第177話 凶竜のキュウキ
円盤に乗り西の山をめざす。山の上から凶竜の気配を探すがそんな大きい獣の気配は全く見つからなかった。
ここにはいないようだ。とすると町の方へ行ってるのかな。私たちの推測が正しければ町にいるはずだ。
町の有力者を探してみるか。10キロメートルぐらい内陸へ向かうとリーゼという町があった。
そこの領主がペースト伯爵と言ってなかなかの悪党のようだ。多分そこに行けば何かわかるだろう。
伯爵の館に着いたので張り込める場所を探してみた。近くに塔があったのでそこから観察することにした。
気配を断って透明化の魔法をかける。これでよほどのことがない限り気づかれることはないだろう。
「今日は観察だけなんでしょう?それだったら町の方へ行ってきていいかな」
「構わないわよ。どうぞ行ってらっしゃい」
いにしえ族の5人は町の方へと繰り出して行った。私は従者は3人とミスラちゃんと5人で張り込みをする。
1時間ほどしたらミスラちゃんは飽きてしまったようだ。
「ねえ大魔王様。お散歩してきていいかな」
「うーん。ミスラちゃん気をつけてね」
喜んで走って行ってしまった。
「アベイル。心配だから分身を一体ミスラちゃんにつけて」
「分かりました。大魔王様」
更に1時間後動きがあった。伯爵の館から女が一人出てきた。虎の獣人だ。
髪の毛は白で手足に少し毛がある。あとは白い尻尾があった。
気を抑えているがかなり力があるように思える。あいつが凶竜で間違いないと思う。さてどうするか。もう少し観察してみよう。
私は姿を隠したまま風下から女の後をつけてみた。どうやら町の中に行くようだ。
なんと酒場に入ってくではないか。凶竜なのに酒を飲むのか?面白いやつ。 酒場では誰と話すわけでもなく一人で静かに飲んでいる。
見たところなかなか綺麗な顔をしていてスタイルもいい。周りに寄ってくる者もいるが適当にあしらってとにかく飲むことに徹している。よっぽど酒が好きなのかな。
1時間ぐらいしたら金を払って出て行った。私はまた尾行を続ける。今度は町の外に出て行くようだ。どうやら山へ帰るらしい。
「おい!お前!あたいが気がつかないとでも思っているのかグルル」
何!風下から近づいたのに、これだけ距離を置いてるのにばれたのか。すごいやつだな。
「お前なかなかやるな。尾行がバレたなんて初めてだよ」
「お前がトウコツを殺ったのかグルル」
「あいつは話が全く通じなかったからな。いきなり戦いになって大変だったわ。敵討ちでもするつもりか」
「誰があんな奴の仇など打つものか。死んだら死んだ。やつが弱かっただけのことよんグルル」
「へー冷たいのね。仲間じゃないんだ」
「誰があんな奴仲間なものかグルル」
邪悪だけどまだこいつの方が話ができるな。
「お前たちはなぜ人を悪い方に導くのだ」
「あたいたちは凶竜。邪な心を人に植え付けるのが仕事だもの当たり前じゃないグルル」
「なるほどね。やめる気はないの?」
「仕事を辞めちゃったら生きてる価値がないじゃないグルル」
「それじゃあここで倒させてもらいます!」
「うふふふふ、それは楽しみよんグルル」
私は日本の剣を抜いて構える。相手もバスタードを抜いて身構えた。
「私は大魔王ナオ。あなたは?」
「あたいは凶竜のキュウキよんグルル」
ガンガンガン!キンキンキン!すぐにお互いに距離をとる。こいつ凶竜って言うけど剣も使えるのか!なんてやつだ。
「大魔王様ー!美味しいお菓子を見つけましたよ食べませんか」
「今は来ちゃだめ!危ないわ!」
「うふ。えい!グルル」
キュウキはバスタードを私に投げつけ その間にミスラちゃんにとりついた。アベイルの分身が防ぐがキュウキに息を吹きかけられたら抵抗を止めて二人とも一緒に動き始めた。
「人を操れるのか。なるほど」
そんなこと言ってる場合ではない!何とかしなければ。
アベイルの分身は溶けて形がなくなってしまった。本体の方が支援を止めたんだな。
しかしミスラちゃんの場合はそうはいかない。完全に操られてしまっている。このままでは悪人に仕立て上げられてしまう。
「弱い奴ほど簡単に操れるのよんグルル」
「おのれー」
「ついてきたらこの娘を傷つけるわよんグルル」
「うぐ」
ミスラちゃんの命には代えられない。私はキュウキの追跡を諦めた。従者たちに合流する。
「ミスラちゃんが凶竜のキュウキに 捕まったわ。なんとかしないと」
「すみません大魔王様。私の分身をつけておきながら」
「いやあれは防ぎようがないわ。ただやつの足取りを追わないと」
私はアベイルに魔力をあげて彼女に追跡を開始してもらった。しばらくすれば足取りはつかめるだろう。
森の中
「ねえあなたはあの大魔王っていう人の仲間なの?グルル」
「はいそうです。大魔王様は素晴らしいお方です」
「一体何が素晴らしいのんグルル」
「魔国を統一しました。各地で困っている人々を助けて回っています」
「なるほどね。そういう奴なら無性に倒し来たくなってきたわグルル。あの女自身に弱点はないの」
「大魔王様は女の娘が大好きらしいです。元々は男です。都合によって姿を変えます。今は女の子をしているだけです」
「何それ!そんなことができるの?グルル」
「はいできます。大魔王様は大抵のことはできます」
「はーすごいわねグルル女好きかー それならやりようはいくらでもあるわんグルル」
「相手は強そうだから二つ三つ手を打っておいた方が良さそうね」