01 乗っ取り
初投稿です。
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第一話 乗っ取り
「さぁ始まりました。今日の目玉の目玉第三レース草野杯、優勝目指して多くの馬達が一斉にスタートしましたー!」
馬達が一斉に走りだした場上を観ながらワシはこれまでにないほど興奮していた。苦節50年の集大成である今回のレース、これに興奮出来ぬ者など日本男児にはいないだろう。
そう遂に今日ワシの野望が達成されるのじゃ。
レースはどんどん進み最後のカーブに差し掛かっている。
ワシの愛馬ハヤテマルは13頭中10位、このままでは負けてしまうだろう。だがワシのハヤテマルはここからが本領発揮なのじゃ。
「ゆけー!そこじゃぁああああ!」
ワシの上げた激に答えるようにハヤテマルは加速。最後の直線でスピードを最高速に上げ先頭まで迫っていく。
「おっと!ここで上がってきたのはゼッケン3番のハヤテマル!
速い!速い!鬼のような速さだ!一気に先頭に追い付いたー!」
「ほれ!そこじゃ!決めろぅうう!」
ワシのテンションもMAXになり手を上げてハヤテマルに激を送る。
ハヤテマルは最後のスパートをかけ、一気に先頭に。
「よっしゃぁあああああああ!ワシの、ハヤテマルの、勝ちじゃぁああああああ!!! 」
よっしゃ! 遂にやった! ワシの理論は正しかったのじゃ!
「ほっほっほ、ワシのか、う、ぐはぁ!」
口から何かが出た。下をみれば床は真っ赤に染められていた。
血じゃ。この量ヤバイかもしれん。やっと長年の研究の成果が現れたというのに、ワシは死んでしまうのか?
嫌じゃ!死にたくない!やっと、やっと始まったのじゃ。
これまで何度も否定された。何度も無駄なことだと切り捨てられた。それでもやってこれたのは、今、この瞬間が来ることを信じとったからじゃ。これからはワシがあやつらに目にものを見せる番なのじゃ。なのに、なんでこんなに力がでないんじゃ。
さっきまであんなに輝いて見えた景色は今ではボヤケ、少しずつ消えていく。
「む、無念。」
ワシには夢があった。それは馬でレースで一番をとるなんてちんけなもんじゃない。ワシの理論をそんな小さなことに使うなんてもったいない。ワシの夢、それは種族で最高の生物を造ること。
サラブレッド等とは天地程の差のある駄馬をワシの理論で品種改良し種族最強にする。その夢はもう目と鼻の先じゃ。あとは他の生物で試すだけだ。ワシは天才科学者。ワシの理論は完璧。
そんなワシが志半ばで死ぬだとぉ?許されん! ワシは絶対に生きる! ワシは絶対に死なん! ワシは死を超越するのじゃ!
急に体が軽くなる。 今まで感じていた痛みも感じない。
ただただ天高く登っていく感覚がした。
――――――――――――――――――
(死にたくない。死にたくない。死にたくない。)
意識が覚醒する。
なに? 今のはイメージ? いや、記憶なのかしら?
私の心に突如現れた一人の男の声と記憶。この記憶は男の死に際の映像だろうか? 壮年いや老人といえる男の声はひどく私の心を揺さぶる。私よりずっと強い声だ。
(最高の生物を作れ、いやワシに造らせろ!)
彼のいうその一言で私の体が急に動かなくなる。体が熱い。なんだろう? 何かの殻が破れるような、そんな感覚を感じる。
(ワシに全てをよこせ! ワシに研究させろ!)
頭が混乱してクラクラする。あぁどうして私ばかりこんな目にあうのだろう?
いつも自分の境遇を呪ってきた。生まれてすぐに両親に捨てられ、年齢制限で孤児院を出たあとは毎日のパンを食べるために自分の体を売る。死ぬことが怖く自殺もできない弱い私。私の精神は限界を越えていたのかも知れない。
だからこんな都合のいい幻聴が聞こえるのだ。でも聞こえてしまったのならそれにすがるしかない。
「あなたは私を解放してくださるのですか?」
(そんなことはどうでもいい。ワシには時間がないのじゃ!)
彼は答えをくれない。でもきっと解放してくれる。私の限界を越えた精神は彼の言葉をそう認識した。
私を解放してくれるのなら天使でも悪魔でも関係ない。ただ彼が私にとっての救世主であるという事実だけが残る。彼の声は強い。それはきっと魂が強いのだろう。私よりずっと。
「分かりました。私の全てを差し上げましょう。ですから私の体だけでも幸せにしてください。」
返答はこない。しかし体に何かが入った感覚がした。
段々意識が薄れていく。私は解放されていく。それと反比例するように体は若くなっていく。まだ心も体もキレイだったころに。これも彼の魂の強さのお陰なのだろうか?
まあそんなことどうでもいい。私は解放されたのだから………
「ほっほっほ。ワシ復活なのじゃ。」
後に神を怖れぬ者と呼ばれた少女の誕生の瞬間であった。




