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人間関係ニャビ☆彡  作者: 山下です(^^♪
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第一話 序章

【自己重要感】

社会や組織の中で、自分が重要でありたいという渇望














心地良い風が吹いている。


僕はゆっくりと目を開く。



…太陽の光がまぶしい。


一度開いた目を、反射的に閉じる。


横を向いて、もう一度目を開く。


新鮮な緑が目に入る。


ふと、背中に冷たい石の感覚を覚えて、ようやく自分が横になっていた事に気づく。



手は…普通に動く。


両手を使って体を起こす。


足を延ばして座った姿勢になり、あらためて周りを見渡す。


ただ一面の広い草原。

そして、足元には4メートル四方の石畳。


その真ん中にひとり、僕は座っていた。



「なんなん、これ…」


こたえるものは居なかった。


ただ、静かな風の音と、サワサワとそよぐ草の音が聞こえるだけだった。









~さかのぼる事、数時間前~



大学の試験が8月上旬で終わり、僕ら学生にとって待望の夏休みがやってきた。


僕は、お盆時期を前に両親よりひと足先に大阪を発ち、兵庫県にある祖母の家に帰省していた。


我が家では昔から、夏休みは祖母の家に帰省する事が多かった。


大学生ともなると、部活やサークル、アルバイト…と忙しいイメージもあるだろうが、僕に至ってはそれら、どの活動をする事も無く、ただ時間のあり余る夏休みを迎えていた。


嫌だったから、やらなかったわけではない。

サークルの見学にも行ったし、アルバイトの事だって考えて、ネットで求人を探している。


ただ何となく、新しい環境に身を置く勇気が出なかったのである。


この夏をゆっくり過ごして、それからでも良いか…そのように考えていた。






優人(ゆうと)、大学は楽しめとるんか??」


祖母が声をかけてきた。


僕は曖昧(あいまい)に「うん、まあ、せやな」とだけ返事しておいた。





去年まで高校3年生だった僕は、無事に第一志望の大学に合格する事が出来た。


自分でいうのも何だが、高校時代から割と地味な性格だった。周りの男子がはしゃいでいる姿を見ても、なんだか一緒に行動しようという気になれず、かといってゲームやアニメの話ばかりしているグループとも交流を持つ気になれず…


どちらかといえばクラスの中では静かで、孤立しているタイプだった。


ただ、本は好きだった。ミステリーや話題になった小説は欠かさず読んできた。本の中に登場する人物は、知的で、冷静沈着で、思慮があって…そうした登場人物たちを多く読みすぎたせいか、逆に高校生のノリにはついていけなかったのだと思う。


高校3年生の時は受験勉強があって出来なかったが、ゲームだってそこそこ好きだ。主にRPGしか遊んでいなかったが、王道と呼ばれるものは、一通りプレイしてきた。でも、ゲームとはあくまで自分自身が楽しむものであって、高校生にもなって人と話して盛り上がるほどの事でもないと考えている。









大学に入れば、きっと環境が変わる。







自分と同じような、趣味をもっていて。

自分と同じような、考え方を持っていて。

自分と同じような、環境に置かれている。


そうした人たちと出会えるだろう。

そして、自分はその中で楽しく過ごしていけるだろう。


そう思っていた。






しかし、現実はそうではなかった。


大学にはまず、クラスというものが存在しないので、単発の講義の中で友達を作らなければならない。


だが、なかなか自分に話しかけてくる相手はいないし、こちらから相手に話しかけるのも苦手である。


というか、初対面の相手と何の話をすれば良いか分からない。あまり踏み込んだ話をして「ああ、優人という子は変わっているな」と思われでもしたら、それこそ恥以外の何物でもない。



とりあえず、いくつかの講義で人と話をする機会があったが、3ヵ月がたった今も、その人達はとても「友人」と呼べるような本音を語り合える間柄ではない。


ただ、その講義が来たら一緒にいて話す人達…といった程度の仲である。


そんな中で1つだけ、高校時代にはなかった楽しみが増えた。



スマホゲームがそれである。

通学や講義の空いた時間等、高校時代よりも随分自由な時間が出来た。


一緒にいて気まずい連中よりも、1人でスマホゲームでもしている方が良かった。


特に、ここ最近はオンラインRPGに熱中していた。

言葉をほぼ交わさなくていい人付き合いというのは、気が楽だ。

装備を集めたり、ボスを倒したりする達成感も味わえる。


そんなことで、大学自体は楽しくも何ともなかったが、スマホを使って遊んでいられる時間には幸せを感じられるのだった。


現実世界では心の晴れないモヤモヤした生活を送っていたが、スマホでオンラインRPGをして過ごしている時間は、それなりに楽しめていた。



なので、祖母には「楽しくない」とは言わなかった。

何だかんだで子供のころから世話になっているので、ウソはつきたくなかったのだ。


「ちょっとコンビニまで出てくる」


これ以上、大学の話をされるのもバツが悪いので、そう言って少し外を歩いてくることにした。




子供のころから何度となく遊びに来ているので、もう慣れたものではあるが、この辺りは相変わらず田舎である。


お目当てである近くのコンビニまでは歩いて20分以上かかるし、バスも無い。

あったとしても1時間に1本あるかないか、といった程度の本数である。


人もほとんど通らないから、仕方ないといえば仕方ないのだが。


そして何より田舎だと感じるのは、このあたりに住んでいる人は、夜以外、玄関のカギを掛けないことだ。祖母も、その例外ではない。


周りに住んでいる人を信頼しているのは良い事だが、最近は物騒な事件も多い気がする。

自分の祖母になにかあったらどうしようか、というのが優人の心配事でもあった。



それにしても暑い…コンビニに行くなんて言って出てくるんじゃなかった…


8月の日差しは、こたえる。

黒のジーンズが日の光を吸って熱を持ち、足を温めてくる。

服のチョイスを間違えたと後悔する。


日中の予想最高気温は35℃と予報が出ており、雲ひとつないカラッとした夏空が広がっている。


確かに、こんな日であれば物騒な事件なんて起こそうとする人もいないだろう。

玄関の鍵を開けっぱなしにしてもぜんぜん問題ないってことか…


そんなことを考えながら、ぼんやりとコンビニ目指して歩を進めていた。




と、一冊の本のようなものが、目の端をスッと横切った。


ん?本??




見間違いかと思って、通り過ぎた影の方に目をやる。


いや、見間違いではない。



タイトルまでは読めないが、本の背表紙が見える。

その本が開かれた状態で動いている。


それも、よく見ると、その本から足が4本出ているではないか。




「なんやアレ、本に足が()えとる!」


優人は思わず声に出していた。

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