第1海域 国の夢人の思い
日時は、元号○○年×月に固定します。
平成33年8月ー。
中国海軍東海艦隊に新しい空母が就役した。001B型と建造中に称されたこの艦は「山東」と名付けられ寧波舟山基地に配属となった。
東海艦隊は東シナ海を管轄する部隊である。東シナ海に尖閣諸島が含まれる以上、今回の東海艦隊への空母就役は少なからず尖閣諸島を意識してのこととしか思えなかった。
「良い艦だ。」
山東艦長となった林大校は誇らしげに言った。それもそのはず、中国海軍3番目の空母の艦長となれば、大変名誉な事なのだ。
「しかし、航空隊がいなければ空母なんて棺桶ですからね。」
航空隊隊長、陳中校は言った。
「はっはっは。それはそうだ。これからよろしく頼む。」
2人は固い握手を交わした。
これから空母山東。中華イージスとも呼ばれる長春、西安。通常の駆逐艦である杭州、福州とともに訓練に行くのである。訓練は1週間の予定で行われた。順調に行われた訓練の最中、兵たちの間でこんな噂が流れた。
「今後何か、重大な発表があるらしい」と。
「あながち間違いではないかもしれないな」
噂を知った林大校は心の中でそう思った。なぜならば東海艦隊の艦長クラスの人間と艦隊司令はもちろん東部戦区の陸、空軍も南京市にある戦区司令部に呼び出されていたからである。
「確実になにかが起こる」そう考えるのは自然な事であった。
「もし...もし戦闘になるとすれば...」彼には、日本にも、台湾にも友人がいた。艦長として、軍人として上の命には逆らえない事は分かっていても、様々考えを巡らせることになった。
東部戦区の役割は日本や台湾の有事に備えることである。東部戦区で何か動きがあるとすれば、それは日本か台湾に何か動きがある。もしくは、こちら側から何か行動を起こすということになる。空母山東艦長、林大校は指定された日時まで複雑な思いで過ごすことになった。
平成33年8月中旬。
戦区司令部にて行われた会議で次の事が発表された。
“尖閣諸島奪還作戦について”
海軍主導で行われるこの作戦の主旨は、中国の夢でもあり悲願でもある太平洋進出を叶える為の一歩であった。中国の太平洋進出を阻むように連なる日本列島は中国にとって邪魔もの以外の何者でもない。まずは尖閣諸島の奪還から、将来的には尖閣諸島含む先島諸島を占領してしまえば太平洋への道は開けるのだ。米国主導の太平洋開発に風穴を開ける事ができる。
だが、懸念事項は米国である。下手に米国を刺激してしまえば一気に世界大戦の様相を示す事は火を見るよりも明らかであった。しかし、これについて中国は対策があった。米軍基地のある島を占領しなければ恐らく米国は出てこないだろうという考えであった。米中首脳会談会談の際もそれとなく話題を振ったが、尖閣諸島の日中紛争について積極的に介入しないと宋主席に話したのだ。
さらに言えば日本は先制攻撃は防衛出動がかからない限り出来ない。先制攻撃で奇襲を仕掛け、一気に占領してしまえばこちらのものだと、簡単に言えば中国はそう踏んだのである。
「これは、米国の一方的な支配に対する我々の正義である。」
会議の最後に東部戦区司令員の趙上将は声を張り上げて言った。
日中関係は日本の知らないところで悪化する事が決定されたのだ。