第178話 説得
ミスラちゃんが捕まってしまった。これから考えられることはミスラちゃんを人質にしてこちらとの戦いを有利にするか、またはミスラちゃんを操ってこちらと戦わせるか、そんなところだと思う。
操られてるミスラちゃんを正気に戻すにはどうするか。魔法無効化が有効だといいのだが。
もしそれが効かなかった場合彼女を無傷で無力化するにはどうすればいいか。
いくつか手はあるが、まずは眠らせる。あとは土魔法で足場を柔らかくしてあまりよく動けないようにする。これくらいしか頭に浮かばない。
後は相手との接触を待つしかない。完全に後手に回ってしまった。
「大魔王ミスラちゃんがさらわれたようだな」
「うん。参ったね」
「んー今度は私たちも手を貸すぞ」
「そうだ。みんなで戦えばなんとかなるだろうガチャガチャ」
「ありがとう。その時は頼むよ」
「マスター町の中央にある公園で騒ぎが起こっています。大魔王様の名前を叫んでいる者がたくさんいるそうです」
「ようし行ってみよう」
公園の中心部で 若い女の子が30人ほどナイフや短剣を持って騒いでいるのが聞こえる。
「大魔王ナオトを殺せ!大魔王ナオトを殺せ!大魔王ナオトを殺せ!」
「何これ。ディセイブルマジック!」
彼女たちは魔法の効果が切れたのかバタバタと次々に倒れていった。魔法無効化が効いてよかった。
私の名前を知っていたということはミスラちゃんに聞いたということだな。 どうせ女好きだとかなんとか言われたんだろう。
私は倒れている女たちの中にミスラちゃんがいないかどうかを探す。どうやらこの中にはいないようだ。
「大魔王危ない!バサバサ」
「エイ!ハッ!」
「な、うぐああああああ」
「アハハハハハハハハハ油断大敵よんグルル」
背中から短剣で刺されてしまった。腹から剣先が出ている。迂闊だった。この中にキュウキがいたとは。
キュウキは仲間たちに追われたのですぐに逃げて行った。
私は剣をぬき治癒魔法をかけた。
「エクストラヒール!やられた。おのれー」
仲間がいてくれたので助かった。一人だったら殺されていたかもしれない。 すぐに治癒魔法をかけたので出血も少なく怪我も軽くて済んだ。
ミスラちゃんはいなかったからもう一度何らかの手で仕掛けてくると思う。そこを狙うしかないな。
もう夕方だしどこかに宿をとるか。みんなで相談をしていると馬の蹄の音が たくさん聞こえてくる。どんどんこっちへ近づいてくるようだ。
全部で50騎以上いるぞ。それになんだこの偉そうなやつは?
「我はこの町の領主ペースト伯爵である。おまえの連れは町の法を犯した。大魔王よ仲間の命が惜しければ指定の場所に一人で来い」
「町の法って何を犯したのさ」
「この領主ペースト様に逆らったのだ」
むちゃくちゃな話だな。とにかく俺を倒したくてやってるんだろうからまあ仕方がないな。
「必ず一人で領主の館まで来るように」
「承知した」
騎馬隊はすぐに屋敷の方に走り去っていった。
「大魔王よ言わんでも分かるだろうが完全に罠だぞ」
「それは分かっているが私が行かねばミスラちゃんが殺されてしまう」
「確かに、そう」
「あなた達にはルームに入ってもらっていざという時は出て戦ってもらえるかな」
「分かった」
伯爵の館に行くと200人以上の部下が 庭の中心を開けてぐるりと取り囲んでいた。
中心にはミスラちゃんがロープぐるぐる巻きにされて柱に縛り付けられている。
「約束通り一人で来たわよ。ミスラちゃんを返してもらいましょう」
「この娘は不敬罪で捕まえたのだ。返せと言われて返すわけにはいかんわい」
「お前が保護者なら、お前が代わりに捕まり罪を償えば放してやろう」
「分かった。私が捕まろう」
必ずこの中にキュウキがいるはずだ。そして私のことを狙っている。場所だけは掴んでおかないとね。
しかしここには女はいない。では一体何に化けているのだ。男になってどこからか見てるのか?
うーん。分からない。とりあえずこいつら全部眠らせるか。俺はベース卜伯爵のとその部下たちをスリープの魔法で眠らせにかかる。
別に魔法名を言わなくても魔法を発動できる。魔法の効果はすぐに表れ伯爵の部下はバタリバタリと倒れていく。
「む。みんなどうしたのだ。なぜ·····」
バタバタバタバタ、ミスラちゃんも気を失ったようだ。
「キュウキ!そろそろ出てきたらどうだ。どこからか見てるのだろう?」
「うふふふふ、流石に2回目は無理のようね」
キュウキは庭の木に同化していたようだ。器用な奴。
「当たり前だ!同じ手が二度も通ずるか」
「フフフ」
「いい加減人間から手を引け!こんなことをしても人から恨まれるだけだぞ」
「これがあたいの仕事なのさグルル」
「なぜだ!もっといいことをして人から崇められた方がいいだろうに」
「昔から決まった事なのだよんグルル」
「私は人を悪い方へ引っ張って行くなと言っているだけだ。別にお前を必ず殺そうとか思ってるわけではない」
「フッどうだかな」
「私の故郷には美味い酒がたくさんある。どうだ!一杯やりながら話せば 分かり合えるかもしれんぞ」
「ふ、ふざけるな誰がそんな手に乗るか」
「まずはこれだ!軽めの酒がいいと思う。毒など入っていないぞ、ほら」
そう言って一杯飲んで見せる。キュウキはこちらをずっと見ている。やはり興味があるようだ。
蓋をしてキュウキの方に一本投げてやった。彼女はソレを落とすことなく受け取った。やっぱり酒は好きなようだ。
「まあ無理して一緒に飲めとは言わん。それを飲んで少し考えてみてくれ」
「······」
キュウキは酒を持って何処かへ行ってしまった。私はミスラちゃんを助け起こす!
「ミスラちゃん!ミスラちゃんしっかりして!」
「う、うーん···もう食べられないよー」
相変わらず寝ぼけた娘だ。だがそれがまたかわいい。
「あ、大魔王様ありがとうございます」
「よかった。よかった」
その後伯爵と一味に暗示をかけて帰って来た。宿を取ってゆっくりすることにした。