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読書の秋〜二人だけの夏〜

秋ですね

 夏は終わりをむかえて、季節はゆっくりと秋へと移り変わっていく。そう、秋と言えばいろんな秋があるわけだが、オレの中ではもっぱら昼寝の秋、といきたい所なんだが、彼女、緑がいるせいでオレの秋は読書の秋に変わってしまった。そんなわけで私こと色無は緑の家にお邪魔してるわけで。何してるかと言えば、読書なわけで。

二人ただ黙々と。

同じ部屋で。

向かい合って座り。

会話もなく。

・・・・・・

まぁ、いっか。

 そんなわけでオレは緑の部屋で漫画を、ここに来てからずっと読んでいる。部屋にはページをペラペラめくる音と、甘いクッキーのほのかな香りと少しきつめな紅茶の香りが混ざり合った匂いが充満していた。オレはちょうど一冊のマンガを読み終え机の上に閉じて、置き、大きく伸びをする。そんなオレに気付いたのか、緑はオレに声をかけてきた。

「どうした?読み終えたのか?」

「うん。ただ飽きたから他に何か読みたいな」

「あっ、じゃあ・・・」

彼女はそう言って、座ったまま自分の後ろにある本棚から一冊の本を取り出し、机の上に置いた。それは表紙に男の子二人が並んで立っている本だった。

「なにこれ?」

オレが彼女にそう聞くと、いつもクールでぶっきらぼうな彼女がイキイキと答えた。

「バッテリーって本は知ってるか? 」

「あ、うん。名前だけなら」

「その本と同じ作者が書いた作品だ」

「ふ〜ん」

「流れもマンガみたいだし、あまり読書しない人でも読みやすいと思うんだ」

「へ〜」

イキイキと本の説明をする緑と、それとは対照的に全く興味無さそうに相槌を打つオレ。そんな温度差に気付いていないのか、彼女はいつもの口数の少なさからは考えられない程の勢いで、作品の内容を話し始める。ていうかオレは内容知らないのにそんなにネタバレしちゃっていいんですか?ある程度しゃべって満足したのかそれとも疲れたのか「フゥ」と一息ついてから

「どうだ?」

と落ち着いて聞いてきた。オレはなんだか吹き出しそうになるのをこらえながら「う〜ん」と曖昧な返事をする。すると彼女はシュンしたような表情になる。それを見て、彼女に気付かれないように小さくため息をついてから、

「とりあえず家に持って帰って読んでみるよ」

その返事を聞くと、彼女の顔はにぱーっとみるみるうちに明るくなった。

「そ、そうか。なら読み終わったら教えてくれ。感想も聞きたいし、続きもあるから」

笑顔でそう言う緑。そんな彼女の表情を見れただけで今日はもう満足だ。

「そういえばさ」

オレはふと置いたマンガを手に取りペラペラめくりながら緑にたずねた。彼女はすぐに明るい表情を消して、いつものクールな顔に戻った。表情がコロコロと変わるやつだ。

「マンガのキャラクターってなんか分かりやすいよな」

「あぁ〜、たしかにな」

緑は一瞬考えてからそう答えた。

「そういや赤とか紫も分かりやすいよな」

オレがそう言うと、彼女はクールに答えた。

「いや、彼女達の場合はどちらかと言えばわかりやすいというよりは、素直なんだろう。いい意味でも、悪い意味でも」

「あっ、たしかにな」

 そうやって談笑して過ごしていると、いつの間にか外はとても暗くなっていた。ケイタイで時間を確認する。七時を過ぎたぐらいだった。

「そろそろ帰るわ」

オレがそう言って立ち上がると、緑は自分のケイタイで時間を確認した。

「うん?もうそんな時間か・・・。駅まで送っていくよ」

そう言って立ち上がる彼女をオレは「いいよ」と言って断ったのだが、彼女は「危険だから」と言って、オレの言葉をはねのけた。オレ的にはその帰り道が危ないからいいと断ったつもりなのだが、割と頑固なとこがあるので、あえてもう言わないことにした。彼女はスタスタと部屋をでてキッチンに居た母親に「ちょっと駅まで送ってくる」と言いに行った。オレも「お邪魔しました」とそう挨拶すると、緑の母親は「あらあら。晩御飯をご一緒すればいいのに」とおっとりした調子で言ったが、そこは丁重にお断りした。


 そして二人並んで暗闇の団地を駅に向かって歩き続ける。すると緑が急に口を開いた。

「さ、寒いな」

「うん?あ、あぁ」

オレは不意を突かれたように答えた。そして彼女は言葉を続けた。

「最近急に寒くなったな」

「あぁ、たしかにな・・・」

オレは「ハァ」と美しく光る満月が浮かぶ空に向かって息を吐いてみる。やはりまだ白くはならない。

「まだ白い息がでるほどではないだろ」

緑はそうやってオレの行動をツッコム。オレは照れ隠しのような笑いで返す。彼女も一度を空を見上げ、かと思うと下にうつむいて口元に手をあてて、ハァーと息を吐く。

「さ、寒いせいかな、手が冷たくて」

そういいながら顔を赤くして、決してこちらを見ずにそうわざとらしく言う彼女。オレはニヤニヤしながら彼女の手を握ってみた。すると彼女は空に浮かぶ満月にも負けないぐらいの、満面の笑顔で下にうつむいた。オレたちはそのままただ会話するわけでもなく、ただ二人強く手を握り合いながら駅に向かった。外は寒く外気はヒンヤリとオレの顔を冷やすが、緑とつないだ手はまだまだ秋とは程遠いようだ。


あっ、ちなみに借りた本は読もうと思ったけど、やっぱりめんどくさくなって、マンガ化してる方の本を買って読んだのは内緒の話だ。

夏ですか・・・

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