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人間関係ニャビ☆彡  作者: 山下です(^^♪
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第十話 アクティブリスニング

敵が欲しいのなら、友より勝るとよい

友が欲しいのなら、友に譲るとよい


ラ・ロシュフコー(フランスの文学者)

ぽかんとしている優人に、少女が語り掛ける。


「村の高台から草原を見張ってたら、食材が走ってきたから」


「食材?」



なんの話だろう。


「このジャイアントボアの事よ」


「ああ、このイノシシが?」



この凶悪な見た目のイノシシはとても食材に見えない。果たして美味しいのだろうか。というより、危うく自分がイノシシの食材になっていたかもしれないので、そんなことを考える余裕すらなかった。確かデールが、魔物は魔素を大量に含んでいるとか何とか言ってなかったか?そんな生き物を食べても大丈夫なのだろうか。


そう考えたが、魔素は空気中にも漂っていると言っていたし、恐らく普段からみんな接種しているだろうから、問題ないのだろう。と思い至った。


「ところで、そのネコちゃんは、あなたのペット?」


「え?」



下を見ると、今までどこに行っていたのか、デールが優人の足元にちょこんと座っていた。


「あ、こらデール。どこに行っててん。もう少しで危なかったんやで!」


「ニャ~…」


「おいデール、なんで『ニャ~』やねん!」



怒る優人を、少女が静止した。


「ちょっとあなた、やめなさいよ!かわいそうでしょ」


「にゃ~!」


「あら、可愛いネコちゃん!お利口なのね」



デールが少女の足元へ移動して、毛づくろいを始めた。このやろ~、なんで話さないんだよ。これじゃまるで僕が変な人じゃないか。コイツは喋るネコなのだと少女に伝えても、とても信じてもらえそうにない。それどころか、どんどん泥沼にはまりそうな気がした。優人は話題を変える事にした。


「それにしても…随分と目立つ赤い服だね」



町中ではそれほど目立たないかもしれないが、草原でこの薄い赤色は、明らかに浮いている。先ほどのように魔物が居たら、狙われるのではないだろうか。


「ああこれ?私の使っている武器だと、時々魔物から血が飛んじゃうから…その血を目立たないようにしようと思うと、こういう色の服を着るのが一番無難なのよ」



げ、この赤色は魔物の返り血を隠す為だったのか…。ちょっと引いた優人は、更に話題を変える事にした。


「と、ところでさ、あのイノシシを一撃で倒しちゃうなんて、君、すごい力やね」


「あら、私の力はそれほどでもないわ」



そう言うと、少女は右手でリュックを掴み、優人の前に出してみせた。


「このリュックは竜革で出来ているから破れる心配はないの。そして底に入っているのはオリハルコン!中で砕ける心配もないから、遠慮なく振り回す事ができるの。その振り回した勢い、つまり遠心力を使って敵を倒してるのよ」



少女はエッヘンという感じで優人に説明した。


竜革とやらがどれほどの強度を持っているかは分からなかったが、竜という字が付いているからには、それなりに丈夫な素材なのだろう。中のオリハルコンもファンタジーでは定番中の定番と言えるような、硬い鉱石だと思われる。なるほど、力が弱いのであれば、そうした方法で補えば良いわけか。



優人には、ぶん回したリュックをタイミングよく敵に当てるような芸当は、とても出来そうにもない。だが、自分にだって魔法ならある。こっちだって、少しは出来るところを見せておいた方が良いだろう。


「でも、結構大きなリュックだから持っていくのが大変そうだね。僕、攻撃魔法を使えるんだけど、かさ張らないから楽だよ」


「あらそう。いいわね、あなたは魔法が使えて。ジャイアントボアも魔法で倒せばよかったじゃないの」



少女はなんだかムッとした表情になり、続けた。


「じゃあ、私は村に戻るから。さようなら、旅人さん」


「え、あ。うん」



そう言うと少女は、足元にいるデールのことも忘れて、スタスタと村に向かって走っていった。なんだ?何か気にさわるような事でも言ってしまったのだろうか。考えても思い当たる節は無い。





「ユウトよ、お前はこの世界に何をしに来たのだ?」



急にデールが話し出した。なんだ、普通に喋れるじゃないか。一言文句をいってやる。


「あ、デール!なんで今まで黙ってたんや!」


「ネコである私が話すと変だろう。グラペブロの町でも、基本的に私は静かにしていたではないか」



言われてみるとそうだ。冒険者登録所や人目につかない場所でこそ話をしていたが、大通り等でデールと会話した記憶はない。やはり、喋れるという事は隠していたのか。この世界でも会話するネコは特殊なのだろう。


「相手が誇りに思っている事や長けていると感じている事を話しているのであれば、しっかり耳を傾けて聞き、心からの賛辞を贈る事がとても大切なのだぞ」


「え?あの子、なんか言ってたっけ?」


「やはり気づいていなかったか…あの少女がカバンの事を説明していたではないか。あれは彼女にとって自慢の一品のように思えるよ」



そうなのか?全然気づかなかった。デールはつづけた。


「それに対し、ユウトは自分が魔法を使える事を伝えて対抗しただろう?彼女の立場だったら、どのように感じると思う?」



そうか、確かに自分が自慢にしているものを差し置いて、我が事ばかり伝えてくる相手の事をよく思う相手は居ない。子供の頃、休み時間に友達の輪の中で「夏休み、沖縄に行ってきたんだ」と伝えたら、ある友達が「え、俺はハワイに行ってきたよ」と返してきて、自分の立場がなくなったのを思い出した。つまり、先ほど自分は少女に対し、そういう事をしたのだろう。



しまった、と今更になって感じた。デールの指導は、まだ続いた。


「彼女が発した言葉、そのどれか1つにでも、ユウトは共感や賛辞を送ったか?それ以前に、危機を救ってくれた事に対する礼は述べたのか?」



確かに、感謝こそしたが相手に伝えられていない。デールはなおも続ける。


・デールを叱りつけるような、乱暴な態度を見せる


・自分から服の事を聞いておいて、少女の返答に何も意見を言わない


・女性相手に「すごい力だ」と、伝える


・武器であるリュックを宝物のように示している相手に、逆に自分の魔法を引き合いに出して、自慢するような態度をとる



これらは、基本的には相手にとって失礼な言動にあたる…と。なるほど、それであの子は怒っていたのか…。考えれば考えるほど、悪い事をしてしまったという後悔の念がつのる。


「ごめんデール、僕、全然気づいてへんかったわ。あの子に謝らなアカン…」


「どうやら気付いてくれたようだな。安心するといい、ユウトが成長できるように導くのが私の役目といっただろう?」



デールはいつも優しい。厳しい事を言うのも、自分の成長の為に言ってくれているのだろう。両親でさえ、優人に手を焼いて伝えてくれなかった部分なのかもしれない。そう思うと、デールに対する感謝の心が生まれた。


「今回私から伝えるのは、それら少女の言葉をしっかりと聞き、受け止めよ、という事だ。相手が話しやすいように会話する方法をアクティブリスニング、という」


デールはアクティブリスニングを要約して伝えてくれた。

・うなずく

・繰り返す

・言い換える

・はい、いいえで答えられない質問をする


これらを、相手の話に合わせてタイミング良く使うとよいとの事だった。

急に言われて出来るだろうか。


そう考えていた次の瞬間。急に目の前がぐにゃりと歪む。前にも経験したことがある…これは、自分とデールだけの時を戻す魔法、思念遡行だ!目の前が一瞬暗くなり、ふわりとした感覚が体をおそったと思うと、目の前に先ほどの少女が立っていた。




「ところで、そのネコちゃんは、あなたのペット?」


「え?」



少女が話しかけてきた。どうやら時間が戻ったようである。下を見ると、デールが優人の足元にちょこんと座っていた。そして「今度は上手くやれよ?」という感じで、目配せしてくる。う~…なんだか試されているみたいでやりにくいな。


「う、うん。デールって言うんだ。」


「あら、可愛い名前ね。ほら、デールちゃん、おいで!」


「にゃ~!」



デールは先ほどと同じように、少女の方へ寄っていき、足元で毛づくろいを始めた。少女は、ネコが自分から近づいてきてくれたことを喜んでいるようだ。


「あ、あのさ!」


「え、どうしたの?」



こういう風に切り出す事になると思わなかったので、少々気恥ずかしい。でも、これだけはしっかり伝えておきたい。


「お礼を言うのが遅くなってゴメン。さっきは助けてくれてありがとう。君が居なかったら、僕は絶対イノシシにやられてた」


「ああ、そんな事ぜんぜん気にしないでいいよ」



少女が笑顔になる。ホッとすると同時に、その笑顔を見て「可愛い」と思ってしまう。自分の顔がちょっと赤くなるのを感じた。そういえば、さっきの会話の中では、笑顔を見る事が出来なかったな。


「う、うん。魔法もぜんぜん効かなくて、どうしようもなかったんだ」


「え、あなた魔法使えるの?」



一旦うなずいた。確かに、この場面は「うん」を言わずに「魔法もぜんぜん…」と始めると、なんだか唐突な感じがする。デールの言っていたアクティブリスニングが役に立ったようである。それに、さっきは魔法の事を話して怒られたのに、今回はウェルカムモードである。タイミングって大事なんだなと感じた。


「えっと、少ししか使えないけど」


「このジャイアントボアを焼くのが大変だな~って思ってたの!もしファイアの魔法が使えるなら、あとで手伝ってもらえる?」


「このジャイアントボアを焼くの?うん、僕でよかったら」



デールに教えてもらった通り、相手の言葉を繰り返してから返事してみた。多用は出来ないだろうが、確かにこちらの方が相手の話をしっかり聞いていると感じてもらえる気がする。そうだ、ここでもう一つ、あのことを聞いておかねばならないだろう。


「それよりさ、あの大きなイノシシを一撃で倒しちゃうなんて、君ってすごいんだね」


「ああ、それなら」



そう言うと、少女は右手でリュックを掴み、優人の前に出してみせた。


「このリュックのなせるワザなの。竜革で出来ているから破れる心配はないし、底に入っているのはオリハルコン!中で砕ける心配もないから、遠慮なく振り回す事ができるの。その振り回した勢い、つまり遠心力を使って敵を倒す武器なのよ」



少女はエッヘンという感じで優人に説明した。実際すごい武器なのだろうが、今度は心から、そのリュックの事を本当にすごい武器に思えた。


「そうか、そういう使い方をする武器だったんだ。タイミングよくイノシシに当てられる君の技術にピッタリの武器なんだね」


「やだ、それほどじゃないわよ」



少女は軽く苦笑いして、手をパタパタしながらも、どこか嬉しそうである。よかった、喜んでもらえたらしい。


「ところで、あなたの名前は?」


「え、名前?優人。高﨑優人」


「あら、変わった名前ね。じゃあ『ユウト』でいいかしら?」


「う、うん」



今まで女子から名前で呼ばれた事が無かったので、なんだか新鮮である。ここは、こちらも聞くタイミングなのだろう。


「君の名前は?」


「わたし?アイレ・リーベルよ。『アイ』で構わないわ。それじゃあ、すぐそこにある私の村まで案内するわ」


「わ、ジャイアントボアは持っていかなくていいの?」


優人は慌てて聞いた。



「大丈夫よ、あとで村のみんなに運んでもらうから。さあ、行きましょ!」


そういうと、アイは優人の腕を掴んで引いた。下にいるデールを見ると、何やら笑っているように見える。く…その笑みは「よくやった」と褒めているのか?それとも、この状況を茶化しているのか?


アイに腕を掴まれて嬉しいという気持ちと、出会いのシーンをやり直してしかうまくいかない自分の未熟さがあいまって、優人は自分の顔がますます赤くなるのを感じた。

【用語等解説】

自己重要感…優人が自分の魔法を引き合いに出して自慢するような態度をとったのは、彼の自己重要感からくる見栄です☆ 自分自身がそうした気持ちになって相手と張り合おうとしていないか、意識しておく必要があるのですね♪


アクティブリスニング…相手が話しやすいように聞く為の、技術や姿勢。


【詳細と活用方法】(人間関係ナビ☆彡)

http://for-supervisor.com/human-relationship/active-listening/



※みなさまのご愛読で『人間関係ニャビ☆彡』は10話目に突入!

…感謝しかありません(*^^*)

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