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 今日も今日とて平和………でなく、ドロドロと陰謀渦巻く花園の女達の出るパーティー。


「(暇だ)」


 セレスティアは壁の花になりながら、ダンスホールの中央を眺めた。


「陛下、次は私と踊ってくださいまし」

「いいえ。次は私ですのよ」

「まあまあ、そう急かないでくれ。夜は長いのだから、いくらでも踊れるだろうに」

「「キャーー!」」

「あ……(寒疣たった)」


 派手な色の、胸元や肩や背中が広く開いたドレスを着て、陛下ことユークリッドに擦り寄る女たち。身体中に身に付けた宝石類が目に眩しい。

 まだ夜も浅く、パーティーは始まったばかりだ。

 ちなみにセレスティアは清楚風で露出の避けたデザインのドレスを身に付けている。


「(そもそも、冬に何故あんな露出の激しいドレスを着るのかが分からないね。……そして、陛下の猫被りが滅茶苦茶気持ち悪い)」


 女たちと茶番を繰り広げるユークリッドだが、彼の受難はここからだろう。

 空気がざわつき、一人の妾妃の入室が伝わってくる。


「カトレア様よ」

「カトレア様?早く陛下のお側を離れなければ」


 さっと、蜘蛛の子を散らすようにユークリッドの側を離れ、入室してきた一人の妾妃の周囲を取り巻く妾妃たち。


「皆さんごきげんよう。陛下も、ご機嫌麗しゅう。遅くなりまして申し訳ありませんわ」


 ルビーのような、美しい赤を身に纏う女。赤い髪を高く結い上げ、つり目がちなルビーの瞳は強い光を湛えている。


「(うわぁ……いつにもまして気が強そうな人。ドレスと宝玉も格が違うね。金かかってる。うん。やっぱりさすが侯爵家のお嬢様なだけあるねえ)」


 彼女は後宮でもう一人の令嬢と対立し、二大勢力を作り上げている。


「大丈夫。女性の支度が長くなってしまうのは知っているからね。それに、私のために美しくなってくれているのだから」


 キャー、と黄色い声が。

 セレスティアも、キャー、と声を内心であげる。

「(キャー、キモッ)」


 そんなこんなで彼らを眺めていると、また人々のざわめきが。


「ルクサーヌ様がいらっしゃったぞ!」


 また蜘蛛の子を散らすように人が散って、取り巻きを大勢引き連れた妾妃が現れた。


「(まぁた、この人は上手に優雅さを演出するよね。こう…なんというか笑顔が胡散臭い)」


 水色の髪を申し訳程度に結い、殆ど背中に流している、おっとりとした感じの女。彼女はカトレアと対立する勢力を率いる人間だ。


「あら、カトレア様もいらしてましたの。陛下、ご機嫌よろしゅうございますわ。陛下はいつも麗しくていらっしゃるのですわね」

「お上手だな。私などより乱れ咲く花々のようなあなた方の方が美しいのに」

「まあ、陛下もお上手ですわ」


 おほほほほ、と笑う彼らを見たセレスティアは―――鳥肌のたった腕をひたすら擦っていた。


「うわぁ(ホント何あれ。キャラが違いすぎて気色悪いし。何なのあの爽やか好青年!ユイってどこに行ったのさ)」

「……あの」

「は、はい?」

「ご気分が優れないようでしたら、休める場所にご案内しましょうか?」

 寒くて震えていると勘違いでもされたのだろうか。身形の良い貴族子息らしき人に話しかけられた。

「いえ、大丈夫ですわ。少し寒くなってしまっただけですの。一枚上着をもってこさせておりますわ(嘘)。ご親切にありがとうございますわ」

「そうですか。それはよかった。ならば、一曲踊ってくださいませんか?」

「ええ。喜んでお受け致します」

 まさに病弱で儚げなご令嬢(既に一応人妻だが)の完璧な擬態でセレスティアは答えた。

 もう既に踊り始めている人は幾人もいるのだ。



 それを目の端に捉えていたユークリッドは、口が引き攣るのを必死に堪えていた。

「(何だあれ。全くの別人格だな。いつもの名無しが行方不明……)」

 つまり二人は似た者同士なのだ。

「(しかも夜会嫌いが明白だし…………爆笑して良いか、もう、俺)」

 ユークリッドは我慢できず、テレパシーをクロとヒースに贈る。

 ―――今すぐに、腹を抱えて笑いだしたい。

 同じ光景を見ていたであろうクロ。

 ―――俺今大爆笑中っす!

 何も知らないヒース。

 ―――陛下も隠密殿も、高度な魔法を何て事に使っているんですか!?

 怒られた。





 ダンスを踊っているセレスティアは、ドレスの袖や裾に少しあしらったレルトの毛皮を誉められる。


「とても美しい毛皮ですね」

「ありがとうございますわ。レルトの毛皮ですの」

「おや……それでは本日の陛下のお召し物と同じものを?」

「ええ。はからずもそうなってしまったようですけれど、わたくし大変嬉しゅうございますの。遠い彼の方がお側に感じられて(…一緒に狩りに行って山分けしたんだけどね。むしろ今日の方がとてつもなく遠いのだけどね。あいつ誰だよ最早)」


 そんなことを考えつつも、王に焦がれる乙女のようにユークリッドを見たセレスティアは、一目見るなりお互いにばっと目を逸らした。


「ぶはっ(なんでこのタイミングで目が合うんだ!?)」

「(なんでこのタイミングで目が合うの!?)」

 どぎまぎして目を逸らす。

「(噴き出してしまったんだが!なんでこっち向いているんだ!?)」

「(目が合ったら『うわ〜』って顔しちゃいそうなんだけど。もしかして今してないよね?)」


「どうか、されましたか?」

「いえ、なんでもありませんの」

 冷や汗をかきつつ取り繕うセレスティアと同様に

「どうかなさいましたの?」

「いいや、なんでもないよ」

 ユークリッドも取り繕っていたのだった。


 しばらくしてセレスティアは宴を早々に抜け出すことにする。セレスティアがプリンセスドレスの内側で毒薬媚薬なんでもござれを調合していることがリリアにバレてから、そういうデザインのものを一切着せてくれなくなったため、ひどく退屈なのだ。

 こういう時は病弱設定が効を奏する。セレスティアは、薄暗い通路でそっと息を吐いた。


「あー疲れた。陛下が気持ち悪かった…」

「えー!?滅茶苦茶面白いじゃないですか〜!セレスティア姫、あんたも最高でしたよ。『陛下がお側に感じられて、ウ・レ・シ・いったー!?」


 暗がりにいたクロの頭上にぼとぼととその辺の石ころを落とす。セレスティアは無言でその場をあとにした。


 そこまで楽しくはなかったが、セレスティアは満足していた。旨い酒と高級な食事を飲食できたからである。本当なら持ち帰りたいのだが、セレスティアの対外的なキャラクター上不可能である。こういうとき、心の底からユークリッドの空間魔法を羨ましく感じるのだった。

有難うございました

新キャラに関しては赤いツンデレと水色の腹黒と覚えてください

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