴールドを運ばないでも良いなんて…ATMがいらないだけじゃなく、犯罪の抑止にもなりそうだ。それにしても、どうしてその技術を使って人を転送しないんだ?移動手段が転送になれば、この世界をもっと楽に旅できるのに。


「…じゃあ、僕らも転送してもらったら、歩かんですむやん」


「それが出来たら苦労はないわよ。私も詳しい事は知らないけど、転送装置は物質を魔素に分解して届ける仕組みなの。形あるものを一度バラバラにするっていう理由から、生物は転送できないそうよ」



アイはどこか呆れながらそう言う。そのように呆れられても、知らないものはしらないのだ。しかしなるほど、その装置を使うとバラバラになった後、転送先で組み立てられる仕組みか。人体は細かいパーツで出来ているから、転送先でうまく組み立てられるか不安だし、うまく組み立てられたとしても、脳が死んでいたらおしまいである。確かに危険なにおいしかしない。そういえば、グラペブロの冒険者登録所でアンナさんが書類をやりとりしていたが、それも同じ転送装置を使ったものだったのだろう。


「そうか…残念。まぁ、情報や物質をやりとりできるってだけでも、すごい装置やな」



そこまできて優人は別のことにも思い至った。優人がアフクシスに来た方法だ。あれは、転送ではなくデールの魔法を使った異世界転移だった。あれは、転送の上位スキルか何かだろうか?アイがいる今、デールに話しかけるわけにはいかないだろう。これもまた今度聞かせてもらうとしよう。ともかく、この世界には地球上では実現不可能と思しき、魔法を使った技術がいくつかある。そろそろ、それらにも慣れていかねばなるまい。


ここまで魔法の事を考えた優人は、ゲーノモスと契約して使えるようになった魔法が気になった。歩きながら、ごそごそとポケットを探ってカードを取り出し確認する。久しぶりにゆっくりとステータスを見てみると、スキルだけでなく数字も変わっていた。レベルという概念が存在しない為、何を基準に成長しているのか分からないが、数字が大きくなっている。


【クラス】

魔法使い見習い


【ステータス】

HP:80/80

MP:50/50

攻撃:15

魔力:21

防御:8

魔防:6


【スキル】

ファイアLv1

ウォータLv1

アースLv1


【パッシブスキル】

体力強化


【パーソナリティ】

愚者ぐしゃ


【装備】

ただの木の枝


カードの情報を確認し、ポケットに収納する。ステータスの伸びと、魔法『アース』の修得は分かるとして、装備品もキチンと表示されるんだな。『木の枝』って書いてあるけど、これって『木の根』なんじゃないか?そんなことを思いながら、すっかり手になじむようになった杖をまじまじと見つめる優人に、アイが問いかける。


「ねぇユウト、ゲーノモスと契約して使えるようになった魔法ってどんなものがあるの?」


「え、そりゃあのモグラが使ってきたような、ドカーン!と波を起こすようなランドウェーブとか、バーン!って、防御壁を出現させるバリアウォールとかやろ」


「ホント!?みたいみたい!」



子供のように笑顔ではしゃぐアイ。その姿を見て、少し癒される優人。しかし、優人は忘れてはいなかった。彼女が巨大モグラさえ、たった2発でKOしてしまうほどの凄まじい破壊力をもった最終兵器であることを。


「よし、じゃあちょっと使ってみよか」


「おお~、待ってました!」



優人が手に持った杖に意識を集中すると、その先端が土色に光り出し、そしてすぐに球状の砂が出来上がった。ここまでは、ファイアやウォータと同じだ。


「ん?この後何をすれば、ランドウェーブやバリアウォールになるんや?」


「さあ…とりあえず、あのモグラみたいに地面を叩いてみたら?」


「わかった、そうしてみる」



えいや!という感じで杖を地面に振り下ろす優人。すると、叩いた箇所の前方で砂がはじけ、つぶてとなって、2人に飛んできた。


「わわっ!?」


「きゃっ!」



砂がビシビシとあたって結構痛い。物理的には他の2つの属性を上回る威力があるようだ。しかし、期待していたような土壁や波は生まれなかった。優人は、服についた砂を払いながら、どうやらレベル1のアースは、バリアウォールやランドウェーブにはならないようである。


「えーっと…もう1回やってみたら?」


「うーん、たぶん同じ結果になりそうやから、止めておくわ」


「え〜…楽しみにしてたのになぁ」



アイの期待に添えなかったのは残念である。ステータスは伸びても、肝心の魔法がパワーアップしていない。回数自体は相当数使っているハズだが、レベルアップはまた別の話なのだろうか。デールは、人間力を上げれば上位の魔法も使えるようになると言っていたが、目に見えない人間力をどうやって鍛えれば良いか、優人には皆目見当がつかなかった。


ちらりとデールの方を見ると、たまたま目が合った。優人の考えていたことを察したのか、小さく首を横に振るデール。やはり、今のレベルではモグラが使っていたような魔法は、まだ使えないという事だろう。くそ〜、あのモグラには使えて、自分には使えないなんて…なんだか魔物に負けた気がして、良い気がしなかった。



そうこうしているうちに少しずつ日も沈み、あと30分も歩けばフォディナに到着するという所までやってきた。ここはアイにとっては見慣れた場所らしく、あたりに強い魔物が居ない事を知っている為か、警戒する様子はないようだ。それどころか、何か歌を口ずさんでいる。


1日を通して村を離れることは、あまり無かったのだろう。なんだかんだで、早く村に帰りたい様子が伺える。そして、それは同時にアイとの旅の終わりを意味する。アイは村のみんなと過ごし、優人は再び旅に出る。そう考えると、急に寂しくなった。


通り道から少し離れた場所に小さな池があり、その周りにヒマワリのような花が咲いている。


「ねぇユウト、私、じいちゃん達のために、あそこに咲いてる花も摘んでいくよ!ここでちょっと待ってて」



そう言って、花に向かって走り出すアイ。


「あ、僕も手伝うで」



優人はアイを手伝う為、後ろから続こうとした。その矢先、後ろから「ニャ~…」と、先を行くアイには聞こえないくらいの、か細い鳴き声が聞こえてきた。振り返ると、デールがちょこんと座って優人の方を見ている。「待て」という事なのだろうか。


「ユウト…」



デールが話しかけてくる。


「なんだよ、こんな時に」


「すまない、これは私の落ち度だ…許してくれ」



珍しく余裕の無い、それでいて真剣な声で話しかけてくるデール。下を向いているので表情は読み取れないが、体が小さく震えているようだ。これは、ただ事ではないのかもしれない。


「え、ちょっと待ってや…何の事を言ってるん?」


「私が魔素で感知できる範囲に、フォディナの村が入った。そして今フォディナは…武装した複数の人間によって襲撃を受け、壊滅したようだ…」


「は?フォディナが壊滅??」



デールの言っている事の意味が、すぐには頭の中で理解できなかった。しかし、事の重大さだけは理解できた。心の中に生じた暗雲を具現化するように、アフクシスの上空にも雨雲が立ち込めはじめた。


「じゃあ、フォディナに居たアイのじいちゃんや、ユナばあちゃんは?」


「…アイの祖父ハンスは、まだ戦っている。だが、もう長くは持たないだろう」


「そんな…うそやろ?アイに何て伝えたらいいねん」



優人はアイの方を見た。少し離れた場所で、ヒマワリのような太陽によく映えそうな明るい色をした大輪の花を、笑顔で積んでいるアイが目に入る。デールはユナばあちゃんの事については触れなかった。それは恐らく、もうユナばあちゃんが…。優人の考えを遮るように、デールが話を続けた。


「村を襲っているのは恐らく、ハンスが『不審な連中』と呼んでいた者たちだろう。村にはまだ奴らの残党が残っている。アイはまだこのことを知る由もない。だから、優人はここでアイを留められるよう、時間を稼いでもらいたい。悔やしいと思うが、ここは我慢して冒険者協会の部隊到着を待…」



デールが言い終わらないうちに、優人は言い返した。


「何言ってるねん!アイのじいちゃんは、まだ助けられるかもしれへんねやろ!」


「無理だ…今のお前たちにどうにかできる事態ではない!」



かぶりをふり、語気を荒げるデール。しかし、こっちだって負けていられない。こうなったら、アイと2人で強行突破するまでだ。


「アイ、フォディナの村が大変な事になってるみたいや。はよ行くで!」


「嘘でしょ、あの何もないフォディナで?そんなこと、どうしてわかったの?」


「んと…魔法で!アイにはまだ言ってへんかったけど、僕は、周辺を感知する魔法も使えるねん!村のみんなが、誰かに襲われてるみたいや」



使えるのは自分ではなくデールなのだが、この際自分が使えることにしておいたほうが話が早い。それを聞いた途端、アイの顔色が変わった。


「じいちゃん、みんな…」



これまでの付き合いで、優人がそのような悪い冗談を言う人物ではないと知っていたアイにとって、これは十分信用に足る言葉だった。アイが、手に取っていた花を手放して駆け出す。それを追いかけるように、優人も走る。おそらくだが、後ろからデールもついてきているだろう。しかし今、そちらを振り返っている余裕はない。


村に近付くにつれ、ポツリ、ポツリと雨が降り始めた。だが今は、濡れることに構ってなどいられない。2人は、全速力で草原を駆けた。そうして5分も経たないうちに、草原の向こうに煙が立ち昇っているのを見た優人は、思わず叫んでいた。


「村の方だ!」



頼む、デールの間違いであってくれ。

そして、もし間違いでないならば、間に合ってくれ…


優人は人生で初めて、まだ見ぬ神に心から祈った。

【用語等解説】

自分が間違えていると思ったら素直に謝る…「謝る事で、威厳が保てなくなる」と考える人も多いが、本当の信頼関係を築けるのは、立場が下の相手にも謝罪できる人。守衛に謝られた優人が怒る気をそがれてしまったように、自らの非を認めた相手には、人は寛大になれる。

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