魔導書(グリモワール)の回顧録 ~ 『悪役令嬢の書』は何を想う…… ~
今回の物語は、異世界で展開される『乙女ゲーム』を裏から導いていた魔導書のお話です。
我は偉大なる『悪役令嬢の書』である。
転生の女神様方によって創られた魔導書で、異世界にて展開される『乙女ゲーム』の進捗管理と担当する【悪役令嬢】の行動や言動を記録するという役割を担っている。
悪役令嬢は、高貴な生まれと気位の高い美少女ぞろいだ。
しかし嫉妬深く、許嫁の王太子に言い寄ってくる【ヒロイン】役の性格ブスをいじめる役柄ゆえに、悲劇的な最期が待っておった。
我は愛しい悪役令嬢が輝くように彼女達の意識を導いた。
金髪も美しいベアトリーチェの「オホホホホ」という高笑いは絶品であったし、婚約破棄場面で王太子殿下の頬を張ったアナスタシアの気概も見事だった。
ただ彼女たちは、例外なく悲惨な最期を遂げている。
そんな中、神々より新たな役割が申し付けられた。
数々の経験により自我を得ていた我々に、創作権限が与えられたのだ。
我は婚約破棄されて路頭に迷った悪役令嬢に『ざまぁ』する手立てをささやいた。
これは神々に受けて、『乙女ゲーム』のテンプレートに格上げされた時は嬉しかった。
この改変により、多くの悪役令嬢がハッピーエンドを迎えたものだ。
ところが、今度はヒロインを担当する『女主人公の書』が対応策を練り始め、悪役令嬢であることが露見した段階で、処刑されるという風に世界を改変したのである。
最初期の悪役令嬢の末路は、下町で餓死したり下劣な野郎に乱暴されたりというパターンが多かった。
ところが最近は、火刑や絞首刑などに置き換わった。
我も愛しい悪役令嬢の救済のため、新たな対策が必要だろう。
「わたくし……前世の記憶を思い出しましたわ。それにしても、わたくしが【悪役令嬢】だったなんて」
エメラルドグリーンの艶やかな髪と青空色の瞳のジェーン・フォン・グレイラント公爵家令嬢の『乙女ゲーム』が始まった。
我は、この娘をハッピーエンドに導かねばならぬ。
『女主人公の書』は、どんな手段に出てくるだろうか!?
対してジェーンの性格は、真面目で優し気な女主人公向きである。
女主人公が登場するまで時間があるので、片時も王太子殿下から離れず純愛を貫き通すという方針で攻めてみるとしよう。
「わたくし……王太子殿下から婚約破棄されれば『ざまぁ』展開に持っていく自信がありませんわ」
我はジェーンの意識を導いた。
「わたくし、片時も離れずに尽くして王太子殿下の心を射止めてみせますわ」
さて、此度の結末は……。
神々よ、ご照覧あれ! 最高の結末をお見せしよう。
お読み下さり、ありがとうございます。
今回は【悪役令嬢】が【女主人公】の役柄を横取りするという奇策で、ジェーン・フォン・グレイラント公爵家令嬢をハッピーエンドに導きました。
これは『中の人』の性格に即応した作戦を立てた『悪役令嬢の書』の働きが大きかったようです。
因みに女主人公の方は、王太子殿下に見向きもされず、焦って強引に関係を持とうとしたところで、不敬罪によって囚われ、監獄の中で病死したようでした。
更に『悪役令嬢の書』は、18禁展開で王太子殿下を篭絡して骨抜きにしたという噂もあるとかないとか……。
対する『女主人公の書』の悔しがり方は大変なもので、リベンジを誓っているらしいです。
最後に、ジェーン・フォン・グレイラント公爵家令嬢のモデルは、イギリスの悲劇の女王にして九日間の女王の異名で知られるジェーン・グレイです。




