独立宣言からの生徒たちの反応。
火風炎帝アシュラ。
作者名です。
朝の全校集会で校長が突然言い出した。「今日でこの学校は国から独立します……」と。
生徒が並んで立っているその中で、恵比寿は壇上の校長に訊いた。「校長先生……どういうことですか?」
校長は色々思うことがあって泣き出し、涙を手で拭う。「どうもこうもないです。私はこの国に落胆しました。だから私が代わりに皆さんが求める理想の国を作り上げるのです……」
「……そうっすか」
「アナタたち生徒は今からこの学校から死ぬまで出られません」
「……え……なんで?」
「ここは国から独立するからです」
「それで、僕らは別に国民になるとは言ってないですけど……」
校長はさらに泣く。「アナタは大陰影帝国に生まれて《国民になるとは言ってない》と言って税金を納めないつもりですか?」
「いやいや、校長先生。自分がおかしなこと言ってるの分かってて言ってますよね?」
「人は学習し、変化する。恵比寿君だって今まで生きてこれたのはそうした行いをしてきたからです。今、この状況をおかしいと思うアナタがおかしいと思いなさい」
「いや、ちょっと――」
恵比寿が言う最中に銃声が聞こえた。体育教師の崩川一郭が体育館の天井に向けて銃を撃ったのだ。
銃声にビクっとした花楓舞人が跳弾を太ももに受けた。「いだだああああああ」
悲鳴を聞いてニヤニヤしながら崩川が声を張り上げる。「校長先生が独立したと言ったらしたんじゃあああああっ。ごちゃごちゃ言うなお前らああああああ」
前日までは生徒たちから愛嬌があって爽やかな優しい先生と思われていた崩川。今は昭和の漫画に出てきそうな暴力教師にしか見えない。
校長が一度だけ手を叩いた。「生徒諸君。いや、わが国民よ。君らの幸せは私が保証する」
「……お、横暴だこんなのっ」
「家に帰らせてもらうっ」
「こんなとこに居られるかっ」
生徒たちが声を張り、出ていこうとすると今度は数発の銃声が響いた。
崩川先生が生徒の集団に銃口を向ける。「止まれお前らあああああ。なんだああああその目はあああああ。どっちが先に死ぬか試してみるかあああああっ」
崩川先生の豹変ぶりに彼の劣等感を探る生徒たち。
誰も逃げ出すことなく、生徒たちは教室に戻ることとなった。
2年1組に戻る亜門公等は隣の金字宝山に訊く。「ホウくん、この学校から逃げることって出来ないかな?」
廊下から窓の外を見た金字が言う。「ちょっと見てよ」
同じく外を覗く亜門。「なんだ? 外に大人が大勢いる」
「たぶん、統郷学院に全国の教師が集結し始めてるんだ」
「な、なぜですか?」
「統郷学院は生徒数2000人以上のマンモス校。俺たちを本気で学院から出さないようにするにはそれだけの人員が要る」
「教師がココに集まるその理由は?」
「大陰影帝国の教師の頂点に立っているのがウチの校長先生なんだ。校長の呼びかけに応じた教師が集まってきてるんだ」
「ウチの校長先生そんなスゴい他人だったんだ……流石だぜ。じゃなくて、どうしようか」
「逃げることは出来なくても、教室やどこかの部屋に立てこもることなら出来るかもしれない。立てこもっていればその分、外から助けにくる他人が俺たちを助けやすくなる」
「どうするの?」
「当然、今俺たち2年1組の前後を歩いてる教師たちも銃を持ってるはずだ」
「あー、デザートイーグルね。映画とかでよく出てくる。《鷹をフルーツにしちゃう》なんて。こわぁ」
「鷹じゃなくて鷲ね。えーと、拳銃なんて持ってても生徒人数を考えれば闘っても教師の方が負ける。彼らの持ってる拳銃は脅しの意味合いが強い。崩川先生は拳銃を初めて撃った感じではなかった」
「拳銃を撃ったことがあるのか!?」
「いや無い。崩川先生は事前に射撃練習をしていたんだろう。他の教師だって練習してるはずだ。となれば拳銃持ってても俺たちに勝てないことは把握してるはず。内心ビクビクしてる。一斉に攻撃すれば怖くて動けないはずだ。逃げるなら今だね。交代直後の浮足立ってるピッチャーの初球を狙うのは野球じゃよくあることだ」
「学校を使って独立国家を作ろうなんて思想に賛同する他人達だよ? 崩川先生は弾が当たった生徒を見てニヤニヤしてた。前後の教師もビクビクしてるんじゃなくて人に撃ってみたくて仕方ないと思ってるかもしれない」
「どういう想いであるにしろ今は教師と離れられるかもしれないときだ。相手がビクビクしてると断じないと恐怖が勝りそうだよ。ていうか昔からこういう状況をよく妄想してたんだよね。その世界じゃ俺はアルティメットアーミーっていうドクターマルコに改造されたサイボーグで世界戦争の末、世界人口の大半を占める獣人を――色々あって入手した伝説の古代兵器で倒していくSF小説なんだ」
「そっすか……僕には考えもつかなかった」
「絶対ワクワクするから今度書いて送るよ」
「読んでみたいな」本音だった。その後、話し合って教師を制圧したあとは工具室に逃げることにした。「……じゃあ実行してみるか」亜門は後ろの数葉浄情を見た。「聞いてた? やってみない?」
「やってみようか。オナニーしたいし」
連鎖的に計画は広まった。後ろの生徒に耳元で囁こうとした生徒に教師が注意する。計画を聞いた8人で実行することにしようとした。
それを生徒の河野黄河に止められた。「警察か軍隊が必ず俺たちを助けに来てくれる。今ここで俺たちが動いて教師が撃ってきたとしたら、弾に当たるのは俺たち以外の人間かもしれない。それは良くない」
尺を取った計画は一瞬で中止になった。
考えてみれば――始まりに計画を実行すれば相手がオドオドしてる、というアドバンテージがあるし、ある程度時間が流れた後に計画を実行しても、何がどうなっているのか分かった後の行動という点でアドバンテージがある。いつ計画を実行しようと校長が生徒たちを生かす姿勢でいる以上、コチラが後手になることはない。
今行動しなくても良いか、と亜門は思った。
教室に連れられて入れられる。
そこで1年を担当する教師の佐古条三倭子が教壇に立った。「先ずアナタたちが国民になる上で守ってほしい規則があります。それは異性交遊の禁止。次に、女子生徒は決められた日に校長先生に性の奉仕をすること」
生徒を幸せにすると言って学校に閉じ込め、その実、生徒に奉仕を求める。
悪徳教団のようだ。
違うのは生徒を洗脳出来てないところ。暴力による抑圧が大半を占める。
完全に校長が主人公のエロゲーとなっている。
生徒たちは自由のために戦うべきだ。
「生徒たちはこの統郷学院で快適な生活を送るために必要な作業に従事すること。この学院から逃げ出さない事。そもそも逃亡を企てない事。この5つのルールの内のどれか1つでも破った生徒は体罰を受けてもらいます。ルールを破ったとき、その犯罪性によっては死罪もありえます。学校からの逃亡を企てたものは重罪。逃亡を実行したものは当然死罪です」
教師は出て行った。ざわめく生徒たち。
慌てる鉤縫歯車は後ろの生徒を見る。「こえー。どうすんだよ。こえーよ井戸屋」
「ナメられてるのは分かった」井戸屋恭が上を見る。「ここまで横暴な政治は、というか政治じゃないな。ただの監禁。生徒の奴隷化だ。心配しなくて良い。俺がどうにかする」
「どうにかするって……武器はどうする? 教師は銃を持ってる。暢気にオナニーも出来ない。どうすりゃいいんだ」
「どうするもこうするもトイレか外庭で射精するしかねえだろ」
「いやちょっとまって。そうなんだけどそうじゃなくて、実際的にどうしようか?」
「ていうかなんで俺たちバラバラになって話してんだ。ここにいる生徒全員で話そうぜ」
「ちょっと待った」鍵縫は天井の隅の監視カメラを指す。「目立ったことしちゃ逃亡を企てたことにされちゃうよ」
「ここに監視カメラがあるってことはこの教室が俺たちの私生活の場ってことか? 他はおそらく教師自身に見張られるだろうし」
「まだ分かんないよ。プロットが出来てないんだから」