チキンカオスワールド※ホラーです
廃園になった遊園地の門の前でたたずむ三羽──彼らは『チキンになろう』運営本部の片隅にある『チキン捜査課』の面々である。
『キチンとチキンに』を合言葉に、規約違反をしている作品がないかなどをさがすのが仕事だ。課長一羽、部下二羽からなる小さな課だ。
「チキンステーキ課長、ホントにここに入るんですか」
若い鶏がビクビクと隣の鶏に尋ねる。
錆びついた門は、鎖が巻かれ厳重に閉ざされている。朽ちた感じで、昼間でも不気味な雰囲気がある。
「コケ、スパイシーチキンくん、しかたあるまい。ホラー企画に使う遊園地の下見を任されたのだ。見て、報告書をかかねばならん」
若い鶏の質問に年配の鶏が、ビクビクと答える。
「この遊園地には度々“子どもがいなくなる”という噂があったようです」
もう一羽の若い鶏も、ビクビクと課長に話しかけた。それを聞いた課長は、元気になった。
「ほう、プレミアムチキンくん。と、いうことはロリショタか。ならば、我々は大丈夫だな」
課長の言葉に若い鶏達は、ハッとしたように瞬きした。
「ですね」
「ですよね」
部下二羽も元気になった。
「では、いこー!」
課長は叫ぶと、鎖を巻かれ厳重に閉じた、役立たずの門の脇の、崩れた壁から中に入った。部下二羽も続く。
「ぼ、ぼ、僕らはもう一人前♪世知辛い世の中に揉まれてサー♪薄汚れておっきくなった♪おいしくないよお~♪」
廃墟となった遊園地の中を、課長は自作の歌を歌いながら進んだ。何かに聞かせるように叫ぶように声を張り上げた。
「「コ、コ、コケッコー♪」」
部下二羽も歌に合いの手を入れる。
だって、黙ってると、とっても怖いから。
「あ、ジェットコースターです。……」
ピタリと止まったスパイシーチキンの声に、他の二羽も足を止め、鉄の施設を見上げた。赤錆がところどころに浮いていて、呪われていそうだ。
「このジェットコースターで『事故』があったとは聞くのに、どんな事故だったか、誰に聞いても答えが違うそうです」
震える声でそう言ったプレミアムチキンに、課長は頷いてみせた。
「伝言ゲームだな。人づてになっていくと、まったく変わってしまうんだよ」
二羽はバッと課長の方を見た。
「ですね」
「ですよね」
「あれ、乗りたいかあ?」
頷き合う若い二羽に、課長はバッと片羽根を持ち上げると、ジェットコースターの方を指し示した。
「まったく思いません」
「乗りたくないです」
二羽の答えに課長も深く頷いた。
「私もだ。呪われるようなマネは、したくないよな。あるのは確認したし、とっとと、次へいこー!」
しばらく歩くと別の建物が見えてきた。
「あ、あそこがきっとアクアツアーの施設です」
スパイシーチキンが、クイッと顔を動かして、建物を指し示す。
「あそこには『謎の生き物の影が見えた』という話が何度かあります。今でも見えるそうですよ」
またプレミアムチキンが、震える声で課長に報告する。課長はジッと建物を見つめた。
「……『謎』……謎は謎だから謎なんだ。謎じゃなくなったら、謎じゃないんだ。謎を暴くようなマネをしたいと、私は思わない」
「ですね」
「ですよね」
三羽はアクアツアーの施設の前を、足早に通りすぎた。
「お、あれは入ると中身が入れ替わるとかいう、ミラーハウスだな。人が変わったようだと言われる人は、ミラーハウス出身かもしれない。入りたいかあー?」
課長が歩きながら、脇の建物を羽根で示す。
「全然」
「まったく」
課長の問いかけに、部下二羽は足を止めずに答えた。
「よーし、ミラーハウス見た。次、行くぞ」
三羽は、チラッと視線を建物にやっただけで通りすぎた。
「あー、これがドリームキャッスル」
「地下に拷問部屋があるかもしれないという、あれですね」
若い二羽がお城の前で、ピタリと足を止める。何かを刺激されたのか、目を輝かせて城を見た。カラフルな壁に蔦がはって、怪しい雰囲気が出ている。うっかり通りすぎた課長は戻った。
「君たち、好奇心かい? あるのかないのか、そんなおネエさんの股間を、確かめるようなマネをしたいのかい」
課長の方を見て、部下達は、青ざめた。
「危険ですね」
「愚かでした」
「そうそう、猫だけじゃなく、鶏も死んじゃうよ? そーゆーのは、好奇心旺盛なやつにまかせよーねー。命かけても確かめたいやつにさ」
課長の説得に、二羽はコクコクと頷いた。三羽はお城も通りすぎて、サクサク進む。
「お、あれはメリーゴーラウンド。誰も乗ってないのに回るそうです」
スパイシーチキンが羽根で前をさす。
「とんだ赤字だな」
課長はしかめ面をする。(鶏のしかめ面)
「明かりが灯ってるのは、とても『綺麗』らしいですよ」
続けられたプレミアムチキンの言葉に、課長は首を振った。
「夜は鳥目には、厳しいな。串刺しの馬達よ、悪いな。見られなくて残念だ」
課長は、遊具の馬達に頭を下げた。
「あ、でも明るいなら、そこだけなら見えるんじゃ……」
ピシ、バシと余計なことを言ったプレミアムチキンの頭を、両脇から謎の羽根チョップが襲う。
「「行くぞ」」
クラクラしているプレミアムチキンに、他の二羽が声をかけた。
「……観覧車だな」
歩みを止めて、円形の大きな施設を課長は見上げた。
「ここ、誰もいない筈なのに、声がするそうですよ」
「ええ、小さな声で『出して……』って」
部下二羽も課長の両脇にくると、観覧車を見上げた。
『出して……』
「「「コケー!」」」
小さな声が聞こえて、三羽は飛び上がって腰を抜かした。立ち上がろうとしても、足に力が入らない。
『出して……』
また声がした。課長はゴクリと唾を飲み込むと、やけくそで怒鳴った。
「出てこい!」
『出して……』
また声がした。今度はスパイシーチキンが叫んだ。
「出てこい!」
『出して……』
再び声がして、プレミアムチキンも声を張り上げた。
「出てこい!」
『出して……』
「「「出てこい!!」」」
三羽が声を揃えて叫ぶと、しんと静かになった。
「ど、どうやら声だけのようですね」
「ひ、昼間から、とんでもないですよね」
若い二羽は、冷や汗を羽根でぬぐう。
「ああ、真っ昼間から出るとはな」
課長は頷くと立ち上がった。もう足腰は大丈夫そうだ。クルリと後ろを向いた。
「逃げるゾー!コケコッコー!」
叫んで誰よりもはやく、駆け出した。
「「コケー!コケッコー!」」
部下二羽も、慌ててその後を追った。
翌日、本部の片隅にある部屋で、課長は報告書をまとめていた。
『とっても怖かった。鳥肌がたった』と感想をつけて、提出するつもりだ。
コンコンと嘴でドアをノックするような音がして、部下二羽が部屋に入ってくる。
「チキンステーキ課長」
一羽が足早にやってきて、課長のデスクの前に立った。
「何だね、プレミアムチキンくん」
「あれから考えたのですが、あれ、ホントに誰かが助けを求めていたら、どうしましょうか」
プレミアムチキンの言葉に、課長は目を見張った。
「お化けじゃなくて、迷いこんだ誰かが、閉じこめられてしまったのかも……」
後からデスクの前に立った、スパイシーチキンが言葉を付け足す。二羽に視線を交互に向け、課長の鶏冠がピクピク震えた。
「今ごろ、ホントのお化けになっちゃってたりして……」
「見捨てた感じ……?」
二羽は顔を見合わせて、言い合う。課長はガタンと音を立てて、椅子から立ち上がった。
「コケー! すぐ警察に連絡するんだ。ヤバイじゃん。もしそんなことだったら、うっかり死んじゃってたら……」
課長はバタバタと羽根を上下させた。
怖い──怖すぎる。
下手をすると、ずっと罪悪感に苛まれる生活を送るようだ。それに……
「呪われちゃうだろー!」
課長の悲痛な声が部屋に響き渡った。
この作品は『これ、ホラー!?』と『びっくり』感想を貰うことを目指して書きました。(でも、他作品を読んで反省中──みんな、怖いよ!)
とっても疲れたよ……201件読んだよ。ホラー企画参加したけど、もう読めないや。ごめんよ、これ以上はトイレの戸が閉められなくなるんだ。胃も性格も悪くなりそうなんだ……今、グルグルが見たい!銀魂で癒されたい!この世界に踏み込んだ、私が悪うございました……。