本当の笑顔〜ボクとメガネと緑〜
「なぜ私はこんなにも目つきが悪いのだろうか。」
そんな彼女の言葉から事は始まった。
いつもの放課後。たまたま帰りが一緒になったオレと彼女
「緑」は、ファーストフード店の一角にいるわけで。
「なんだいきなり。変なものでも食ったか?。」
「君じゃないんだから、それはない。」
「あぁそう。」
オレは手に持っていたジュースのストローを口に近づける。緑は、ほおづえをついて、オレのポテトを一本取った。オレはジュースを置いて、ポテトを一本手にとり言った。
「だいたいなんなんだいきなり。なんかあったか?。まさか赤か?。」
「うん・・・まぁそんなとこだ。」
こいつはまた赤になにかそそのかされたのか。こいつは根が真面目なせいなのか、バカ正直で人の言うことを、よく鵜呑みにする。
「で、今回はなにを言われたんだ?。」
「いや、たいしたことではないんだがな・・・。」
彼女はほおづえをつくのをやめて、オレを見て話し始めた。 今日の昼休憩のこと。赤と緑は少し話をしていた。そのとき赤が、
「緑ってだれかと付き合ったこととかないの?。」
と、急な話にビックリする緑。だがいつも通りの様子で答えた。
「ない。」
「う〜ん。なんでかなぁ?。美人の部類には入ってるんだけどねぇ。」
腕組みをして、う〜んとうなりながら考え込む赤。そんな赤に対して、緑は言った。
「社交的ではないからだと思うんだが・・・。」
「いやいや、そういうのがいいとか言うやつもいるって。人間数え切れないほどいるんだから。」
「・・・・・。」
どこからそんな根拠がでてくるのだろう。と緑は思いつつ、二人の間に 沈黙が流れること1分。赤が急に口を開いた。
「目つきだ。」
「目か・・・?。」
緑は不思議そうにそう答えた。
「そう、目つき!。」
一体、なんの確証があって、と言おうと思ったところを赤の言葉にさえぎられる。
「緑っていっちゃ何だが、目つき悪いでしょ?。」
「まぁ、自覚はある。」
「やっぱり目つき悪いと話しかけにくいし、初見のイメージ悪いし。」
「それを言うなら君も・・・・ 」
「だからだよ!。」
赤の言葉にまたも緑の言葉はさえぎられる。
「だから男が寄ってこないんだ。それ以外あるだろうか、いやあるはず
がない。」
「少ない頭を使っての反語表現お疲れ。」
「お褒めの言葉ありがと。ともかく!。目つき悪いから人が寄ってこない。
だから社交的じゃなくなる。そして、愛想がなくなる。諸悪の根源は目つき
にあったのだ!。」
そう叫ぶと赤はイスからガタンと勢いよく立ち上がり、いすの上に片方の足
を乗せて、ガッツポーズをとった。
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そして、話はファーストフード店に戻って。
「というわけだ。」
「ていうか、よくそんなので納得したなお前。」
「まぁ・・・事実だしな。」
いつものようにたんたんと喋る緑。そして続けて、
「それに・・・・。」
「うん?。」
「気には・・・・してたし・・・。」
緑は少しうつむきぎみになりながらつぶやいた。急に空気が重くなる。えっ?なんかオレが悪い見たいじゃんか。とりあえず空気を変えるために話をふった。
「で、その後なんかあったのか?」
緑はうつむいていた顔を上げてから、もとの様子で言った。
「ほかにか・・・・。そうだな・・。しいていうなら愛想が悪いから笑
顔を作ってみろ、とは言われたな。」
「で、どうだった?。」
「・・・・・・。」
「聞くまでも無しか。」
まぁ、そんな気はしていた。
「わっ、私的にはよかったほうなんだぞ?!。」
顔を真っ赤にして、緑には珍しくすこし大きな声で言った。オレは、そんな発言だけは自信の見られる緑にむかって言った。
「ほぉ〜。ならその自信の笑顔とやらをみせてもらおうか。」
「・・・・・わかった。」
緑はそう言うと、少し深呼吸してから、笑顔とは呼べないような、ひきつった笑顔を見せた。それを見たオレは、その場で周りの人に迷惑になるんではないかと思えるぐらい、大きな声で笑った。
「わっ、笑うな!。赤とまったくおんなじ反応じゃないか。」
また顔を真っ赤にしながら大声をだす緑。しかし、その声に全く反応しないオレ。ひとしきり笑った後、緑を見るとうつむいてジュースをすすっていた。さすがにヤバイと思ったオレはすぐに謝った。
「わっ、わりぃわりぃ。つい・・・・・なっ?。」
「・・・・・。」
「ほんとにすまんかった。」
オレはテーブルの上に手をつけて、額がテーブルにぶつかるんじゃないかってぐらいに頭を下げた。すると、それを見た緑が、
「悪いと思うなら誠意を見せてくれ。」
ちょっと怒ったように言った。誠意か・・・・。
「よし、わかった。」
そう言うとオレはスッ、と立ち上がり緑の手を引っ張って店の外に出た。
「ちょっ、どこに行くんだ?。」
緑は少し驚いたようにたずねてきた。オレは「いいから、いいから。」と、緑の手を握ったまま、引っ張るようにして歩いた。
そして、ついたのは、
「メガネ屋さん?。」
緑は店の前につくなり唖然としていた。
「そう、メガネ。」
「私は目なんか悪くないぞ?。」
「まぁ、いいから。」
オレは緑のてを引っ張って店内に入る。店内にはビッシリとメガネが並んでいた。まぁ、メガネ屋だから当然か。
「お客様、今日はどういったものをお探しですか?。」
黒いスーツの男性店員が近づいてきた。オレはその人に、
「こいつに似合うようなだてメガネを作ってもらえませんか?。」
「はぁ?」
緑はオレの言葉に驚いたように反応した。店員はオレの言葉を聞くと「かしこまりました。」と言って去っていった。
「何でメガネなんだ?。」
緑はとても不思議そうにオレの顔を見た。
「いや、メガネかけりゃちょっとはよくなるんじゃないかなとおもって。ほら、これとかいいんじゃないか?。」
オレは近くにあった太縁で茶色のメガネを手にとって、緑に手渡した。すると、緑はそのメガネを文句を言うこともなくかけた。
「おぉ〜、似合う似合う。お前メガネをかけたほうがかわいいな。」
「えっ、そっ、そうか?。」
緑は少し顔を赤らめながらも、自然とはにかんでいた。彼女は鏡で自分の顔を見ながら、まんざらでもなさそうな顔をしていた。すると店員がやってきて、いくつか違う色や形のメガネを持ってきた。
「今はやりの、このメガネなんかはいかがでしょうか?。」
店員が緑に、メガネを渡そうとしたが緑は、
「すいません。持ってきてもらっておいてなんですが、これでお願いします。」
そう言うとかけていたメガネを店員に渡した。そのとき店員がオレの顔をみて少しニヤけていたのが、オレは気になった。
オレたちは店をでてから、二人並んで帰宅していた。すると緑がパッと何かを
思い出したのか、オレに向かって言った。
「そういえば、お金はどうするんだ?。メガネは高いぞ?。」
「あぁ、いいよ。バイト代あるし。プレゼント、プレゼント。」
「いや、しかし・・・。」
「それはそうと。」
オレは緑の言葉をさえぎるように、少し大きめの声で話題を変えた。
「あれでよかったのか?オレが選んだやつで。」
「えっ?あぁ、うん。」
「別に好きなの選んでよかったんだぞ?。」
「いや、いいんだ。君が選んだのじゃないと意味が無いだろ。」
「えっ?・・・・それどういう・・・。」
どうゆうことか聞き返そうとしたとき、オレ達が歩く歩道のとなりをバスが通り過ぎた。緑はそれをみると、「あっ。」と言って走り出した。しかし、すぐに立ち止まり振り向いて、彼女は言った。
「今日はうれしかったぞ。ありがとう。」
彼女はそう言って、満面の笑みと、「じゃ。」と言う言葉を残してバスへと乗り込んだ。それを見送った後、おれは『あんな笑顔もできるじゃん・・・』と考えながら、ニヤける口元を右手で押さえながらつぶやいた。
「顔赤いの・・・バレてなかったよな・・・・?」