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序夜 君が消えた明日

 春隣の空。

 どこか哀しげな、愁いの風。

 それは、君が消えた明日へと繋がっていた空。

 それは、さよならが消失点に呑み込まれていく空。

 もし、いつか訪れる「さよなら」が、こんなにも涼しげなら。

 それも悪くないのかもしれない。




 ◇◆◇




《もし、これを君が読んでいるのなら。

 どうか最期・・まで、目を通して欲しい。

 僕と、死者達の辿った物語の、消失点にある「結末」を。

 そして、僕が知らない間に消えてしまった、『君』への少し変わった恋心を。

 つまるところ、これは『失恋ラブレター』だ――



 僕が倉敷千草への関心を抱いたのは、当の本人が死んだ後の事だった。

 彼女はもうこの世にはいない。彼女の痕跡を辿ろうにも、彼女を葬った煙は、とっくに冬空に溶けてしまった。


 無謀だと言うことは分かっていた。

 僕は彼女を何一つ知らないし、ましてや彼女は生きてすらいない。

 「生前の彼女」とは喋ったこともないし、見たこともなかった。

 それでも僕が彼女への関心を抱き続けたのは、それが僕に初めて植え付けられた「他人への恋心」だったからに他ならない。

 初めて他人に抱いた、誤魔化しきれない恋慕の情だったのだ。

 そしてその恋に気付いた時には、もう僕らは遠く離れていた。


 でも、その願いは。その想いだけは、届くはずもなかった。届ける訳にも、いかなかった。

 彼女と僕は、一夜限りの出会い。

 僕は彼女と一つの夢を見て、そして彼女を送り出す。

 胸に秘めた想いを、そっと奥に仕舞って……。


 あの冬。僕らはどこまでも青くて、春空のように、どこまでも淡い色をしていた。

 そして、誰も僕らを許してはくれなかった。


『隠しとってごめんな。』

『あの人な、ホンマは自殺ちゃ…』


 不意に鳴った携帯の着信音。

 買った時から一度も変えていないシンプルな待受画面に表示された、二通のメッセージ。

 途中で途切れてしまったその言葉の先を、僕は無視して携帯をポケットに突っ込む。

 今更言われなくても、分かっていたことだった。


 その後も何度か鳴った携帯の着信音を全て無視して、僕は歩き続けた。

 玄冬の厳しい寒さも何処かへ退き、白さが滲み始めた空。

 まだ寒いのに、暦上の季節では、もう春が胡座をかいている。

 その麗らかとは程遠い季節への違和感が、彼女の少し空気を読まない性格と重なって、僕は一人見上げた空に目を細めた。


 千切った綿を散りばめたような雲の群れが、出会いと別れを運ぶように気忙しく流れていく。

 僕もその雲を追って、歩を進めた。

 彼女と出会い、そして別れた、あの公園に──

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